「時をかけるな、恋人たち」からフランス映画を感じ、“マルチバース大奥”に興奮！新連載「ナタリードラマ倶楽部」始動

取材・文 / 尾崎南・脇菜々香 題字イラスト / トモマツユキ

ドラマウォッチャー最大の悩みは「お風呂の時間」

──新連載のドラマコラムということで、ドラマウォッチャーのお二人にお越しいただきました！ 初回なので、まずは普段どんなふうにドラマと接しているのか教えていただけますか？

綿貫大介　視聴数は数えていないのですが、自分の人生におけるテレビのウエイトは高くて、中でもドラマはずっと追いかけています！ 時代を反映したものであること、そして動画配信サービスに比べて（民放であれば）無料で享受できる受動的なメディアであるという部分でも意義を感じています。

──地上波で放送している作品は基本観ているということですか？

綿貫　本当にヤバい作品じゃなければ（笑）。近年の“コンテンツ多すぎ問題”でもあるんですけど、最近は同じ時間帯にドラマが被りすぎてて、「火曜何観る？」「水曜どうする？」みたいな感じ。水曜は「水曜日のダウンタウン」もあるので大激戦区です。それに基本リアタイしたいので、お風呂の時間が組めない。

明日菜子　わかります！ （理想の時間にお風呂に入れないと）リズムが崩れますよね。

──ドラマの話で、まずお風呂問題が浮上すると思っていなかったです。明日菜子さんはいかがですか？

明日菜子　私は、今期は朝ドラと大河を合わせて29本ほど観ていますね。

──多い！ それだけの数を観るようになったきっかけってあるんでしょうか？

明日菜子　私は前職を辞めた2017年頃、“人生暇になったから何かしようかな”と思ってドラマを観始めたらハマりました。でもその頃、周りに「ドラマ観た？」って聞いたら親も友達も「全然観てない」と言ってたのがすごいショックで。そのときに“ドラマが面白いってことを私が世に発信しないといけないんじゃないか”と思いまして。

綿貫　その気持ち、めっちゃわかります。私は編集者・ライターとして仕事をしているんですけど、ドラマについて書いてほしいという依頼のときは、「あくまで“テレビライター”ではなく、テレビを愛する“テレビっ子”としてでよければお受けします」といつも言っていて。世にこの面白さを伝える使命感を持っています。こんなに面白いものをみんなが観てない!?と。

明日菜子　無料で毎週放送しているのに！ 私の発信によって面白さをわかってもらうには、本数を観るしかないと思ったのが始まりですね。

「時をかけるな、恋人たち」がおしゃれなのは“描きすぎない”ところ（明日菜子）

──ではそろそろ今期のドラマの話を。今回の2023年秋前編では10月2週目までに始まったドラマを対象としますが、その中で特に面白い作品、楽しんで観ている作品は？

明日菜子　現段階で「時をかけるな、恋人たち」がずば抜けているかなっていう感じですね。

綿貫　大好き！

──どの時点で感じましたか？

明日菜子　1話で好き！って思いました。未来だけどレトロな感じもかわいらしいし、最近大人が楽しめるラブコメってあったのかな？って考えたときに、不倫とかしかないよなあと。

明日菜子　「時をかけるな、恋人たち」はメインの2人（吉岡里帆・永山瑛太）のキャスティングも相まって、今まで胸キュンドラマになかなかハマれなかった人たちが楽しめるようなラブストーリーになってるんじゃないかな。

──私は瑛太さんの様子のおかしさが好きです。

明日菜子　わかります！ タァイムトゥラヴェル（永山演じるタイムパトロール隊員・井浦翔の真似をしながら）。

綿貫　リアタイしたい作品で言うとこれが一番外せない。何がすごいって、フジテレビの火曜23時枠（関西テレビ制作の「火ドラ★イレブン」枠）ってまだ誕生してからの歴史が浅すぎるので視聴習慣がなかったんですよ。

明日菜子　「ホスト相続しちゃいました」「ウソ婚」に続いて3作目ですもんね。

綿貫　それなのにもう定着しました。私の火曜23時を捧げる場所ができた！ 流れ的にイケメンドラマ枠なのかなと思ってたので自分はターゲットじゃないと思ってたんですけど、ここでSFラブコメやるんだ！と思って。設定的に30分がちょうどいいっていうのも正直あると思うんですけど。

明日菜子　楽しいままで終わるんですよね。

綿貫　複雑さがなく、ストーリーの起承転結がはっきりしてるから見やすいし、キャラの濃さ、オープニングの映像から曲から全部うまい！ ちゃんと演出に一貫性があって、演劇とコントの中間みたいな。さすがヨーロッパ企画の上田誠さんの脚本。ドラマっていうより舞台とかに近い見え方ですよね。今期のラインナップの中でのその特殊さに惹かれたのかな。

明日菜子　フランス映画っぽい香りもしますよね、おしゃれな感じ。なんでそう感じるのかなと思ったら、描きすぎないんですよね。すごくいいところでふっと引くんですよ。4話で言うと、（男女お笑いコンビのボケとしてゲスト出演した）3時のヒロインの福田麻貴さんが最後に空を眺めて終わるじゃないですか。相方との別れにわんわん泣いたりせず、何もセリフを発さずに外に出ると青い空が広がっていた、みたいな演出がめっちゃいいじゃん！と思って。

綿貫　セリフで説明させられちゃう作品も多いけど、しっかり削ぎ落としてる。毎話エンディングで出すその回の後日談も、ちゃんと見せるぞっていう気合いがいい。

明日菜子　でも、いい意味でなんてことのない話っていうか、そこの演出もうまいんですよね。

綿貫　変なラブストーリー考察もいらないし、（タイムパトロール隊員に）すぐ捕まるしね（笑）。安定感ありますよね。

明日菜子　各話のサブタイトルがタイムトラベルものや時間が鍵になる映画のタイトルとリンクしていて、もとの作品タイトルのフォントを使ってるらしいですよ。

綿貫　映画ファンが気付ける仕掛けってめちゃめちゃ最高じゃないですか！

※編集部注：第1話の「アバウト・タイムパトロール」は映画「アバウト・タイム～愛おしい時間について～」、第2話の「10年先の彼女」は映画「1秒先の彼女」、第3話の「きみがぼくを見つけた夜」は映画「きみがぼくを見つけた日」、第4話の「ある日浅草のどこかで」は映画「ある日どこかで」が元ネタではないかと、SNSを中心に映画ファンが指摘している。

“マルチバース大奥”に大興奮！（綿貫）

──ほかに注目している作品は？

綿貫　「大奥 Season2」は完璧だなって思います。リアタイでの“火曜何観る？問題”、私は「家政夫のミタゾノ」「大奥」「ミワさんなりすます」「時をかけるな、恋人たち」の流れですね。

明日菜子　ずっと画面から離れられないですね！

綿貫　特にSeason2で言うと、“マルチバース大奥”になっているじゃないですか。過去のフジテレビ版「大奥」のキャストがNHKの「大奥」にも出てる現象が面白いですよね。安達祐実さんとか仲間由紀恵さんとか。あと年齢を重ねられたベテランの俳優たちが、普通の現代もののドラマだとどうしてもお母さん役とかになりがちなところを、「大奥」の世界だとそうならずに超越した役ができる。

──俳優の本領発揮ですよね。

綿貫　そう。鈴木杏さんとかも子役時代を知ってると、現在も第一線で活躍されているのを観られるの最高だったじゃないですか。“人生を全部出してる”というような演技をされる。

明日菜子　私にとっては原作が完璧すぎて、ちょっと展開が早く感じるんですよ。1年掛けてやってほしいと、原作ファンはずっと言ってます。ただ、キャスティングはばっちりですね。村雨辰剛さんが演じる青沼は原作だともっとごつい大男みたいなイメージがあるんですけど、美しすぎる村雨さんのピュアなお芝居だからこそ“自分は罰を受けていいけどこれからの医療はどうなりますか”みたいなシーンに染みるものがあって、魂に訴えかけてくる。役者さんの力だなと思いました。

──今年1月から放送していたSeason1を観てなくても付いて行けますか？

明日菜子　立ち位置として“Season2の1話”ではなく“11話”として始まったから、「Season1観てなくても大丈夫だよ」って感じには見えなかった。「（10話まで）観てるよね？ 11話いくよ！」みたいな感じ。

綿貫　Season1と2で年代が多少ずれているからここからでも観られるんですけど、年末にまとめてイッキ見をやってほしい！

明日菜子　これからすごい渦にのみ込まれますよ。大奥のテーマってやっぱりこの後半にあるから、NHKが腕まくって作ってる感じがわかりますよね。

綿貫　NHKの腕まくりっていつもいいんですよね。

──（笑）。

綿貫　本気でやってくれるから、信頼がめちゃめちゃ厚いです。

「何食べ」人生が後半戦になると人って素直になっていくのかな（明日菜子）

──「大奥」と同じよしながふみさん原作で言うと「きのう何食べた？ season2」も放送中です。

明日菜子　私はよしながふみさんが大好きなんですが、「きのう何食べた？」と「大奥」が同じクールに2シーズン目を迎えるのがすごい面白いなと思ってて。どっちも作品の核となる部分に入るので、運命的なめぐり合わせだなと。

綿貫　まだ「きのう何食べた？」のマンガって完結してないですよね？ 同時に複数作品を描いているのすごいですね。

明日菜子　ドラマ「きのう何食べた？ season2」は今まさに原作で描いているところなんですけど、シロさんとケンジがどうやって自分の人生を畳んでいくかみたいな話になっていくんですよね。親のお墓問題とか。シロさんはseason1だと自分がゲイだということを知られたくないからイチャイチャせずツンツンしてるんですけど、season2ではもっとケンジのことを受け入れて自然体でいようとする。人生が後半戦になると人って素直になっていくのかなみたいなことを感じています。

綿貫　BLブームの中でも、特にこの年代の同性愛者を描く作品ってなかったのでめちゃめちゃ必要で大事な作品なんですけど、最近観ながら思ってしまうのは、この2人ってパワーカップルだよなあということ。（シロさんが弁護士、ケンジが美容師の）資格を持って稼いでいるから安泰だよなっていう目線が一個噛んじゃったんですよね。法的な婚姻制度を利用できないシロさんとケンジが、これからお金が掛かるから節約して貯蓄してるっていうのはわかるんですけど、現在の男女の賃金格差や雇用格差を思うと、これが女性同士がともに生きていく話だったらそもそももっとお金のことが問題になってくる。

明日菜子　確かにそれはseason1とseason2のもっとも大きな違いかもしれないですよね。時代の変化として。

──season1は同性カップルがどう生きるかでしたけど、season2はそこを経て、限りあるお金の中で生活していくアラフィフの人生を描いているからこそリアリティを求めちゃうのかもしれませんね。

綿貫　変に背負わせすぎたらいけないですね。ただただ2人が幸せになるのを見届けられたらいいんです。