イラスト / 徳永明子

映画と働く 第17回 [バックナンバー]

映画配給会社ロングライド代表:波多野文郎 / 映画業界を目指す若者へ「アドバイスなんて聞いちゃいけない」

設立25周年、映画業界で走り続ける秘訣とは

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ジム・ジャームッシュ監督作の配給に「やっと!」

──履歴書の「人生を変えた1本」に、ジム・ジャームッシュ監督作「ストレンジャー・ザン・パラダイス」とご記入いただきました。先ほどのお話でも登場しましたが、ジャームッシュがお好きだったのですか?

そうですね。まさに10代の中頃にジャームッシュの映画を観て、それまで自分が思っていた映画と、まったく違う映画がこの世に存在するんだと思いました。

──波多野さんは「デッド・ドント・ダイ」にエグゼクティブプロデューサーとして参加されていますよね。それはどういう経緯だったのでしょうか。

会社を始めた頃は、別の会社がジャームッシュ監督の映画を配給していました。あるときから、その会社で配給しなくなったという事情があって、うちが手がけるようになったんです。会社を始めてから15年ほど経った頃、「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」という映画が最初でした。「やっと!」という感じでしたね、僕にしてみれば。そこから関係性ができて、次に「パターソン」を配給したので、「デッド・ドント・ダイ」ではエグゼクティブプロデューサーとして参加することになりました。

「デッド・ドント・ダイ」ビジュアル Credit: Abbot Genser / Focus Features (c)2019 Image Eleven Productions, Inc.

「デッド・ドント・ダイ」ビジュアル Credit: Abbot Genser / Focus Features (c)2019 Image Eleven Productions, Inc.

──ずっと好きだった監督の作品でエグゼクティブプロデューサーを務めるというのは、夢が叶った瞬間というか……。

平たく言うとそうですね(笑)。恵まれていると思います。

──ほかにも履歴書では「尊敬する映画人」としてケン・ローチとご記入いただきました。ロングライドでは「ダニエルブレイク基金」というプロジェクトもされていますが、どのような経緯で始めたものなのでしょうか?

よく大企業がいろんな形でチャリティ活動をしていますが、うちみたいな小さい会社でもできることがある。当然うちも利益を上げなければいけない企業ではあるんですけど、ビジネスとして成立させつつ、社会貢献できる機会はないかと考えていました。「わたしは、ダニエル・ブレイク」を観たときに、この作品なら日本で公開するにあたって、日本の貧困問題へのチャリティを具体的な形に落としていけるんじゃないかと思いました。当然契約の条件もあるので、なんでもできるわけではありませんが、たまたまタイミングが合いましたね。軽はずみな気持ちでやるのは無責任と思いますが、ちょっとでもお力になれればという気持ちもあるので、今後も機会があれば前向きに取り組みたいと思っています。

──ロングライドの社員は、月に3本経費で映画を観に行けるそうですね。

うちの会社では、やっぱり映画が好きな人が働いてるんです。僕よりも社員のみんなのほうが映画を観ていると思います。福利厚生としての意味もありますが、映画館にどういうお客さんが入っているのか、どれくらい入っているのかを実地でリサーチしてくることは大事だと思っています。映画館に行かないとわからないことも多いですから。

支えてくれる人々がいた

──さまざまな活動をされてきたロングライドですが、2023年で設立25周年を迎えるそうですね。25周年にあたって率直な気持ちを教えてください。

ここ数年まで、まったく過去を意識しなかったんですよ。そんな余裕はないし……。でもさすがに設立25周年となると、ちょっと重みを感じるようになってきましたね。

──25年も映画業界の第一線で走り続けるのは、本当にすごいことだと思います。その秘訣はなんでしょうか?

これはひとえに、支えてくれる人々がいたからです。さっきも言ったみたいに、インディペンデントに憧れて、いきがってやってきましたけど、やればやるほど人に頼ってきたというのが現状だと思うんですよね。やはりそれは、映画をうちに任せてくれる監督、プロデューサー、取引先があるからこそです。

波多野文郎

波多野文郎

──25年前と今では、映画業界は変わっているのでしょうか?

変わらない部分は変わらないし、まったく変わった部分もありますね。お客さんの映画の楽しみ方なんかは、特に変わったと思う。新規参入はしやすい状況になってきていると思います。

──今後ロングライドとして叶えていきたいことはありますか?

もっと製作はやりたいなと思っています。日本の監督であれ、海外の監督であれ、才能のある人たちとぜひ一緒にやれたらいいなって思いますね。

ヒットしない予感だけは当たる

──これから映画業界を志す読者に、アドバイスをお願いします。

特に業界に入ってない若い人だったら、アドバイスなんて聞いちゃいけないって思いますね。さっきも言ったみたいに、映画業界はこれからも変わり続けると思うんです。僕はたまたまいろんな方々に助けていただいて、こうしてやってこれたけど、これからの映画業界がどうなっていくか、映画の環境がどうなっていくかなんて、まったくわからない。僕が言うことなんて聞いているようじゃダメだと思いますよ。自分で考えて、自分がやりたいことをどう実現していくのかが一番大事だと思いますね。

──波多野さんが考える、「映画と働く」ことの面白さと難しさを教えてください。

仕事としては簡単なことがないと思っていて、難しいことだらけな気はしますね(笑)。楽しいことと言えば、いろんな人とのつながりができますし、映画を観たまったく知らないお客さんから「すごくよかった」ってメールをいただいたりするので、そういうのはうれしかったりします。

──長く映画のお仕事をしていても、映画がヒットするかどうかの予想は難しいものですか?

ヒットしない予感だけは当たります。ヒットする予感は当たらない、僕の場合は。これはヤバいかもっていう悪い予感だけは当たります(笑)。

──まさかの大ヒットだった作品はありますか?

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」ですかね。アメリカのティーンコメディって、日本でヒットさせるのは一般的に難しいとされてきたんです。なので厳しいかなと思っていたら、大ヒットと言える数字になって……よかったです。

「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」ポスタービジュアル (c)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」ポスタービジュアル (c)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

──ヒット作は、のちに分析してその理由がわかるものですか?

考えはしますけど、本当にそれが答えかというとわからないです。同じことを2、3年後に別の作品でやったらヒットするんじゃないかって思うけど、うまくいかないことが現実のような気がしますね。

──映画を売っていくというのは、本当に難しいんですね。

1本1本が違いますからね。基本的には映画はそれぞれまったく別の作品だし、時代とか社会状況も違うから「あのときヒットしたけど今回はダメだった」ってことは普通にあり得ます。1回1回が勝負だと思います。

──ヒット作を出すための絶対の方法はないということでしょうか。

ないと思ったほうがいいでしょうね。それをどうやってヒットさせるか考え抜くのが、配給会社の仕事ですから。

波多野文郎(ハタノノリオ)

波多野文郎

波多野文郎

1969年5月5日生まれ、山口県出身。1998年6月に有限会社ロングライドを設立し、代表取締役を務める。ロングライドの主な配給作品には、「わたしは、ダニエル・ブレイク」「パターソン」「ハッピーエンド」「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」などがある。波多野が共同製作として参加した「アダマン号に乗って」が全国で公開中。

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シネフィルDVD @cinefilDVD

弊社で20年近く前、ESCOLAという、Cinefilとは別レーベルでアート・ドキュメンタリーのDVDシリーズをやっていて、そこで扱った作品の権利の多くは波多野さんに調達していただいてました。

ESCOLAについて↓
https://t.co/zSubUysxu4 https://t.co/c38WKQSvoG

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