映画と働く 第17回 [バックナンバー]
映画配給会社ロングライド代表:波多野文郎 / 映画業界を目指す若者へ「アドバイスなんて聞いちゃいけない」
設立25周年、映画業界で走り続ける秘訣とは
2023年5月2日 20:00 6
ジム・ジャームッシュ監督作の配給に「やっと!」
──履歴書の「人生を変えた1本」に、
そうですね。まさに10代の中頃にジャームッシュの映画を観て、それまで自分が思っていた映画と、まったく違う映画がこの世に存在するんだと思いました。
──波多野さんは「
会社を始めた頃は、別の会社がジャームッシュ監督の映画を配給していました。あるときから、その会社で配給しなくなったという事情があって、うちが手がけるようになったんです。会社を始めてから15年ほど経った頃、「
──ずっと好きだった監督の作品でエグゼクティブプロデューサーを務めるというのは、夢が叶った瞬間というか……。
平たく言うとそうですね(笑)。恵まれていると思います。
──ほかにも履歴書では「尊敬する映画人」として
よく大企業がいろんな形でチャリティ活動をしていますが、うちみたいな小さい会社でもできることがある。当然うちも利益を上げなければいけない企業ではあるんですけど、ビジネスとして成立させつつ、社会貢献できる機会はないかと考えていました。「
──ロングライドの社員は、月に3本経費で映画を観に行けるそうですね。
うちの会社では、やっぱり映画が好きな人が働いてるんです。僕よりも社員のみんなのほうが映画を観ていると思います。福利厚生としての意味もありますが、映画館にどういうお客さんが入っているのか、どれくらい入っているのかを実地でリサーチしてくることは大事だと思っています。映画館に行かないとわからないことも多いですから。
支えてくれる人々がいた
──さまざまな活動をされてきたロングライドですが、2023年で設立25周年を迎えるそうですね。25周年にあたって率直な気持ちを教えてください。
ここ数年まで、まったく過去を意識しなかったんですよ。そんな余裕はないし……。でもさすがに設立25周年となると、ちょっと重みを感じるようになってきましたね。
──25年も映画業界の第一線で走り続けるのは、本当にすごいことだと思います。その秘訣はなんでしょうか?
これはひとえに、支えてくれる人々がいたからです。さっきも言ったみたいに、インディペンデントに憧れて、いきがってやってきましたけど、やればやるほど人に頼ってきたというのが現状だと思うんですよね。やはりそれは、映画をうちに任せてくれる監督、プロデューサー、取引先があるからこそです。
──25年前と今では、映画業界は変わっているのでしょうか?
変わらない部分は変わらないし、まったく変わった部分もありますね。お客さんの映画の楽しみ方なんかは、特に変わったと思う。新規参入はしやすい状況になってきていると思います。
──今後ロングライドとして叶えていきたいことはありますか?
もっと製作はやりたいなと思っています。日本の監督であれ、海外の監督であれ、才能のある人たちとぜひ一緒にやれたらいいなって思いますね。
ヒットしない予感だけは当たる
──これから映画業界を志す読者に、アドバイスをお願いします。
特に業界に入ってない若い人だったら、アドバイスなんて聞いちゃいけないって思いますね。さっきも言ったみたいに、映画業界はこれからも変わり続けると思うんです。僕はたまたまいろんな方々に助けていただいて、こうしてやってこれたけど、これからの映画業界がどうなっていくか、映画の環境がどうなっていくかなんて、まったくわからない。僕が言うことなんて聞いているようじゃダメだと思いますよ。自分で考えて、自分がやりたいことをどう実現していくのかが一番大事だと思いますね。
──波多野さんが考える、「映画と働く」ことの面白さと難しさを教えてください。
仕事としては簡単なことがないと思っていて、難しいことだらけな気はしますね(笑)。楽しいことと言えば、いろんな人とのつながりができますし、映画を観たまったく知らないお客さんから「すごくよかった」ってメールをいただいたりするので、そういうのはうれしかったりします。
──長く映画のお仕事をしていても、映画がヒットするかどうかの予想は難しいものですか?
ヒットしない予感だけは当たります。ヒットする予感は当たらない、僕の場合は。これはヤバいかもっていう悪い予感だけは当たります(笑)。
──まさかの大ヒットだった作品はありますか?
「
──ヒット作は、のちに分析してその理由がわかるものですか?
考えはしますけど、本当にそれが答えかというとわからないです。同じことを2、3年後に別の作品でやったらヒットするんじゃないかって思うけど、うまくいかないことが現実のような気がしますね。
──映画を売っていくというのは、本当に難しいんですね。
1本1本が違いますからね。基本的には映画はそれぞれまったく別の作品だし、時代とか社会状況も違うから「あのときヒットしたけど今回はダメだった」ってことは普通にあり得ます。1回1回が勝負だと思います。
──ヒット作を出すための絶対の方法はないということでしょうか。
ないと思ったほうがいいでしょうね。それをどうやってヒットさせるか考え抜くのが、配給会社の仕事ですから。
波多野文郎(ハタノノリオ)
1969年5月5日生まれ、山口県出身。1998年6月に有限会社ロングライドを設立し、代表取締役を務める。ロングライドの主な配給作品には、「わたしは、ダニエル・ブレイク」「パターソン」「
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弊社で20年近く前、ESCOLAという、Cinefilとは別レーベルでアート・ドキュメンタリーのDVDシリーズをやっていて、そこで扱った作品の権利の多くは波多野さんに調達していただいてました。
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