ベテランか若手か、ラストイヤー作品か新星か……2022年ノミネート作
──さて、今年もノミネート作品が発表されました。皆さん、印象はいかがでしょう?
土屋 今年もどれが獲ってもおかしくないなあ、と。和山やま先生の「女の園の星」は2年連続でノミネートだし、「ルックバック」や「海が走るエンドロール」という「このマンガがすごい!」でも1位を獲った大きな作品もある。
池本 去年話題を集めた作品と、まだまだ知られていない作品が混在しているのが面白いですよね。
近西 ベテラン作家さんから若い作家さんまでいろんな作品が入っていますよね。個人的にはそのなかで「ダーウィン事変」が入ったのが面白いなと思いました。ノミネート作のなかではちょっと毛色が違う。私も好きで読んでますが、「これが入ってくるか!」とびっくりしました。あと、「【推しの子】」がおそらくノミネートのラストイヤーですよね。
──今6巻まで出ていますからね。「チ。―地球の運動について―」と「【推しの子】」は今年が最後のチャンスになりそうです。
近西 その辺がどれくらい伸びるかも注目しています。
池本 ちなみに、近西さんと土屋さんは1次投票で自分が入れた作品ってノミネートに入ってます?
土屋 2作入ってます。
池本 「ひらやすみ」と「ダーウィン事変」とか?
土屋 いや、「ひらやすみ」と「ダンダダン」です。「ダンダダン」はテンポのよさがすごい。しかも、バトルマンガなんですけど甘酸っぱい恋愛マンガでもあるじゃないですか。
池本 あー!
近西 私は1本も入らなかったです。
池本 え、「ひらやすみ」好きでしょう?
近西 好きなんですけど、今年は寝かせたんです(笑)。もうちょっと話が進んでからにしよう、と。
──ほかのアワードであんまり「寝かせる」ってあんまりないですよね(笑)。「8巻まで」という縛りがあるからこそという感じがします。
池本 確かに(笑)。
近西 池本さんは何本入ってたんですか?
池本 「ひらやすみ」だけでした。
──みんな「ひらやすみ」大好きですね。
土屋 いいですよね。真造圭伍先生は「ぼくらのフンカ祭」からずっと好きで。今作は真造先生らしいゆるい空気感がたまらない。
──僕は選考員ではないんですが、実は以前から「2022年は『メダリスト』が来るはず!」って言っていたので、ノミネートに入っていなくてちょっと恥ずかしい気持ちで見てます(笑)。
池本 近西さんは去年の1次選考で「メダリスト」に票入れてなかったっけ?
近西 今年も入れましたよ。残念ながらノミネートには選ばれなかったですが。ただ、マンガ大賞は1次選考で票が入った作品を全部公開しているのもいいですよね。Twitterで作品リストをチェックして、「読んでない作品を全部読んでみよう」って言っているフォロワーさんもいて、すごいなと思いました。
池本 全部はすごい。でも、選んだ人のコメントも全部載っているから面白いですよね。知らない作品を探してもいいし、「この人とは気が合いそうだな」って選考員を見つけるのも楽しい。
マンガ大賞はマンガに触れるきっかけ
──この15年の間にアワードの数もすごく増えましたよね。
池本 私ももうすべてのアワードを把握しきれていない気がします。ただ、マンガ大賞は「次にくるマンガ大賞」とかWeb発のアワードとはまた傾向が違って、棲み分けされている印象はありますね。
土屋 例えば異世界転生ものは今大きなジャンルになっているけど、マンガ大賞ではなかなか挙がってこないですよね。
池本 Web発系はなんとなく投票している人に10代20代が多いのかなって印象で、その世代に刺さっているんだろうなと感じています。逆にマンガ大賞はそういう若い世代にどれくらい刺さっているんだろうな、というのは気になっていますね。
近西 作品に触れるきっかけも15年の間で多様化しましたよね。アワードもそのひとつですけど、SNSも浸透してSNS経由で作品を知る機会も増えた。アワードに対する反応もSNSで目に見えるようになって、「マンガ大賞がしっくりこない」という人の声も見えるようになった。ただ、そういう中でも「次何を読もう」と考えているお客様にとって選択肢のひとつになるという役割はずっと変わっていないのかなと感じています。マンガ大賞とは感性が合わないと感じる人にまで届いているとも言えますし。そういう意味でアワードというものの役割は少なからず果たしていると思っています。
──そういう中で、今後のマンガ大賞にはどんなことに期待しますか?
土屋 まずこれだけ続いてきたのがすごいことで、これからも続いていってほしいというのが第一ですね。その中で、15年前に比べてアワードがすごく増えたという状況があります。だから、やっぱり「これはマンガ大賞じゃないと出てこないな」という作品が出てくるといいなと思っています。
近西 書店ってお客様に対していろんな作品を提案する場所だと思うんですが、自分たちだけで売り場を作っているとどうしても自分たちの好みに偏ってしまう。マンガ大賞のようなアワードで自分が予想していなかった作品が入ってくることで、売り場に変化が生まれる。だから、これからも新しい作品をどんどん芽吹かせていってほしいなと思っています。
土屋 書店ならではの展開もできたらいいですよね。例えば、過去のノミネート作品をずらっと並べたりしてみたいですね。そういう掘り起こしができるのも書店ならではだと思うので。
池本 私はランキングやアワードって絶対じゃないし、賞によって自分と合う・合わないというのはあると思うんですね。だから、みんな自分が好きなものを読むのが一番いいと思っているんですけど、とはいえ作品が多くて何を読めばいいかわからないという人もいる。そういう人にとってひとつの指標として「じゃあまずこれを読んでみてください」と提示できるのがいいところだと思うんです。特にマンガ大賞は普段あまりマンガを読まない人にもアピールできる賞だと思うので、そういう人たちがマンガというものに触れるきっかけとして続いていってほしいですね。別に書店で買わなくたっていいし、Webで読んでもいい。何でもいいからマンガという文化に触れて「面白いじゃん」って感じるきっかけになってくれれば。
──改めてマンガ大賞の存在感や面白さを感じて、今年の発表もますます楽しみになりました。ありがとうございました!
(株)リブロプラス商品部 池本美和(イケモトミワ)
学生時からオリオン書房にて勤務。コミック担当歴10年+α。現在は(株)リブロプラス 商品部所属(BOOKグループ コミック担当)。マンガ大賞には第2回より選考員として参加。
三省堂書店海老名店 近西良昌(チカニシヨシマサ)
1998年から三省堂書店海老名店勤務。学参担当を経て、2001年からコミック担当を務める。マンガ大賞には第2回より選考員として参加。
あゆみBOOKS杉並店 土屋修一(ツチヤシュウイチ)
仙台のあゆみBOOKSにて約17年勤務した後、2020年5月からあゆみBOOKS杉並店に店長として勤務。マンガ大賞には第1回より選考員として参加。
- 小林聖
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1981年長野県生まれ。マンガを専門とするフリーライター。 Twitter上で誰でも参加可能な年間ベストマンガ共有企画「俺マン」の主催も行う。
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