本作は、2007年公開のアイルランド映画「
ステージ中ほどには、半円型に切り抜かれたパネルが下げられており、その下はガイの部屋となっている。やがて部屋のベッドにガイが座り、ギターを奏で始める。ギターの弦が“ピーン”とはじかれると、その音に合わせて、ガイの頭上のアーチ形のパネルの縁を、流れ星のような光がきらりと走っていく。ガイの歌が進むにつれ、ステージ上にはアンサンブルたちが音もなく登場。彼らが家具を取り去っていくと、やがて舞台は街角に様相を変え、ガイと、彼の歌に足を止めたガールの出会いが描かれた。
舞台には、先に電球が付いたさまざまな長さの銀色のパイプが、そこここに密集して立てられているほか、同様のパイプと電球は天井からも下げられている。ガイがパブで歌うシーンでは、初めはガイにヤジを飛ばしていた聴衆が、次第にガイの歌に魅了され、身体を揺らし、足を踏み鳴らしてガイの音楽の世界に入り込んでいく。するとパイプの先の電球が星空のように輝き、宇宙をバックに歌っているかのような幻想的な光景を作り出す。また聴衆が足をドンと踏み鳴らす音に合わせ、照明が強く輝く中、ガールが少しずつガイに歩み寄っていくことで、彼女が彼に心惹かれていく様子が美しく描き出された。
また音楽が重要な役割を果たす本作では、にぎやかなアイリッシュ音楽や、ガールの母バルシュカ(
京本はギターをかき鳴らし、普段ミュージカルで聞かせる伸びやかな歌声とは少し異なる、ミュージシャンとしての“叫び”を劇場に響かせ、観客を惹き付ける。失恋により音楽の道を諦めていたガイは、ガールとの出会いで自信を取り戻していく。京本は、そんなガイの変化を豊かな表情で生き生きと演じた。saraはきびきびとした身のこなしと話し方で、自ら「私は“正直の権化”」と名乗るガールの率直さを体現しつつ、持ち前のパワフルな歌声に切なさをにじませ、明るい彼女が背負っている影を具現化した。
ゲネプロ前に行われた囲み取材には、京本、sara、
京本は劇中で9曲を演奏。ギターの練習に苦労したという京本は「『プロのアーティストさんに頼むべきでは』と思うくらい難しい曲ばかり。心が折れかけたときもありますが、皆さんとの練習の時間を早くから作ってもらい、おかげで今日まで来られた」と言う。また人前での演奏に慣れるため、自身が所属するSixTONESの番組収録の合間に、ほかのメンバーが休んでいる楽屋でギターを弾いていたと京本。上演に向けては「難しそうな演奏をしてるなと思われたら負け(笑)。物語を届けることを大切にしたい」とコメントした。
稲葉はそんな京本に対し、「京本さんはアーティストとして面白い方。『この人ならどこまでも飛べる』という信頼感を、不思議と最初から感じていました。ずっと自分自身と闘っていて、世界に対して挑発的だし、もがいてもいる。そういう人じゃないともの作りはできないと思うし、そんな京本さんと一緒に作品作りに取り組むのはワクワクします」と厚い信頼を寄せた。
saraは「稽古が始まってから無我夢中で、今日まであっという間でした。台本の言葉や劇中の出来事がとても鮮やかで、さまざまな人たちの人生が凝縮された作品です。お客様をお迎えしてどうなるのか未知数」と期待を口にする。またsaraが「稽古場でいただく差し入れに勇気づけられました」と笑顔で話すと、京本も「毎日がパーティーだったよね(笑)」とうなずいた。
鶴見は「人の稽古を観ているのが楽しい稽古場でした。演劇の演出は感覚的になりがちですが、稲葉さんは伝え方が面白い。たとえば『ゆっくり動いてほしい。軽自動車ではなくフェラーリで走るように』みたいに(笑)。稲葉さんについていくという気持ちで取り組んでいました」と稽古場の様子を語る。
斉藤は「約2カ月もの稽古期間が設けられているのは、今の時代ぜいたくなこと。『高みを目指そう』という制作側の本気を感じる」と言い、「口幅ったいようですが、素晴らしい作品だと断言します。観劇後、言葉にならない何かに圧倒される舞台になったのでは」と思いを込めた。
上演時間は休憩を含む2時間40分を予定。東京公演は9月28日まで。本作はその後、10月4・5日に愛知・御園座、11日から14日まで大阪・梅田芸術劇場 メインホール、20日から26日まで福岡・博多座でも上演される。なおシュヴェッツ役で出演予定だった
ミュージカル「Once」
2025年9月9日(火)〜28日(日)
東京都 日生劇場
2025年10月4日(土)・5日(日)
愛知県 御園座
2025年10月11日(土)〜14日(火)
大阪府 梅田芸術劇場 メインホール
2025年10月20日(月)〜26日(日)
福岡県 博多座
スタッフ
脚本:エンダ・ウォルシュ
音楽・歌詞:グレン・ハンサード / マルケタ・イルグロヴァ
原作:ジョン・カーニー(映画「ONCE ダブリンの街角で」脚本・監督)
翻訳・訳詞:一川華
演出:
出演
ガイ:
ガール:
ビリー:
エイモン:
アンドレ:
シュヴェッツ:
バンク・マネージャー:
レザ:
元カノ:
MC:新井海人
ダ:
バルシュカ:
イヴォンカ:浅利香那芽 / 遠藤桜子 / 清水七喜咲
※シュヴェッツ役のこがけんはケガのため当面の間休演し、新井海人が同役を務めます。
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Akiko Murata @murata_akiko
舞台写真から察するところ、ステージ後方にバンドが。アンサンブルは歌うが演奏はしないのかな。必要に応じてミュージシャンもバンドスペースから出てきて、キャストの分身のようにクロスオーバーしながら演奏する感じ? https://t.co/NxhwOcOdDT