当日来場した人々にはまずエントランスで、七尾による挨拶文とこれから披露される全曲のセットリストが書かれたパンフレットが配布された。このパンフレットは、演奏曲がすべてつながっておりライブ中にMCができないので、七尾が観客にライブの意図を伝えるために作ったもの。セットリストに記載されていたのは、2007年のアルバム「911FANTASIA」の収録曲「戦前世代」「airplane」、および「Fly Me to the Moon」「赤とんぼ」のカバーを除いて、すべて音源化されていない新曲や本公演のために書き下ろされた楽曲だった。
ステージと両サイドの壁にはジャングルの茂みのような映像が投影されており、会場内は開演前から緊張感の漂う異様な雰囲気に。ライブが始まると陸上自衛官のような迷彩服を着て頭を丸坊主にした七尾が現れ、サンプラーを使ってラジオをチューニングするようなノイジーなサウンドコラージュを披露した。そのノイズは「戦前世代」の「戦後生まれのお父さん、お母さん、ありがとうございました。僕たち、私たちは、大きくなりました。そして今、戦前を生きています」という子どもたちのセリフとともに終了。会場がカエルの鳴き声に包まれる中で、七尾はアコースティックギターを構えて静かに歌い始めた。
このライブで七尾が扮している「兵士A」は、近い将来数十年ぶりに1人目の戦死者となる自衛官、または日本国軍兵士という設定。彼はMCや休憩を入れずに曲を演奏し続け、歌と朗読だけで「兵士A」の物語を紡いでいく。序盤は「Aくんが生まれ、そして死ぬまで」というテーマでストーリーが進行。寂れた炭田の村に建った原子力発電所が東京オリンピックや大阪万博に希望の光を灯したことや、戦争を生き延びて原発で働いていた父親の死、震災による津波に村が飲み込まれていく様子など、1人の人物の人生を時代に沿って伝えながら、七尾は「この光を美しいものに変えなくては 僕らの光に変えなくては」と歌い続ける。観客はその物語に引きこまれ、黙ってじっと七尾のパフォーマンスに見入っていた。
中盤の「Aくんが殺したひとびと」のパートでは、村を焼き払われて連れ去られ殺人マシーンとして育てられた少年兵、戦時中に日常を送るカップル、ゴムボートで荒波に揺られながら「生き延びたらまた会える」と希望を持つ難民など、さまざまな人々を自身に憑依させながら七尾は熱唱。「I'M WARBOT」では戦闘用ドローンになりきった七尾が、躁状態のようなサイケデリックな打ち込みのビートが響く中で、うつろな目をしながら鉄パイプでドラム缶を思いきり殴り、機関銃のおもちゃを客席に向けて鳴らした。
終盤パート「再開」では、「2020 追憶の東京オリンピック」で2020年に開催される東京オリンピックの熱狂を未来から回想し、「1938 追憶の兵士『えい』」で徴兵され戦死した野球選手・沢村栄治が手榴弾を投げる様子を歌唱。シンセサイザーを激しく弾きながら、銃声轟く戦場の重苦しい雰囲気を観客にイメージさせる。その後、それまでずっとサックス演奏だけで参加しステージに姿を見せていなかった
七尾旅人「WWW 5th Anniversary 特殊ワンマン『兵士A』」2015年11月19日 東京都 WWW セットリスト
(1) プロローグ
01. SQUAD RADIO
02. 戦前世代
03. きみはひかり ぼくのひかり
04. 1945
(2) Aくんが生まれ、そして死ぬまで
05. ぼくらのひかり
06. リンドンベル(じてんしゃにのれたひ)
07. Tender Games
08. 兵士Aくんの歌
(3) Aくんが殺したひとびと
09. 少年兵ギラン
10. LOVE IN WARTIME
11. Almost Blue
12. 難民の歌
13. Fly me to the Moon
14. アトムの思い出
15. I'M WARBOT
16. foolish time
(4) 再開
17. 2020 追憶の東京オリンピック
18. 1938 追憶の兵士「えい」
19. airplane
20. 赤とんぼ
21. 七回忌
22. Perfect Protection(完全なる庇護)
23. 誰も知らない
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樋口恭介 | Kyosuke Higuchi 💙💛 @rrr_kgknk
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七尾旅人が1人目の戦死者に、驚愕の「特殊ワンマン」で3時間ノンストップ熱演 - 音楽ナタリー https://t.co/SlAfp6Kpoh