音楽ナタリー編集部が振り返る、2021年のライブ
赤い公園、Maison book girl、超特急、まふまふ、Perfume、さくら学院、ZORN、百田夏菜子、ウォルピスカーター、ヤバイTシャツ屋さん、カネコアヤノ
2022年1月17日 21:30 3
百田夏菜子「百田夏菜子ソロコンサート Talk With Me ~シンデレラタイム~」2021年10月16、17日 さいたまスーパーアリーナ
文 / 近藤隼人
毎年ソロコンを開催し、すでにソロアルバムも発表している佐々木彩夏さんや高城れにさんと比べると、個人での音楽活動に対して消極的な印象のある
ライブの演出は映画「幕が上がる」や、東京・明治座公演「ももクロ一座 特別公演」でももクロの魅力を引き出してきた本広克行監督が担当。場内に鳴り響く時計の音が徐々に強くなり、開演時刻を迎えたことを観客に告げると、スモークとレーザーで装飾された円形のセンターステージを舞台に“シンデレラタイム”が始まりました。ダンサーやバンドを交えた重厚かつコンセプチュアルなライブが展開され、いつもと変わらない天真爛漫なMCとのコントラストに観客は夢中に。そしてこのライブでもっとも緊張感が高まった時間が、終盤に披露されたピアノの弾き語りパートでした。自身がヒロインを演じた映画「すくってごらん」の撮影のためにピアノを猛特訓し、劇中で見事な演奏を披露した百田さんは、同作の主題歌「赤い幻夜」や、地元・静岡と東京を行き来する新幹線の中でしたためた言葉を曲にした「ひかり」を披露。「白金の夜明け」では鍵盤を力強く打ちつけて不協和音を生み出し、だんだんとバンドのアンサンブルが加わっていくというカタルシスのある展開により楽曲の世界観を表現していました。
ファンがソロコンを長らく待ち望んでいた中、なぜこのタイミングで開催されたのか。それはピアノの弾き語りを含め、ももクロのライブとは趣の異なる多彩な表現、魅せ方を身に付けた、というのが理由の1つのように感じられます。もともと苦手としていた歌も、今やすっかり感情豊かで芯のあるものに。彼女のようにグループの中心的な存在でありながらほとんど自己顕示欲を見せないアイドルも珍しいですが、2020年大みそかの「第4回 ももいろ歌合戦」でピアノの演奏をサプライズで披露したあと感極まって涙を流していたように、挑戦を続ける姿はアイドルグループとして円熟期を迎えた今もなお健在です。そして「Talk with me」というファンとの距離感を意識したライブタイトル、公演最後にあっけらかんと語った「(ソロ活動について)今後の予定とか、新たに発表できることは何もないんです(笑)」という言葉にも彼女らしさがあふれていました。
ウォルピスカーター「ハイトーン刑務所 ~LIVEでキーを下げただけなのに~」2021年10月24日 Zepp Osaka Bayside
文 / 倉嶌孝彦
そんなウォルピスは「ライブでキーを下げるか否か」という、本来であれば明かす必要のない自身の葛藤をあえて全面に打ち出すことでライブのエンタテインメント性を強調する手法を身に付ける。2020年1月に開催されたワンマンライブ「大株主総会」の冒頭では、ドキュメンタリータッチの映像でウォルピスの葛藤を描き、ライブの1曲目「STILL GREEN」をマイナス3度のキーで歌い始めるだけで、会場内の喝采をさらっていた(参照:「マイナス3だー!」ウォルピスカーター、大株主総会でキー下げる)。
今年の夏に大阪で開催された「ハイトーン刑務所 ~LIVEでキーを下げただけなのに~」は、ウォルピスの“原キーネタ”の完成形とも言えるライブとなった。この公演の先に行われた東京公演では「ライブでキーを下げたことで逮捕された」というストーリーが描かれており、大阪公演の「ハイトーン刑務所」では“囚人服に身を包んだウォルピスが刑務所に収監された”という設定のもとでライブが進行する。何かにつけて「声が低い!」と看守に怒鳴られるという徹底的にハイトーンにこだわる刑務所を舞台に、ウォルピスは自身のオリジナル曲とライブのストーリーを融合させたミュージカル調のライブを展開。最終的には「刑務所を脱走する」という一大スペクタクルをライブの中でやり遂げてみせた。ちなみにライブでキーを下げると言ってもそれは半音から1音程度であり、本人の持ち味である高音域のハイトーンボイスはライブの随所で堪能できることは補足しておきたい。
ヤバイTシャツ屋さん「ヤバイTシャツ屋さん 大阪城ホールワンマンライブ『まだ早い。』」2021年11月14日 大阪城ホール
文 / 清本千尋
風変わりなバンド名や、 “Tシャツ屋さん”なのにタンクトップのキャラクターが描かれたジャケット、道重さゆみさんのグッズTシャツを当たり前のようにステージやアー写で着ているベーシスト……常にツッコミ待ちのあのバンドが大阪城ホールで単独公演を開催する。あのバンドとはもちろん
「いつまでもネクストブレイクでいたい」とギター&ボーカルのこやまたくやさんは言いますが、大阪城ホールで単独公演を行うバンドは完全に“売れて”います。その証拠に2020年9月にリリースした4thアルバム「You need the Tank-top」は、同年10月12日付のオリコンの週間アルバムランキングで1位を獲得しました。この1位には「期間中に予約を受けたアルバムにはメンバーが直筆サインを入れる」という3人の血のにじむような努力があるのですが、それだけ彼らのサインが欲しいと思う顧客(ヤバイTシャツ屋さんファンの呼称)が多くいることを証明しました。
しかもアルバムがリリースされたのは、コロナ禍の真っ只中。ライブバンドとして人気を博し、自身のツアーで全国を細かく回りつつ、フェスやイベントにも引っ張りだこの彼らにとって“ライブができない”という状況は、とてもつらいものだったと思います。そんな中でも「今自分たちにできることを」と、汗水たらして週間チャートで首位獲得という偉業を成し遂げ、2部制のライブではあるものの半年で全70公演という過酷なツアーを完走したヤバTが地元のアリーナで単独ライブをやる。このご時世、東京から大阪に遠征してまでの参加はギリギリまで悩みましたが、足を運ばなくてはいけないという使命感に駆られました。
私は彼らに「Zeppで5DAYSができるなら武道館もできるのに」と言ったことがあります。しかしこやまさんから返ってきた答えは「ライブハウスが好きなんで」という言葉でした。ライブハウスにこだわり続けた彼らにとって今回の大阪城ホール公演は、声を出せない、もみくちゃになれないコロナ禍だからこそ開催されたものだと考えています。それでも10枚のシングルと4枚のアルバムをリリースした彼らは、十分すぎるほどの持ち曲がありますし、ライブに関しては百戦錬磨のプロフェッショナル。初のアリーナ公演への期待は膨らむばかりでした。
どんな始まりになるのかと思えば、まさかの本人たちは不在で大勢のダンサーたちがミュージカルを繰り広げている……最初からヤバT流のボケが炸裂したステージについマスクの下で口元を緩めていると、彼らと入れ違いに3人が登場しアリーナいっぱいに爆音を鳴らしました。それ以降もこの規模だからこそできる特効満載のステージで顧客を楽しませたヤバT。終盤、こやまさんは「5年でいろんなことが変わったけど、ヤバイTシャツ屋さんも変わったかな?」「解散するバンドもいる中で、こうして続けられるヤバイTシャツ屋さんはホンマに運がいい」と語り、自分たちの生き様を歌った「サークルバンドに光を」を歌います。顧客たちは力強く拳を突き上げ、会場はこの上ない一体感に包まれました。
「僕らはバンドをずっと続けたいと思っているので、応援してもらえるようにがんばってチャレンジを続けていきます」と真摯に語るこやまさん、そしてそんな彼の横顔や背中を見守るベース&ボーカルのしばたありぼぼさんとドラム&コーラスのもりもりもとさん。「NHK紅白歌合戦」出場を長年夢見ている彼らがバンドを続けていつかその舞台に立てるように、そしてその先の景色を一緒に見るために私は3人のことを応援し続けたい。そう強く思った一夜でした。
カネコアヤノ「カネコアヤノ 日本武道館 ワンマンショー 2021」2021年11月29日 日本武道館
文 / 石井佑来
「彼女の今後のアーティスト活動を見据える上で、2021年の秋頃に初めての日本武道館でのワンマン公演を行う事が最良な頃合いだと考え、会場の調整、そしてスケジュールの確保をさせて頂きました」。コロナ禍でライブ開催が危ぶまれる中更新された
しかし、そんな期待を遥かに上回るほど、カネコアヤノには武道館のあの広い会場が完璧に似合っていた。真っ暗な会場の中浮かび上がるのは、暖色の照明に優しく彩られたステージだけ。いつも通り、派手な舞台装置や演出は一切なし。カネコアヤノはいつだって、シンプルな歌の力だけで、目の前にいるすべての人と1対1の関係を結んでしまう。そしてそれは、会場が武道館になっても何も変わりはしなかった。彼女は、あのだだっ広い会場の隅から隅まですべての人と、切実さすら感じさせる親密なコミュニケーションを取り続けていた。
中でも特筆すべきは、ラストに披露された「アーケード」。イントロのギターがかき鳴らされた瞬間、それまで真っ暗だった客席の照明が一斉に点灯し、会場全体が真っ白な光に包まれた。と同時に、誰が合図をするでもなく、会場中の観客が一斉に立ち上がり、文字通り波を打ったように動き出す。その瞬間、カネコアヤノと観客の関係が“1対1”から“1対全員”へと、鮮やかに反転したように感じられた。手拍子をする人、こぶしを掲げる人、ただひたすらに体を揺らす人……会場にいる無数の人たち全員が、目の前で鳴らされる音楽によって自然発生的に湧き出た思い思いの動きをしていて、その光景が今までのどんなライブで見た景色よりも美しかった。
のちのインタビューで語られた話によると、カネコ本人やバンドメンバーはこの演出について一切把握しておらず、知っていたのは照明スタッフとPAのみだったという。最高のライブはいつだって、素晴らしいミュージシャン、素晴らしいオーディエンス、そして素晴らしいスタッフからなる美しいトライアングルによって形作られる。そんな認識を改めて強く、より強く実感するライブだった。
※記事初出時、本文の一部に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
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