2021年の音楽ライブのイメージイラスト。

音楽ナタリー編集部が振り返る、2021年のライブ

赤い公園、Maison book girl、超特急、まふまふ、Perfume、さくら学院、ZORN、百田夏菜子、ウォルピスカーター、ヤバイTシャツ屋さん、カネコアヤノ

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Perfume「Perfume LIVE 2021 [polygon wave]」2021年8月14、15日 神奈川・ぴあアリーナMM

文 / 橋本尚平

2020年2月26日、東京ドームで予定されていたPerfumeのドームツアーの千秋楽が開場の1時間半前に中止になったことは、期せずして、コロナ禍に突入して世界が一変したことを日本中の人々に知らしめる象徴的な出来事の1つになりました。以降、やり場のない気持ちを抱え続けていたPerfumeとそのチームが、あの日止まった時計をまた動かすために何をすればいいのかを考え、その問いに対して真摯にアンサーしたのがこの1年半ぶりの有観客ライブだったのだと思います。

アリーナをすべてステージとして使い、巨大なLEDを床と背面にL字型に設置し、それをスタンド席の観客が上から見下ろすことで実現した錯視的な映像演出。「どんなに大きな会場でもステージ上には3人しか立たない」という、長年守り続けてきた自分たちの中のルールを変えてまで挑んだELEVENPLAYとのコラボレーション。そして、過去のPerfumeのライブでは観たことがないような内省的でシリアスなメッセージ……これまでも先端技術を演出に取り入れたりと新しいことにチャレンジしてきたPerfumeですが、とはいえまさかここまで挑戦的な内容になるとは、この日に会場に訪れたファンのほとんどは事前に想像がつかなかったのではないでしょうか。

しかしそれ以上に、何より3人の凄味を感じさせたのがこのライブでした。ド派手な演出が次々に繰り出される広大なステージに立ちつつも、それらに引けを取らない圧倒的な存在感を放ったのは、観客の前でライブができる喜びを隠せない彼女たちによる、数え切れないほどの経験を積み重ねる中でひたすら磨き上げられたダンスパフォーマンス。20年以上ものキャリアの中で、メンバーが変わることもなく、また周囲のチームなどもほとんど入れ替わっていないにもかかわらず、今も進歩を止めることなく最高のステージを更新し続けているPerfumeは、数多いるアーティストの中でも稀有な存在になっているように感じます。観客はこの公演で、「変わることのすごさ」と「変わらないことのすごさ」を同時に知ることになりました。

終演前に突然披露された、いまだタイトルも明かされていない新曲で、3人は自分たちをミラーボールに例えて「僕はただ廻る鏡 キミこそが光」とファンとの関係性を歌いました。Perfumeはこれまで、初めての日本武道館公演に合わせて発表した「Dream Fighter」をはじめ、「STAR TRAIN」「Challenger」など活動の節目のタイミングで“自分たち自身のことを歌う曲”を発表してきましたが、“自分たちを応援してくれるファンのことを歌う曲”はこれが初めてではないかと思います。この新曲はおそらく今後、Perfumeにとってもファンにとっても特別な1曲になることでしょう。

今のところこの曲は、ぴあアリーナMM公演でしか披露されておらずリリースも予定されていませんが、同公演の映像は現在Amazon Prime Videoで配信されているので、これを読んで興味が湧いた方はぜひ観てみてください。

さくら学院「さくら学院 The Final ~夢に向かって~」2021年8月29日 中野サンプラザホール

文 / 清本千尋

さくら学院が2021年8月29日に東京・中野サンプラザホールで開催したラストライブ「さくら学院 The Final ~夢に向かって~」をもって11年4カ月の歴史に幕を閉じました。

さくら学院は、メンバーが中学校を卒業する中等部3年の3月になるとグループからも卒業するという特殊な仕組みのアイドルグループ。2010年4月に開校(始動)し、同年の8月7日(奇しくも私の誕生日!)に「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」のステージでデビューを果たしました。毎年誰かが卒業し、転入生を迎えるため、年度ごとにメンバーが変わるグループですが、その年のうちに行われる単独ライブは両手で数えられる程度。生徒たち(メンバー)は学業の合間を縫って練習を重ね、並々ならぬ思いを胸にその一期一会のステージに上がるのです。

コロナ禍により2019年度の有観客卒業公演が延期の末中止となり、2020年8月に無観客配信という形で、初めて観客のいない卒業公演を開催したさくら学院。しかしその2日後、新年度の始まりの日である2020年9月1日に、2021年8月末をもって活動を終えることを発表しました。10年間の感謝を胸にラストイヤーを駆け抜けたさくら学院は、これまでの卒業生たちの思いも乗せて、中野サンプラザホールへ。過去最多となる8名の卒業生たちは、スーツや着物など正装をして会場に駆けつけた父兄(さくら学院ファンの呼称)の前で最後のパフォーマンスを行いました。

「Hello ! IVY」や「FLY AWAY」といった初年度から歌い継いできた楽曲、活動を重ねる中で生まれた「School days」や「オトメゴコロ。」といった名曲の数々……楽曲が披露されるごとに、8人の生徒たちに過去の卒業生たちの姿が重なって見えたのはきっと私だけではないはず。「My Graduation Toss」冒頭の野中ここなさんには2012年度卒業生の中元すず香さん、「未完成シルエット」で「バイバイ」と叫んだ野崎結愛さんには2013年度卒業生の杉崎寧々さん、「ハートの地球」の大サビでは2014年度卒業生の4人がぽんぽんを持って胸の前で腕をクロスする姿が思い出されました。そして「ハートの地球」を聴いているときに「離れていても心はひとつ」──メンバーの課外活動により、全員での活動が叶わなかった2014年の夏、生徒たちが大事にしていた言葉がふと浮かびました。さくら学院という場所がなくなっても、そこで生まれた絆や思いは消えることはない。そう思えたとき、私はようやくさくら学院の活動終了を受け入れられた気がします。

始まりの曲である「夢に向かって」で「いつでも強く前を向いて高く飛んで行こう」と力強く歌った8人は新たな“夢に向かって”出発しました。最後のライブでは披露されませんでしたが、私はあの曲の歌詞を彼女たちに贈りたいです。

さよならは、はじまりだよね。願いを叶えてまた会う日までSee you again!

※杉崎寧々の「崎」はたつさきが正式表記。

ZORN「ZORN ONE MAN LIVE『汚名返上』at YOKOHAMA ARENA」2021年9月12日 横浜アリーナ

文 / 三浦良純

コロナ禍が続く2021年、1つのヒップホップイベントが日本の音楽シーンを震撼させます。8月末に愛知で開催され、“密フェス“として強い批判を呼んだ「NAMIMONOGATARI 2021」。連日テレビで報道されたフェス出演者と密集して盛り上がる観客の映像は、当事者のみならず、音楽イベント全体にネガティブなイメージを植え付けることとなり、「NAMIMONOGATARI」開催後、ライブの中止や延期の発表が相次ぎました。

そんな波乱の真っ只中、9月12日に神奈川・横浜アリーナで開催が予定されていたのが東京都葛飾区出身のラッパー・ZORNのワンマンライブ「無題」です。「洗濯物干すのもHip Hop」など数々のパンチラインで知られ、KREVAやCreepy Nutsをはじめとする同業のアーティストからコアなヒップホップヘッズまで、幅広い支持を集めるZORNは、2020年にアルバム「新小岩」をリリースし、ヒットチャートを席巻。その勢いのまま2021年1月に初となる東京・日本武道館でのワンマンライブを成功させており、横浜アリーナでのワンマンライブは彼がさらに飛躍するための舞台として、入念に準備を進めていた公演でした。

「NAMIMONOGATARI」のショックにより同じく横浜アリーナでの開催を予定していたBAD HOPのワンマンライブとフェスも中止になる中、「ZORNのワンマンは本当に開催されるのか」と心配する声も当然聞かれましたが、中止や延期がアナウンスされることはなく、迎えたライブ当日。会場に足を踏み入れたファンは、これまでにないZORNのライブを目撃することになります。まず来場者を驚かせたのは、入口で配布されたオフィシャルグッズのウレタンマスクと感染防止効果の高い不織布マスク、演出で使用するためのサイリウムです。マスク2枚という念の入れ具合も印象的でしたが、ヒップホップのイベントで目にすることは滅多にないサイリウムの配布は意外性が高く、これだけでもZORNがコロナ禍に対応した新しいライブを作り上げようとしていることが明白でした。

しかし、ZORN初の横浜アリーナ単独公演を前にして場内は静かな興奮に満ちており、その興奮に火が付けば「NAMIMONOGATARI」同様の惨事が起こる可能性もあったはずです。開演前、強いトーンで注意事項のアナウンスが流れますが、会場が暗転するとファンのボルテージは一気に上昇。使い慣れないサイリウムをすでに折ってしまっている観客も散見されました。そんな中、ステージに姿を見せたZORNは口元に人差し指を当てて、オーディエンスの発声を制止。怒涛のパフォーマンスで会場を盛り上げながらも「歓声はいらねー! 拍手をよこせ!」と要求し、威圧的な楽曲を畳みかけます。その後、MCで改めて注意事項を伝えたZORNは、開催発表当時、何も思い付かず「無題」としていたというライブタイトルについて「今になってピッタリなものが浮かびました」と語ると、ここで新しいタイトルを発表しました。

「誠に勝手ではありますが、今この瞬間からこのライブのタイトルを『汚名返上』とさせていただきます」

それは言うまでもなく、「NAMIMONOGATARI」騒動に対するZORNからのアンサーでした。フェスに出演したわけではないものの、日本を代表するラッパーの1人として、ヒップホップシーンに着せられた汚名と戦う覚悟を示したのです。ライブは換気時間を設けるため3部制で行われ、第2部ではオーケストラを従えたZORNが緊張感のあるパフォーマンスでオーディエンスを圧倒。サイリウムが会場一面を青く染めた第3部では、唯一の客演として横浜をレペゼンするOZROSAURUSのMACCHOを迎え入れますが、MACCHOも「全員マスク外さず、だーまーれー!」と叫んで「汚名返上」に協力します。そしてライブ終了後は、混雑回避のための規制退場も徹底。ルールをしっかりと守った観客にスタッフから感謝の言葉が伝えられると、会場は温かい拍手で包まれました。

このライブの模様が「NAMIMONOGATARI」のように報道され、来場者以外にも広く知れわたるようなことはありませんでしたし、本当の意味でヒップホップシーンの「汚名返上」が達成されたとは言えないのかもしれません。しかし、ZORNが前例のない逆境に誠意を持って対応し、彼にしかできない偉業を成し遂げたことは間違いないでしょう。ZORNは本公演の終盤に「今度ライブあっから来い! スーパーアリーナやっからよ!」と宣言し、これまでアーティスト活動と並行して続けてきた現場仕事を辞めたことを報告しています。音楽一本で生きていくことを決めた彼が、シーンの頂点へと登り詰めれば、日本のヒップホップのイメージも本当に塗り替えられるかもしれません。

なお、この公演はDVD化されており、生産限定盤には開催までのドキュメンタリーも収録されています。2021年、音楽シーンを襲った大波に正面から立ち向かったラッパーの記録をぜひその目で確認してください。

汚名返上 at YOKOHAMA ARENA(生産限定盤)

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汚名返上 at YOKOHAMA ARENA(通常盤)

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