のっち

のっちはゲームがしたい! 第3回 [バックナンバー]

謎解きで世の中を豊かにする、リアル脱出ゲームの生みの親・加藤隆生さんと遊んできました

クリアなるか?人気公演「止まらない豪華列車からの脱出」に2人で挑戦

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Perfumeの前で踊ってたアイドル役の子、人生で一番緊張したって言ってましたよ

のっち 今日体験させていただいた「Escape from The NINE ROOMS 止まらない豪華列車からの脱出」って、横浜でやっていたのとは内容が違うんですか?

加藤 横浜のは「Escape from The NINE ROOMS」の第1弾で、今日やったのはその第2弾というか、正当な後継者です。

のっち 横浜のほうの公演、めちゃくちゃ気になってたけど行けなかったから、今日は楽しみにしてました。面白かったです!

加藤 悔しかったですね。なんかまだ悔しさが残ってる(笑)。

のっち 50分っていう設定が絶妙でうまいんですよね。やる前から「きっと普通に進めてたら50分じゃクリアできないようになってるんだろうな」って思って臨んでました。序盤は調子よかったんだけどなあ……。謎解きって、その人のもともとの性格がすごく出るなと思うんですけど、今日も出ちゃいましたね。私ひとりっ子だからか、何かを始めると1人で黙々とやっちゃうんですよ。それに「これ!」って決めたらそこから思考が柔軟に動かなくなっちゃうところがあって。頭が柔軟な加藤さんに導いてもらえてよかったです。

加藤 脱出ゲームはこれまでどれくらいやってるんですか?

のっち 「たぶん20公演もないんじゃないかな?」と思ってたんですけど、数えてみたら意外と40公演くらい行ってました。でも「脱出ゲームが好きだ!」って言ってる人に比べたら、自分は全然やれてないなっていう思いが……。

加藤 いやいや、何に対する劣等感なんですか(笑)。めちゃめちゃやっていただいてありがとうございます。

のっち 最初に誘ってもらって行ったのが、神宮球場に大勢で集まってやる「キングダム」のイベント(「ある大戦場からの脱出」)でした。私は「キングダム」が好きだから「どんな感じかなー?」と思いながら行ったら、もう想像を凌駕する体験で……以前からネットにいろいろある「◯◯からの脱出」みたいなのをスマホで楽しく遊んでたんですけど、自分がスマホの中のキャラクターになったような感覚があったんですよ。剣を振りかざして敵役のスタッフさんに「ヤーッ!」って切りかかったときの、あの快感!

加藤 あはは(笑)。

のっち その瞬間にハマりましたね。そして次に、下北沢でやってた「アイドルは100万回死ぬ. ~繰り返す死の時間から脱出せよ!!~」にPerfumeの3人で行ったんです。どういう行動をしても死んじゃうアイドルの命を、何度も時間をループしながら救おうとするという内容で、アイドルと私たちの間に壁があって、助かる手段をアイドルに謎解きで伝えるんですけど、そのリアリティと没入感がすごくて。あれは衝撃でした。

加藤 アイドル役の子が実際に踊ってて、それを10人くらいのプレイヤーが観てるんですけど、プレイヤー側にPerfumeの3人がいるってビックリしますよね(笑)。もちろん懸命に練習して振り付けを覚えてアイドル役をやってるとはいえ、普通の素人の子ですから、人生で一番緊張したって言ってましたよ。

のっち 私は脱出ゲームをしているときに役に入りきるタイプなので、あのときは一生懸命応援しました。「めぐるちゃーん!」って(笑)。

僕は選ばれなかったという意識が強いから、選ばれない側の人のゲームを作りたかったんです

のっち 加藤さんが初めて作った謎解きって、どういうものだったんですか?

加藤 初めて作った日は2007年7月7日なんですよ。たまたま777だったので今でも覚えていて。細かいところを話していくと長い話になるんですけど、当時僕は京都で毎月フリーペーパーを作っていたんです。でもフリーペーパーに広告を入れるなんていうビジネスモデルはとっくに終わっていたので、もう「フリーペーパーは豪華なチラシだ」と考えることにして。誌面で自分たちのイベントを告知して、その入場料で印刷代だけでも稼ごうって考えたんです。それでいろんな企画を考えていたときに、集まってたボランティアの学生に「最近なんか面白いことある? 」って聞いたら、1人の女の子が「昨日ネットで脱出ゲームやってて徹夜しちゃったんですよ」って言って。じゃあそれをイベントにしようよって話になり、2週間後に告知をして、1カ月後に本番をやりました。

のっち 早い! それってどんなものだったんですか? 本当に部屋に閉じ込められて脱出するタイプの?

加藤 そうですね。ネットの脱出ゲームをそのまま移植したような形で。小さい部屋に5人くらい閉じ込めて、いろんなところをひっくり返したり剥がしたりして謎を解くっていうゲームでした。今みたいにパズルを解くというよりは、探索すると意外なところから意外なものが出てくる、みたいなゲームでしたね。そのときにすでに「あ、これは世界的に流行る遊びになるな」って思いました。

のっち へー!

加藤 お客さんの熱狂ぶりが、すごいミュージシャンのライブを観たときの興奮に似たものがあったんです。そこにはミュージシャンどころか誰もいないのに、仕組みで人を興奮させるっていう面白さを感じて。「大至急これを広めなきゃ」って、その日の夜に思いました。

のっち 初めて脱出ゲームに興奮したのは、自分が脱出する側としてじゃなくて、ゲームを作った側としてだったんですね。

加藤 どっちかというとその日は、興奮してる人たちを見て興奮してました。さらにさかのぼると、僕は子供の頃に少年探偵団に憧れてたんです。それで友達を4人くらい集めて少年探偵団を結成したんだけど、悩みがあって。事件が起こらないんですよ。

のっち あはは(笑)。かわいい。

加藤 仕事を募集するポスターを作って近所に貼って、家の電話番号を書いてたからお母さんに叱られたとか、いろいろあったんだけど全然事件が起こらない。「世の中にはナチュラルには謎が落ちてない」ということに小学校4年生ぐらいのときに気付いて、けっこう深く傷付いたんですよ。「自分には物語は用意されてないんだ」ってことに傷付いたまま、32歳になって。

のっち ずいぶん経ちましたね(笑)。

加藤 だから初めて脱出ゲームを作ったときに「僕ががんばれば世の中に謎を仕込むことができるんだ」っていうのがわかって、小学校4年生の頃の深い傷が癒やされたんです。そして、すごくたくさんいるであろう自分と同じような人が、これを求めるだろうなって。

のっち まんまと求めてますね、私たち(笑)。

加藤 物語に登場できるのって、ごく限られた選ばれた人だけじゃないですか。特別な日常を送っている人もそんなにたくさんはいないし。僕は選ばれなかったという意識が強いから、選ばれない側の人のゲームを作りたかったんです。だから初めて作った脱出ゲームでみんなが興奮してるのを見て、全部のピースがそろったなと感じました。

のっち ちなみに加藤さんはどういうときに謎を思い付くんですか?

加藤 謎とかアイデアっていうのは「さあ、今すぐ何か思い付いて」って言われたときに必ず思い付くものだと思っていて。重要なのは、思い付くまでの日々をどう過ごしてきたか。

のっち くうー……なるほど!!

加藤 これはすべてのジャンルでそうだと思うんですけど、「思い付いて」って言われたときに、準備ができてる人はすぐ思い付けるんです。日々生活してる中で「今のこの状況を別の視点に切り替えたらこう見えるかもしれない」とか、「今しゃべった言葉の末尾を変えたらみんなどういう気持ちになるだろう」とか。常にあらゆる可能性を考えて、自分の心を動かす面白いことをたくさん集めて覚えておければ、それが積み重なって力になるんですよ。

のっち やっぱり常に考えてるんですね。その話は確かに謎解きに限らないなあ。マジで背筋伸びました(笑)。私は作品を作ったり何かを生み出す側ではなくて、曲や振り付けや演出をもらって、それをライブの一瞬でいかに表現するかを考える側なので、「なんかアイデアありませんか?」って言われても普段考える頭じゃないからなかなか出てこないんですよ。「この話について何かエピソードありますか?」とかパッと聞かれても、まったく浮かばない(笑)。

山本、本当に天才ですよ

加藤 今日はのっちさんに見てもらうために初期の脱出ゲームの企画書を持ってきました。

のっち わ、すごい。最初に企画を出すときってこういうふうに文字で書くんですか? それとも会議とかで口頭で発表するんですか?

企画書を読むのっちさん。

企画書を読むのっちさん。

加藤 フェーズによるんですけど、最初の最初は口頭で「こういうの思い付いたよ」「やろうよそれ」みたいな感じ。でもそれだけじゃ会社全体に共有できないので、広報や運営や店舗とかに共有するためにこういうのを作るんです。

のっち 脱出ゲームを作る人の中にはたぶん、「こういうストーリーを思い浮かんだんだ」から作る人と、「こういう仕組みの謎をやりたいんだ」から作る人がいるんですよね?

加藤 正確に言うと「ストーリーから作る人」「謎から作る人」のほかに「システムから作る人」っていうのがいるんです。例えば「端末を片手に9個の部屋を1個ずつ進んでいく部屋ができたら面白いですよね」と言って「Escape from The NINE ROOMS」のシステムを考えて、そこでの謎を考え始めるという。

のっち あー、なるほど。そういう場合はストーリーは後付けなんですね。で、「9個の部屋がある」というシステムさえあれば、ストーリーを変えれば2作目が作れるという。

加藤 寸分違わずその通りですね(笑)。

のっち この「リアル通信ゲーム」っていうのはあれのことかな……「ある2つの通信基地からの脱出」の南極・北極基地キット?

加藤 これは違うんですよ。「エイリアン研究室からの脱出」のもとになった、山本(渉)が書いた企画書なんです。

「リアル通信ゲーム」の企画書を持つ加藤さん。

「リアル通信ゲーム」の企画書を持つ加藤さん。

のっち Perfumeのリアル脱出ゲームを考えてくれた山本さんですね。

加藤 7年くらい前、山本が大学を卒業するかしないかのときに、この紙を1枚だけ持ってきて「SCRAPに入れてください!」って言ってきて。そんな人は山ほどいたんだけど、みんな自分で考えた謎を持ってきたり、タイトルだけ持ってきたりしてる中で、山本はこの1枚を持って「SCRAPさんはいつまでリアル脱出ゲームやってるんですか? もっと没入度の高い物語体験を作るべきです! 例えばこういうのどうですか?」って訴えたんです。その場で入社が決まりました。

のっち うわー! すごい! 山本さんのプロフィールに書いてある今まで作った脱出ゲームを見ると、全部好きなやつなんですよ。

加藤 そういう人多いんです。「ドラえもん」とか「ポケモン」とか「ときどき監視員」とか。これ「ときどき監視員」の企画書なんですけど、すごくないですか?

「ときどき監視員が見回りに来る部屋からの脱出」の企画書。

「ときどき監視員が見回りに来る部屋からの脱出」の企画書。

のっち 最初の案は「監視員」じゃなくて「老婆」とか「覆面の男」とかだったんですね! へー!

加藤 僕は山本に「最近オーソドックスな謎解きがないから、ちょっと普通のやつ作ってくんない?」って依頼したんですよ。で、上がってきたのがコレで、「お前、気は確かか? これのどこが普通なんだよ!」って(笑)。でもめちゃめちゃよくできてるし、絶対面白いからやろうって。

のっち 面白かった! ハラハラしましたねー。あっ、あとはこれもやりました。「絶望テレビからの脱出」。

加藤 それも山本作品ですね。

のっち テレビ局に番組の観覧に行ったら事件が起こって、自分たちが生放送をやらなきゃいけなくなったっていうストーリーなんですけど、自分たちが謎解きしてる様子がカメラで撮影されていて、映像を持って帰ってあとで観れるんですよね。それ、ほかの脱出でもめちゃくちゃやりたかったんですよ。「自分がアレをやってたときに、ほかの人は何してたんだろう」とか「そのヒントどこで出てたんだろう」とかも気になるし。すごく新しい体験でした。

加藤 山本、本当に天才ですよ。

中央が山本渉氏。(写真提供:SCRAP)

中央が山本渉氏。(写真提供:SCRAP)

のっち 「リアル通信ゲーム」の企画書を見ると「Web上での公演も可能だと考えます」って書いてあるじゃないですか。「エイリアン研究室からの脱出」って実際に最近オンラインでもできるようになりましたけど、そのアイデアは最初からあったんですね。

加藤 いや、違うんですよ。コロナで自粛ムードになったときに、僕はしばらく頭が働かなくなっちゃったんです。今までずっと空間でエンタテインメントを作ってきたので、この状況に対して何も考えられなくなって。お客さんもすごい勢いで減っていって、周りからも「どうします? 国も都も動いてますよ?」みたいに言われてたけど、僕はただ「早く収まってくれたらいいなあ」みたいなことしか考えられなくて。そしたら店舗のほうから「このままだとヤバいんで、こんなの作りました! 明日体験してください!」って、オンライン公演の企画書が届いて。

のっち すごーい!

加藤 なんかもう泣きそうになりましたよね。「何言ってんだよ! いいよ!」って。次の日から僕も「ちゃんとやんなきゃやべーな」って思うようになりました(笑)。一番お客さんに近いところで働いてる店舗のみんなが、一番危機感を感じて作ったのがオンライン謎解きゲームだったんです。

ガチガチに型にはめるなんてことは最初から思い付かなかったんです

加藤 そしてこれが「Perfumeの隣の部屋からの脱出」の企画書ですね。

「Perfumeの隣の部屋からの脱出」の企画書を読むのっちさん。

「Perfumeの隣の部屋からの脱出」の企画書を読むのっちさん。

のっち 本来なら直接会って打ち合わせをして、この企画書で説明してもらえたんだと思うんですけど、時期的にそれができなかったからサンプル映像を見せてもらったんです。

加藤 山本がPerfume役をやってましたよね。「え! お前が!?」って。衝撃映像(笑)。

のっち すっごい上手でイキイキしてて、もうこれでいいんじゃないかって思っちゃいました(笑)。そもそも「Perfumeの隣の部屋からの脱出」は私たちから「こんなのが作りたい」ってお願いしたわけでなく、「私たちが好きな脱出ゲームはこれです」っていうリストをSCRAPさんに渡して、それをもとに山本さんたちが全部考えてくれたんです。それでできあがったのが、ある事情で今すぐ外に出なければならなくなったPerfumeに「お願い! 15分で脱出するのを手伝って!」と言われるっていう内容で。そんな設定、自分たちじゃ絶対思い付かない(笑)。アイデアがすごいですよね。あと、隣の部屋にいる私たちの映像を撮影したんですけど、そのときの演技プランのディレクションがものすごく的確で。やっててめちゃくちゃ気持ちよかったです。

加藤 山本、めちゃくちゃ興奮して帰ってきましたよ。本当にすごかった。「最高のやつ撮れたんで! 楽しみにしててください!」って。「完璧にしてから見せます」って言って、見せてくれないんですよ。

のっち ははは(笑)。「もっと焦って! そのほうが助けたいっていう気持ちになるから!」みたいなディレクションがあって気持ちよかったです。私も私で「言わないほうがいいことはありますか?」とか、かなり細かく聞きましたね。自分たちが脱出ゲームをしてるときにも「なんか今のセリフ意味ありげに言ったなあ」みたいなことが、すごく気になるから。あと私、ゲームが始まるときの「◯分以内にすべての謎を解いて、この部屋から全員で脱出しましょう!」みたいなセリフが大好きなんですけど、その大事なセリフを私がもらったんですよ! それがめっちゃくちゃうれしくて!

加藤 僕も最初の6年ぐらいは全部の現場に行って演者に演技指導をしていたんですけど、そのときに言ってたのは「お客さんに本当に物語の中に入ったような気持ちになってほしいから、あなたがまず物語の登場人物になってください。そして、そのなり方は任せます」ということで。絶対に言わなくちゃいけないことのリストだけ渡して、「この世界観はもう僕らが必死で作ったから、この物語の中であなたならどういうオペレーションするのか考えてください」って言って、細かいセリフはもう全部任せたんです。そのほうがみんな、のびのびと自然に話してくれる。細かくセリフとト書きを書いて渡すと、みんな演技をしようとするからおかしくなっちゃうんです。完全に自由というわけじゃないけど、普通のテーマパークに比べるとかなり自由に運営されてると思います。

のっち へー! 決まってないんですね。確かにキャストさんに対して「柔軟だなあ」って毎回感心するんですよ。その公演が楽しいか楽しくないかって、それによって左右されるじゃないですか。

加藤 でも、そういうものだと思ってたんですよね。僕は32歳までなんとなく定職に就かず売れないミュージシャンをやっていたし、一緒に謎解きを作り始めたのも、周りが作る枠組みに入れなかった人たちだったから、ガチガチに型にはめるなんてことは最初から思い付かなかったんです。

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加藤さんが体験した「Detroit: Become Human」でのとてつもなく悲しいエンディング

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アオキュ @aoky_

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