第78回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した本作。オスロで俳優として活躍するノーラと、息子と穏やかに暮らす妹アグネスのもとに、幼い頃に家族を捨てた映画監督の父グスタヴが現れる。グスタヴは新作映画の主演をノーラに依頼するが、彼女はその申し出をきっぱりと拒絶。ノーラはほどなくして、代役にアメリカの人気若手スター・レイチェルが抜擢されたことを知る。レナーテ・レインスヴェ、ステラン・スカルスガルド、インガ・イブスドッテル・リッレオース、エル・ファニングらが出演した。
愛憎入り混じる親子のしがらみを描く本作。伊藤は「文芸界では、親子の物語は食傷気味だと言われることもあります。この問題を描こうとすると、怒鳴り合って『でも愛してる!』というような展開になりがちだと思うのですが、この映画では静かに感情が流れていて。すべてを語らない姿勢がきれいな映画だと思いました」と感想を述べる。奥浜が「セリフ以外の視線や表情がとても雄弁で、登場人物の内側で波が起きているのが伝わりますよね」と口にすると、伊藤は「言葉で伝えようとすると、枠に入らない感情はこぼれてしまう。言葉で語りきらないことで『これは私にもあったことかもしれない』と解釈が広がりました」と頷いた。
noteに投稿した「パパと私」というエッセイが話題を呼んだ伊藤。彼女は「(本作を観て)まず自分の父のことを思い浮かべましたが、グスタヴは私にとって母でもあると思いました。母は文学を嗜む人なので、認められたい、褒められたい、でも根に持っていることもある……。グスタヴは、いろんな人物が入り混じった父親像に見えました」と伝える。また伊藤は「私は父とケンカして10年間会っていませんでしたが、『向こうは私を許すだろうか』という気持ちがずっとあったんです。この映画でも、グスタヴがノーラが出演する舞台を観に行かないシーンがありました。お互いにうっすら、“許されていない”という気持ちがあるんですよね」と自身の父との関係に思いを馳せながら語った。
奥浜は「劇中でグスタヴは娘と新作映画を撮影しようとします。家族を題材に制作をするという点で、思うところはありますか?」と質問を投げかける。伊藤は「その点は、私はグスタヴと同じことを考えていると思います。絶対に口で言いたくないから、作品にしてしまえば“本音だけど標本になる”みたいな気持ちです。『これは虫じゃないですよ』というような(笑)。そのまま伝えたらお互いけがをしそうなので、私は出版社を通しています」と笑いを誘った。また奥浜が「どの登場人物に感情移入をしましたか?」と尋ねると、伊藤は「グスタヴとノーラの間で行き来していました。作家としてはグスタヴ目線ですが、自分がもらってなかったものを引っ張ってこようとするところはノーラに共感しました」と回答する。
印象的なシーンとして、奥浜は「ノーラには既婚者の恋人がいますが、彼との関係はノーラの他者との関わり方がすごく現れていました」と挙げる。伊藤は「グスタヴとノーラが和やかにタバコを吸うシーンです。ラストシーンになりそうな場面でしたが、あえて中盤に持ってきて、そこから(2人の関係に)波がある描写に『たしかに、現実ってそんなうまくいかないよね』と思いました」と回想。またノーラの妹アグネスについて伊藤は「彼女はお父さんに対してあきらめていて、優しくなってるように感じました。アグネスは子供の頃、グスタヴの映画に出ているんですよね。そのときに思いっきり愛されて、思いっきり突き放されたんだと思うんです。それを機に期待しなくなったんじゃないかな」と自身の考えを述べる。奥浜は「ノーラは父に期待しているからこそ憎しみが生まれるのかもしれませんね」と言葉を紡いだ。
本作は第83回ゴールデングローブ賞でグスタヴ役のスカルスガルドが助演男優賞を受賞。また第98回アカデミー賞では作品賞を含む8部門9ノミネートを果たした。伊藤は「この作品のキャストは、呼吸の演技が印象的でした。何も語らなくても、息の上下の仕方でこれから何をしようとしてるか伝わり、すごいなと思いました」とたたえる。最後に伊藤は「昨年11月に新刊『変な奴やめたい。』を出しました。親子の話でしたら『アワヨンベは大丈夫』がお薦めです」と紹介し、イベントを締めた。
映画「センチメンタル・バリュー」は2月20日より東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国でロードショー。
映画「センチメンタル・バリュー」予告編
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【イベントレポート】伊藤亜和が「センチメンタル・バリュー」の親子関係に共感、奥浜レイラとトーク
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