第25回TAMA NEW WAVEでグランプリとベスト男優賞を受賞した「ライフ・イズ・ビューティフル・オッケー」が、2025年10月4日より東京・ユーロスペースで公開される。本作はとある中華料理屋を舞台にしたヒューマンドラマだ。
木下家が営む中華料理屋で居候をしながら働く牧原和章と、働きもせず未完の物語を書き続けている長子の木下美和。牧原は美和のために賄いのオムライスを作り、美和はそのオムライスを食べるという、2人の日常は変わらずこのまま続いていくものだと思われた。ある日、営業中に訪れた客・聡美との出会いをきっかけに、牧原の日常に小さな変化が生まれていく。一方、父の命日のため次子の優実と三子の竜矢が久しぶりに店に集まった。仕事もせずパソコンとにらめっこの美和を助けたいと家族は画策。牧原と木下家の人々は、それぞれの形で“今”に向き合おうとするのだった。
監督を務めたのは、初長編監督作品「リバーシブル/リバーシブル」で、第45回ぴあフィルムフェスティバル2023 PFF2023アワードの審査員特別賞を受賞した石田忍道。石田がたまたま入った定食屋で、主人が1人せわしなく働く姿から着想を得て本作の構想がスタートした。牧原を「リバーシブル/リバーシブル」でも主演を務めた
本作は東京・国立市で国立市フィルムコミッション全面協力のもと、中華料理店や帽子店など全編オールロケにて撮影を敢行。日本語と日本手話によって構成され、全シーンに日本語字幕を付けた演出がされている。メインビジュアルはイラストレーター・我喜屋位瑳務とコラージュデザイナー・M!DOR!が手がけた。
石田は「それぞれの速度で『今』を自由闊達に生きていくのはどんなことでも素晴らしいことだと思っています。ぜひご鑑賞ください」とコメント。田丸は「肩肘を張らずに他人の人生をちょっと覗く感じで見てくださると幸いです」と語った。このほか
石田忍道(監督)コメント
「異例規模の引きこもり実態調査結果を発表しました」
僕は何気なくそのニュースを目にし、衝動的に引きこもりについて取材を始めていました。
その時にたまたま入った定食屋で主人がひとり忙しなく働く姿から着想を得て「ライフ・イズ・ビューティフル・オッケー」とういう物語がスタートし、新奇に富んだキャストやスタッフ、ロケーション、様々な人の可能性が交差しながら劇場公開に至っています。
脚本製作時のメモにこんなことが綴ってありました。
障がい、人種、その他、全て関係ない。
配慮は必要だが優遇、特別扱いともまた違う。
「そこにいていい」世界を。
非認知で生きろ
「ライフイズビューティフルオッケー」
それぞれの速度で「今」を自由闊達に生きていくのはどんなことでも素晴らしいことだと思っています。ぜひご鑑賞ください。
田丸大輔(店主・牧原和章役)コメント
立川談志さんの「落語は業の肯定」という言葉があります。
「ライフ・イズ・ビューティフル・オッケー」
この言葉は主人公牧原と牧原に絡む登場人物全ての人生に象徴するもので、まさに「業の肯定」に通じます。肩肘を張らずに他人の人生をちょっと覗く感じで見てくださると幸いです。
石川慶(映画監督)コメント
奇想天外なのに、なぜか見覚えのあるリアルさ。たぶんそれは、石田監督が描くキャラクターたちが、本当に“人間”だから。
リアルな人って、実は一番予測できなくて、だからこそ面白くて、愛おしい。
この映画は、そんな人間たちを通して、静かに、でもまっすぐに語りかけてくる。
Life is beautiful.
たぶん、それだけで十分なんだと。
ジェーン・スー(コラムニスト / ラジオパーソナリティ) コメント
誰かのしあわせの形を勝手に決めて、それを叶えてあげようとするなんて、その力が自分にあると思うところまで含めておこがましい。忘れがちだけど、忘れてはならないことだ。
忍足亜希子(俳優)コメント
「日常生活の風景はどの家庭でも存在してる」
人間生き物はいろいろな事情を抱えて生きています。時代の流れでマジョリティとマイノリティという言葉が浸透してきましたが、個性も十人色、多様性社会に変化してきています。
この作品を通して「今をどう生きていくか」もう一度自分を見直してみませんか?
五十嵐大(作家)コメント
誰も追いつけないような速さで人生を突き進んでいける人もいれば、その場で停滞しているように見える人もいる。そしてしばしば、後者は軽んじられ、あるいは「いつまでそんなところにいるのだ」と蔑まれる。本作の美和もまさにそうだろう。
でも、主人公の“おじさん”は、そんな美和にさり気なく寄り添う。ただそばにいて、美味しいご飯を作ってやる。それはどれだけ優しく、難しいことだろうかと、ふたりのやりとりを見守りながら、胸の奥がじんわりと温かくなっていった。
そうして気が付く。“おじさん”と美和のことを撮り続けた石田監督の眼差しこそが、誰よりも優しいのだと。
相田冬二(映画批評家)レビュー
混ぜる、ゆきかう、反転する。
「ライフ・イズ・ビューティフル・オッケー」は、時間と空間を「どうにかする」洒脱なレシピである。ゴダールとは違うやり方で、ゴダールが生涯やり続けたことと同質ななにかを生み落とす。
ひねくれたところがまるでない作品の性質は、早々にクライマックスのように料理法を明滅させる。なんとすこやかなことか。カムフラージュや暗喩に頼らず、この監督は素手でものを創っている。
バニラアイスに粒あんを混ぜる。きな粉も混ぜあわせる。彼は「隠し味」と呼ぶが、すぐに「隠れてないよね」と指摘される。そう、これは隠し事のない映画だ。大理石プレート上の卓越したシークエンスは、心情吐露ではなく、「よーし、いくぞー!」という所信表明である。歌をうたいながら、己の信じていることをしっかり示すから心地好い。
主人公が料理人であり、料理の様も音もきちんと凝視されるのは必然なのだ。彼=映画は、時間と空間を混ぜ、ゆきかわせ、反転させる。「営業中」の札を「準備中」にひっくり返すような単純さで。
食事を終えた彼女を送っていくショットが反復される。反復は生と死の境目を意識させる。高橋さんの生死をめぐる日常的な会話。墓参り。夏祭り。あの世とこの世が隣接している。何度か、登場人物は全員亡くなっているのではと夢想した。たこ焼きの味。
全編に敷き詰められた日本語字幕は沈黙を意識させる。〈無音〉という文字化は、手話による豊かなコミュニケーションの予告であり、過去と現在がゆきかう情景を用意する。声と字幕の関係がある時、反転する。それがエモーションなのだとわたしたちは気づく。
現実か。執筆中の小説の出来事なのか。どちらでもいい。わたしたちが生きる時間と空間には「改善の余地がまだある」のだから。
青と白のポロシャツ。青と白の浴衣。混ぜる、ゆきかう、反転する。夏の青空が見ている。泥の寿司をあむあむ食べる。
伊藤亜和 @LapaixdAsie
出演した「ライフ・イズ・ビューティフル・オッケー」がユーロスペースにて上映されます!我喜屋さんのイラストだ〜! https://t.co/IhwjV3IvIp