ソイ・チェンが「トワイライト・ウォリアーズ」までの歩み述懐、続編は来年3月より撮影
2025年10月28日 21:07
11 映画ナタリー編集部
第38回東京国際映画祭のプログラムとして、香港映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」の監督ソイ・チェン(鄭保瑞)によるマスタークラスが、本日10月28日に東京・丸の内ピカデリーで行われた。
「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」は、第77回カンヌ国際映画祭で初披露されるや、世界各地から集まった観客の喝采を浴び、第43回香港電影金像獎で作品賞を含む9冠を達成。日本でも2025年1月に公開され、興行収入5億円を超えるヒットを記録している。
上映後の拍手に迎えられて登壇したソイ・チェンは、観客を見渡しながら少し照れたように笑い、「1年経ってもまだこの映画を観ているんですか?(笑)」と一言。会場が和やかな笑いに包まれる中、昨年の東京国際映画祭で本作のジャパンプレミアを迎えたことに触れ、感謝の言葉を口にした。
「ドッグ・バイト・ドッグ」で確立した暗黒暴力の美学
香港ホラーの新星として頭角を現したソイ・チェンは、2006年の東京国際映画祭でも上映された「ドッグ・バイト・ドッグ」で国際的に注目を集める。同作の撮影現場は過酷だったようで、「タイのごみ山でバトルシーンを撮りました。サム・リーのアクションの動作が1つ多かったので、『どうした?』と聞いたら、『口の中にゴキブリが入った』と。そんな現場でした」と苦笑いを交えつつ述懐。「でもこの作品で、自分の見たものを表現する方法を見つけたのです。ダークで腐敗した世界をどう見つめ、自分の美学を通してどう表現するか。そうした方法をこの映画で見出したんです」と語る。この“暗黒暴力の美学”は、のちの「リンボ」などにも通じるものであり、自身の創作における原点となったという。
続けて日本のマンガを映画化した「軍鶏 Shamo」についても率直に触れ、「はっきり言って失敗作です。あまりにも原作が好きすぎて、盛り込みすぎてしまった」と反省を口にした。だがその“失敗”を糧に「(以降の作品では)学んだことを反映できました」とし、「原作者の橋本以蔵先生とも交流を持つことができて感謝しています」と続けた。
銀河映像でのジョニー・トーとの出会い
大きな転機となったのは、2008年にジョニー・トー率いる銀河映像(Milkyway Image)に加入したこと。「これまでの作風とまったく違うことをやろう」と決心したという。プロデューサーとしてのジョニー・トーに感謝を述べつつも、そのやり方については「非人道的です(笑)。プロットを何度も突き返され、20回以上の『駄目ですね』をもらいました。想像できますか、この苦痛を?」と苦笑い。しかしその厳しさこそが映画へのこだわりだとし、2009年のルイス・クー主演作「アクシデント」も、彼の映画に対する追求の末にできた作品だと説明した。
続いて「モーターウェイ」の撮影について尋ねられると、「はあ」と大きなため息をついてから「災難でした(笑)」と自嘲気味に振り返り、編集段階で「映像がひどすぎてモニタを壊したくなった」と明かす一幕も。それでもジョニー・トーが責任を持って自腹で再撮の機会を与えてくれたと続け、「7、8日あれば撮れると思っていたみたいだけど、私の希望通り16日間の撮影のチャンスをくださいました」と感謝をにじませた。
その後、ウィルソン・イップ製作による「ドラゴン×マッハ!」などでさらに活躍の幅を広げていく。「ウィルソン監督は同世代で話しやすい。感情表現や人間ドラマの描き方をよく教えてくれました」と語り、「例えば『ドラゴン・マッハ!』。映画は必ずしもハッピーエンドじゃなくてもいいんですが、この作品に関しては、作中に登場する少女を『死なせちゃ駄目だよ。彼女は希望を表す存在だから』と言われた」と明かす。現場で自由にやらせてくれる点においてはジョニー・トーと同じだが、ウィルソン・イップについては「もう少し優しくて、よく話し合ってくれる。ただ、失敗したら責任を取れという点では厳しいけれど(笑)」と比較しつつ、その信頼関係をうかがわせた。
「リンボ」で原点回帰、「トワイライト・ウォリアーズ」へ
中国で挑んだ「西遊記」3部作にも触れ、「制作規模が大きく、いろんな国のスタッフと仕事をする中で多くを学びましたが、正直クリエイティブの面では迷いもあった」と本音を吐露。3作目を撮っているときに「自分は何を撮りたいのか」を見失い、なぜ映画を撮るのか自分に問い直した時間があったことで、その後の「リンボ」で原点を取り戻せたと語る。
そして、2026年1月に日本公開を控える「マッド・フェイト」を経て生まれたのが、大ヒット作「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」だ。ソイ・チェンは続編について「来年3月にクランクインが決まっています。いつ上映するかは未定です。そのあと前日譚も撮る予定。脚本もすでに完成しています」と明言。「九龍城砦の話をすると、皆さんニコッと笑いますね。早く続編を撮り終えて、皆さんにお見せしたい」と意欲を伝えた。最後に「自分を見失ったり、落ち込んだり、山あり谷ありの繰り返しです。でも、そこから生まれるものが意外とよかったりする。『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』も、実は自分を見失って迷いながら作った結果で、皆さんに『よかった』と言ってもらえた。だから自分はとてもラッキーです」と真摯に語り、観客から再び大きな拍手が送られた。
第38回東京国際映画祭は11月5日まで開催。
史-fumi- 着物男子ベーシスト/スタイリスト @fumi_saito
続編は来年3月撮影開始😭✨🙏 https://t.co/OBD2oGLaa9