岩井澤健治「音楽」主人公たちの“ソウル”は、ロトスコープ発明の歴史と一致

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第3回新潟国際アニメーション映画祭の企画「ロトスコープの現在」にて、2020年公開作「音楽」が本日3月19日に新潟・日報ホールで上映。監督の岩井澤健治と、立教大学現代心理学部映像身体学科准教授の宮本裕子がトークセッションに登壇した。

岩井澤健治

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「音楽」場面カット © 大橋裕之/ロックンロール・マウンテン/Tip Top

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大橋裕之のマンガをもとにした「音楽」は、楽器を触ったことがない不良学生たちが思い付きでバンドを組むことから始まる“ロック奇譚”。岩井澤が7年を超える歳月を掛けて個人制作で完成させた。第43回オタワ国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門でグランプリ、アヌシー国際アニメーション映画祭2020で最優秀オリジナル音楽賞に輝いている。

左から宮本裕子、岩井澤健治

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実写の動きを1コマずつトレースしてアニメ化するロトスコープの手法が用いられている本作。ロトスコープの発明者であるマックス・フライシャーデイヴ・フライシャーについて研究している宮本は、「100年以上前に発明された技術ですが、現在も使われていますし、デジタル映像によってアニメーションと実写の境界があいまいになった今の状況を先取りしていたとも言えます。そういった意味で、古くて新しい技術ですよね」と話す。続けて「当時のアメリカはアニメーション産業がまだ大きくなく、絵が描ける人も少なかった。そこで、実写を撮ってトレースしたら速く・うまく絵が描けるじゃないか!という意図で開発されたと、特許の申請書に書かれています」と成り立ちを説明した。

宮本裕子

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「音楽」について宮本は「主人公たちは楽器を演奏するという技術はないけれど、音楽のソウルはある。ロトスコープという手法自体、“技術がなくてもアニメーションを作りたいという情熱はある”というものだった。物語の内容とこの手法がきれいに一致しているのが素晴らしいと思いました」と分析する。岩井澤は「ありがとうございます。自分の創作がこうやって歴史と結び付いていると聞き、すごい作品を作ったんだ!と実感します」と喜びを伝えた。

岩井澤健治

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岩井澤のキャリアに話題が及ぶと、彼は「スタートは実写映画の現場で、実写作品の監督になりたいと思っていました。ただ、周りにいた今泉力哉をはじめとする同世代の監督のクオリティには敵わないなと思ったんです」と述懐する。岩井澤は、一時は実写映画から遠ざかったと言うが「『自分の作品を作りたい』という気持ちはありました。子供の頃から絵を描くのが好きだったので、実写を撮影してトレースすればアニメーションっぽいものになるなと思って短編から作り始めたのがきっかけです」と語る。さらに「ロトスコープという手法だとは知らずに作っていました。映画祭に参加したとき、審査員の口から『ロトスコープ』と聞いて初めて知りました」と明かし、観客を驚かせた。

宮本は「『音楽』を初めて観たとき『あんまり動かないじゃん』と思ったんです(笑)。けっこう止まっていて、それがオフビートな雰囲気につながっているのですが、一方で絵の密度が高いシーンもある。この緩急は計画されたんですか?」と質問する。岩井澤は「この手法を知ってから勉強する中で、“ロトスコープ=リアルな絵の動き”というところばかりフィーチャーされるなと思っていたんです。ディズニーの創世記の作品や、フライシャー兄弟の作品のように、キャラクターをデフォルメして情報を制御するというやり方に立ち返ると、見え方が変わるのではないかと考えました」と口にする。そして「背景まで(細かく描き込んだ)すごく密度のある絵を躍動的に動かすこともできるのがロトスコープの強み。その両極端なものを入れないと、せっかくロトスコープで制作するのにもったいないなと。意識して、ギャップや意外性を作りました」と述べた。

左から宮本裕子、岩井澤健治

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フェスのシーンはキャラクターと背景を1枚に描いているため、レイヤーはないという。岩井澤は「ベースに実写がある分、何をやっても映像としてバランスを保って収まってくれるので、大胆なことができるんです。それは制作をする中での気付きでした」と回想。また「『実写で撮って絵にするって大変ですよね』とすごく言われるんですけど、自分にとっては逆で、コストを抑えてクオリティの高いものを作る技術だと思っている。今日歴史などをお聞きして、自分の考えに改めて納得できました」とコメントした。

第3回新潟国際アニメーション映画祭は、明日3月20日まで新潟市民プラザほかで開催される。

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すぎまる @sugimarco

【新潟国際アニメーション映画祭イベントレポート】岩井澤健治「音楽」主人公たちの“ソウル”は、ロトスコープ発明の歴史と一致
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