劇場アニメ「
「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」に連動してシンポジウムなどを行う、ネットワーキング型アカデミープログラム「ひろしまアニメーションアカデミー&ミーティング(HAM)」の1つとして企画された本プレゼンテーション。現在も劇場公開が続く「ルックバック」の制作の裏側のほか、押山のアニメーション監督としてのこだわりや手法などに迫る。聞き手は、新千歳空港国際アニメーション映画祭のプログラムアドバイザーでもある田中大裕が担当した。
アニメーションの世界に入ったきっかけについて問われると、押山は「絵を描く仕事を探していたら“アニメーター”に行き当たって、『なれそうかな?』と。採用試験を受けて唯一引っかかった会社に入りました」と打ち明ける。アニメーターという職業を理解し、現在の方向性を決定付けた仕事は「アニメ『電脳コイル』での作画監督」と回答。「
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」「風立ちぬ」といった作品に関わったのち、2016年にテレビアニメ「フリップフラッパーズ」で初監督を務めた際には、大きな心境の変化があったという。押山は「いち原画マンや作画監督として作品に関わるときは、周りで自分の思う通りに仕事をしてくれない人がいると不満というか、イライラしてしまう部分があって(笑)。オリジナル作品で自分が監督をしたことで、関わってくれるスタッフに対して幅広く感謝の気持ちが芽生えた。かなり許容範囲が広くなりました」と述懐。そして「僕は原画も描けるし、修正もできるし、いろんなところに首を突っ込みたくなるスタイルの監督だとわかったんですよね。これだけ自分のリソースを100%作品に注ぐタイプだと雇われ監督は割が合わないと思ったんです」と、2017年に制作会社スタジオドリアンを設立した理由にも言及した。
続いて「ルックバック」のアニメーション化のオファーがきた際を振り返り「(登場人物たちの)気持ちがめちゃくちゃわかったので、あとはどれだけ自分ごととして表現できるかでした。原作を大きく改変しちゃうのは嫌だなと思っていたんですが、作品に自分を投影しても大きく変えずに成立させられるビジョンが見えたし、映画にする意味も見出せた」と語る。本作は劇場アニメには珍しい少人数の制作スタイルでも話題になっており、自ら原画の多くを手がけた押山は「マンガ家が1人でマンガを描くように、アニメも限りなく自主制作っぽい作り方をしたいという思いが企画段階からあったので、チャレンジしました。そういう作り方と相性がいい作品だったし、僕が極力無駄を省くこの作り方に憧れていたのもあります」と説明した。
一方、背景美術のクオリティに関して押山は「僕の立場でやれるのは、背景さんに渡す設計図をどれだけ作り込めるか。空間表現を的確に指示して、あとは適材適所でスタッフを割り当てていきました」と回想する。スタッフ配置においてはアニメーターにも同じことを意識したそうで、「それぞれ個性を持っているので、一番生かせそうなシーンを任せていました」と言い、「うまくないと話にならないので『この人上手!』と思う人だけに仕事を振りました。皆さん売れっ子ですが『過去に一緒に仕事したから』『押山くんだから手伝ってあげよう』と言ってくれて、それは長くアニメ業界にいたからこそだなと思っています」と感謝を口にした。
田中からは「コンポジット(撮影処理)の時点でレンズの効果など加工を加えることも多いが、『ルックバック』では最小限に留めている。絵の存在感で映画を引っ張っていくアプローチを選択された理由は?」という質問が。押山は「この作品は撮影処理が薄めなんですけど、写実寄りにはしようと思っていて。劇場アニメということでカットごとにキャラクターの色彩設計にこだわれる環境にあったので、線を減らしても、撮影処理が少なくても、画面はある程度持つのではないかという組み立てでやっていました」と答えた。
また、押山は「どうしても『アニメ作りとはこういうもの』と頭が固くなってしまいがち。状況が変化している中で、同じことを繰り返していてもつまんないなと。そういう意味では、作品ごとにいろんな方法をチャレンジしてみたいですね」と力を込める。「ルックバック」では耳の描き方にもこだわったと言い「耳の中の省略の仕方って、作品ごとに線が違うんですが、今回は線を省いて影だけで耳の立体感を出しました」と珍しい表現方法も明かした。
トキオ♻︎ @ttokimo
【イベントレポート】押山清高が「ルックバック」の制作体制を回想「マンガ家が1人でマンガを描くように」 https://t.co/osG7ts2nzW