「オオカミの家」が日本で成功したのはなぜか、配給・宣伝・興行担当が分析

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「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」に併設されたシンポジウム「配給成功事例研究 シュヴァンクマイエルから『オオカミの家』へ」が、本日8月15日に広島・JMSアステールプラザにて開催された。

左からペトル・ホリー、山下泰司、笹川麻紀子、山下宏洋。

左からペトル・ホリー、山下泰司、笹川麻紀子、山下宏洋。

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映画祭と連動してシンポジウムなどを行う、ネットワーキング型アカデミープログラム「ひろしまアニメーションアカデミー&ミーティング(HAM)」。同シンポジウムでは、1990年代から日本で根強い人気を誇るヤン・シュヴァンクマイエルの監督作や、クリストバル・レオンホアキン・コシーニャによる「オオカミの家」をケーススタディとして取り上げ、海外アニメーション作品の日本での配給について考える。参加したのは、翻訳家としてシュヴァンクマイエル作品の字幕翻訳を手がけたことのあるペトル・ホリー、「オオカミの家」の日本配給を発案したWOWOWプラスの山下泰司、同作の配給会社であるザジフィルムズの笹川麻紀子、海外アニメーション作品の興行を数多く担当してきた東京のシアター・イメージフォーラムの山下宏洋の4人。

ペトル・ホリー

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ペトル・ホリーが撮影したヤン・シュヴァンクマイエル。

ペトル・ホリーが撮影したヤン・シュヴァンクマイエル。[拡大]

2001年からシュヴァンクマイエルと交流を続けるホリーは、シュヴァンクマイエルからの「最近目をけがしたけど元気です。広島に行けなくて残念です」というメッセージを紹介しつつ、彼の生い立ちやフィルモグラフィを紹介する。ホリーは「日本では1990年代から『シュヴァンクマイエルの世界』など彼のいろんな本が刊行されていて、それが現在も続いている」と述べ、「シュヴァンクマイエル本人は、(世界的に見ても)異常な日本での人気について『日本人は間違っています。私のことを本当に理解しているのでしょうか?』と冗談交じりに言っていました」と話して参加者の笑いを誘った。

山下泰司

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続いて、2019年の新千歳空港国際アニメーション映画祭で日本初上映され、2023年に日本で劇場公開された「オオカミの家」の話題へ。山下泰司は「2020年にアメリカのサイトで『オオカミの家』の予告編を観て『なんじゃこれは』とびっくりしたんです。その後全編観て『ヤバい、どうにか日本でやりたい』と思ったんですが、社内ではなかなか相手にしてもらえなくて。そんなとき、ザジフィルムズさんからやりたい作品はないかと聞かれ、『こんな面白い作品がある』と伝えると、代表の方が『やろうよ』といってくれました」と経緯を説明する。笹川は「アニメーションの新作を手がけるのは近年なかったのですが、うちの代表は(『オオカミの家』の)映像を観る前に『やったら面白いんじゃない?』と反応していました」と当時を回想。一方で「なぜヒットしたのか、今もわからない」と吐露しつつ、2023年の初めから動き出したという宣伝の方針などを語っていく。

「オオカミの家」は、元ナチス党員が1960年代初頭にチリに設立した悪名高い宗教コミューン「コロニア・ディグニダ」にインスパイアされた“ホラー・フェアリーテイル”。笹川は宣伝方針を考えるにあたって「JUNK HEAD」(2021年公開)、「マッドゴッド」(2022年公開)といったストップモーション作品や海外アニメーションのヒット作を洗い出したという。「『ファンタスティック・プラネット』のリバイバル公開を2021年にやったとき、宣伝に時間を掛けられずWeb媒体に情報を流したぐらいだったのですが、若いお客さんが大勢来てくださったんです。海外の昔の作品なので、おそらくよく知らないまま『なんとなくすごそう』みたいなテンションで観に来てくださった方が多かった印象でした」と述懐し、「コア層だけでなく、そういった層のお客さんに『オオカミの家』を届けられたら、成功の可能性があるんじゃないか?と考えていました」と述べた。

左から山下泰司、笹川麻紀子、山下宏洋。

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宣伝ポイントは「誰も観たことのないスタイルのストップモーションアニメーション」「史上もっとも暗いアニメーション映画(怖すぎる)」「注目の2人組アーティスト・監督(レオン&コシーニャ)」の3つ。さらに「アリ・アスターが監督の2人に惚れ込んでいたという“最強の事実”もあった」と熱を込める笹川は、「そういうところを押し出しつつ、ターゲットは映画をよく観ているコア層、『ミッドサマー』などに反応するライト層、ゲームやマンガも含めたホラー好きを想定していました」と振り返る。さらに追い風となった要素として「星野源がラジオで紹介していた」「アリ・アスターの『ボーはおそれている』のアニメーションパートをレオン&コシーニャが担当していることがわかった」「雑誌BRUTUSのホラー特集に乗っかれた」と説明した。

山下宏洋

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わずか3館で始まった同作の上映において、メイン館となったシアター・イメージフォーラムの山下宏洋は「面白かったのは、クエイ兄弟(双子のスティーヴン・クエイティモシー・クエイ)やヤン・シュヴァンクマイエルとは違って客層が若かったこと。アート寄りのお客さんというより、アニメやマンガが好きな10代や女性のお客さんも多く、『呪術廻戦』のTシャツを着ている人もいて新しい現象だなと思いました」と話す。またこれらの海外アニメーションが日本で受ける理由として、「おそらくですが、アニメーションに対する許容度が高い一方で、『アニメーションとはこういうものだ』という固定概念も強い。それらの文法をぶち壊すアニメーションを彼らの作品から見出して魅了されているのではないでしょうか」「絵ではなく“物”が動くので、それらが持つ生命力や不気味さに衝撃を受けたのでは」と分析した。

今後の海外アニメーション作品の配給について話題が及ぶと、山下泰司は「2000年代のアート系というと短編が多かった。近年は流れが変わってきていて、『めくらやなぎと眠る女』や『リンダはチキンがたべたい!』など年に何本も長編の良作がシネコンにもかかっている状況。今ひとつ当て損ねていることに悔しい思いをしているけど、丁寧に宣伝して1本1本大事に経験を重ねていくしかないのでは」と見解を示す。続けて「この手の映画はあまりたくさんの場所で公開しないほうがいいと思う。『オオカミの家』の上映館を3館から80館に拡大していったように、お客さんを散らばらせずに『すごく人が来ている』という状況を作るのも大事」と語った。

なお「オオカミの家」は、公開1周年を記念して8月17日から30日までシアター・イメージフォーラムにてアンコール上映を開催。8月19日と20日の上映後には、コシーニャが舞台挨拶に登壇する予定だ。

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男は全員メガネにヒゲ笑。

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