チリ出身の映画監督デュオ、
「オオカミの家」「骨」の上映後、舞台上に現れたコシーニャは「残ってくださりありがとうございます」と挨拶し、「私のパートナーであるレオンは3歳の娘がいて、子育てもあって来日が叶いませんでした」と説明する。彼が「今回は『骨』の政治的・社会的な背景について時間の許す限り話したいと思います」と前置きすると、イベントが開始した。
劇場公開時も「オオカミの家」と同時上映された14分の短編「骨」は、第78回ヴェネツィア国際映画祭のオリゾンティ部門で最優秀短編映画賞を受賞した作品。“1901年に制作された世界初のストップモーションアニメ”という体裁で作られており、少女が人間の死体を使って謎の儀式を行うさまが描かれる。
制作時期に関して、コシーニャは「2018年頃、チリでは大きな社会的運動がありました。変化を伴う危険な時期でもあったけど、新しく国を作るいい機会でもあった」と振り返る。続けて「現行の憲法は(アウグスト・)ピノチェトの軍事独裁政権のときに作られたもので、結果としてうまくいかず、まだそのままですが、それを変えようという動きが始まったのが2018年でした」と話し、「それまでのチリは特定の親族が裏で操っているような政治をやっていて、すごく保守的でした。そういった古い伝統を吹き飛ばし、新しいチリの社会を作るための“呪文”になるような作品ができないかなと考え、この儀式を構想しました」と語った。
劇中のキャラクターは、権威主義と寡頭政治のチリを築いた中心人物である政治家のディエゴ・ポルタレスとハイメ・グスマン、そしてポルタレスの愛人として彼の子を産んだ少女コンスタンツァ・ノルデンフリヒトという3人の実在した人物がもとになっている。コシーニャは「史実では権力に大きな差があったが、映画ではコンスタンツァが力を持ち、男性たちに復讐ができる作品になったらいいなと思ったんです。だから、コンスタンツァが儀式を執り行う人物となり、その儀式を通してポルタレスと離婚する、ということをこの作品の中心的なアイデアとして考えました」と述べた。
続く短編プログラムでは、「ルシア」「チリ夜想曲」「父。母。」などがスクリーンにかけられた。上映後はコシーニャとアニメーション作家の
イベントでは、来場者とのQ&Aの時間も設けられた。「お二人の作品には、ぼろぼろの布や紙などの人形がよく出てきますが、これらの素材を使う理由は?」と問われたコシーニャは「できるだけ安く簡単に手に入る素材を使いたいということや、変化させるため扱いやすい素材であるということが理由です。そして、もともと生命のない素材に生命を宿し、その“物”自体の物語がどう語られるかということもすごく大事だと思っています」と回答する。「部屋の中の壁に絵を描きアニメーションにするという手法をなぜやろうと思ったのか?」という質問には、「例えば2Dと3Dの表象や、“面白い”と“恐ろしい”といった、拮抗する要素を混ぜることにすごく興味があり、それが私たちの出発点となっています」と伝えた。
山村浩二 @Koji_Yamamura
【イベントレポート】チリ出身のホアキン・コシーニャ、“相方”クリストバル・レオンとは「創造上の結婚」 https://t.co/RsRJs92ssI