第16回アジア・フィルム・アワードの候補作を特別上映する企画・Asian Cineramaが香港で開催中。作品賞をはじめ8部門にノミネートされた「
村上春樹の同名短編小説をもとにした本作では、妻を亡くした俳優・演出家の家福が寡黙な専属ドライバーのみさきと出会い、喪失感と向き合っていくさまが描かれる。家福を西島秀俊、みさきを三浦透子が演じた。
「4年ぶりに香港に来て皆さんに会えてうれしいです」と英語で挨拶した濱口。はじめに司会者から映画のもとになった物語について聞かれると、彼は村上の短編小説「ドライブ・マイ・カー」「シェエラザード」「木野」、アントン・チェーホフの戯曲「ワーニャ伯父さん」を挙げ「総じて言うと、とても優れた原作にある力を使わせてもらっているというのが自分の感覚です」と話した。
劇中で家福の妻が物語を朗読する場面について「感情を入れないように読んでいるのに、伝わってくるものがありました。このシーンはどのようにできたのですか?」と質問が飛ぶと、濱口は「(20代の頃)お金がない中でどうすれば映画が豊かに見えるのか考えていたときに思いついた、“映画の中で語られている物語とは別のレイヤーの物語を語る”という方法です」と答える。彼は「映画というのは映像として見せ『こういうものがある』と観客に信じさせて進んでいく力強さを持ったもの」と続け、「物語を(音として)聞かされただけだと、それを信じるか信じないかみたいなことを観客に任せる部分がある。そういう観客との脆さを含んだ関係が、実は鑑賞体験の豊かさにつながっているんじゃないかという気がしました」と語った。
イベント終盤、濱口が以前に制作した東日本大震災の被災者のドキュメンタリーについて、ファンから演出方法を問われる場面も。濱口は「まず自分にとって大事なことを1つ言わせてもらうと、3月11日は、12年前に日本でとても大きな地震があり、津波や原発事故も起きた日です」と節目の日であることを観客に伝え、「2011年から2年ぐらいかけて、津波の被害を受けた沿岸部の人たちにインタビューをして回っていましたが、それは“親しい人同士で会話をしてもらう”という変わった方法でした」と回想する。彼は「演劇的なセッティングがあることで初めて口にする気持ちもあったりして、その人たちの生命力も感じられた。その気付きは僕にとっても大きな転換点だったと思います」と続けた。そして「その生命力は当然役者にもあるわけなので、フィクションに戻っても役者からそれを引き出したいと思ってきました。新しい作品でも、そういうことを試行錯誤していくんだと思います」と今後の作品作りにも言及してイベントの幕を引いた。
第16回アジア・フィルム・アワードの授賞式は、日本時間の本日3月12日に香港・香港故宮文化博物館にて開催される。
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