西川美和「すばらしき世界」取材協力者に感謝「彼らのおかげで最後に実を結んだ」

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第44回山路ふみ子映画賞の贈呈式が本日11月26日に東京・日本教育会館 一ツ橋ホールで行われ、受賞者の西川美和倍賞美津子高橋伴明横浜聡子尾野真千子清原果耶が出席した。

第44回山路ふみ子映画賞贈呈式の様子。左から高橋伴明、清原果耶、尾野真千子、西川美和、倍賞美津子、横浜聡子。

第44回山路ふみ子映画賞贈呈式の様子。左から高橋伴明、清原果耶、尾野真千子、西川美和、倍賞美津子、横浜聡子。

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戦前を中心に女優として多くの映画に出演しながら、戦後は実業家として活動した山路ふみ子。山路の私財を投じて設立された文化財団が主催する同賞は、映画人の育成を図り、功績をたたえるために毎年発表されている。今回は2020年11月1日から2021年10月31日に公開された映画が対象となった。

「すばらしき世界」Blu-ray販売中 (c)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

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西川美和

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役所広司を主演に迎えた「すばらしき世界」における「元服役囚の社会復帰に伴う過酷な運命を見事に描いた演出力」を評価された西川。佐木隆三による原作小説「身分帳」に触れながら「罪を犯すまでを描いた作品はドラマチックでスリリング。私自身、この小説に出会うまで、悪事を犯した人が刑務所から日常に戻って来るというところに、ちゃんと興味関心を持ったことがなかった。絶版状態だった『身分帳』を復刊させたい思いで映画作りに臨みました」と振り返る。映画を作るうえで元受刑者や過去に暴力団に所属していた人、彼らの社会復帰に協力している人々などに取材を重ねたそうで「実際に会ってお話を聞きながら、このテーマにきちんと向き合うことができました。彼らのおかげで映画が最後に実を結んだ。いろんな事情で映画のクレジットには載ってないんですが、この場を借りて感謝を申し上げたいと思います」と続けた。

倍賞美津子

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「皆さんもずっとやってたら、こういう賞ももらえますよ」と後ろを振り返る倍賞美津子(手前)

「皆さんもずっとやってたら、こういう賞ももらえますよ」と後ろを振り返る倍賞美津子(手前)[拡大]

功労賞を授与された倍賞は「50年以上にわたる映画界への貢献に対して」という評価に「50年もやってたんですかね。いつからだったか、ずっと考えてたんだけど」と顔をほころばせる。別の受賞者にも「皆さんもずっとやってたら、こういう賞ももらえますよ」とチャーミングにコメント。「映画が大好き。でもどっちかと言うと出るよりも観るほうが好き。これからはじっくりと、もっともっと映画を観ていきたい」と話す。来場者からの質問で共演の多い原田芳雄との印象的な出来事を聞かれると、「芳雄さんとは森崎(東)さんの映画でよくご一緒して。お金がないのでお昼のお弁当も塩むすびにたくあん二切れとか、そういうことが多かった。違う監督の作品に出たときにお弁当がすごくてうれしかった思い出があります。貧しい中で作ってましたね」と振り返った。

高橋伴明

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痛くない死に方」で在宅医療、終末医療の1つの在り方をエンタテインメントとして描いた高橋は福祉賞に選ばれた。高橋は「山路ふみ子賞から一番遠いところにいる監督だと思っていました」と述べつつ「業界に入ってら53年、やっとここにたどり着いたのかなと思います」としみじみ。映画業界に入ったきっかけは、大学に入学してすぐの頃に先輩から映画の仕事に誘われたことだったそう。高橋は「現場に行ったら“奴隷”だった。その先輩は自分が辞めたくて私を押し込んだ。奴隷を経験すると、監督にまでならないと、この恨みは晴らせない。そう思って監督を目指しました」と、当時の苦労をにじませる。妻で女優の高橋惠子は過去に女優賞を受賞しており「盾が2つ並ぶのかな、と。それがちょっとうれしい」と喜んだ。

横浜聡子

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横浜は故郷・青森を舞台にした監督作「いとみち」で「郷土愛を背景に津軽三味線と少女の成長物語を融和させ、見事な青春ドラマとして完成させた」という点が評価され文化賞を受賞。これまでの自作を「ちょっと世の中を斜めから見るような、親子では一緒に観に行きづらい映画」と表現しつつ、「いとみち」では「青春というまなざしへの向き合い方」に悩んだことを明かす。主演を務めた駒井蓮に関して「素晴らしい若手女優との出会い」と述べつつ、キャスト・スタッフに感謝。劇中で何度か登場する青森の岩木山に言及し「私にとって映画作りは岩木山のように山肌がゴツゴツした、登るのもつらくて苦しいもの。楽しい瞬間なんて、ちょっとしかないんです(笑)。こういった賞をいただけることで、また次の映画を作る力になります」と励んだ。

尾野真千子(右)

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尾野真千子

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尾野には「茜色に焼かれる」「明日の食卓」の演技により女優賞が授与された。映画作りにおける「今まで当たり前だと思っていたこと」がコロナ禍で変化したことに触れ「こういう時代になってみると、当たり前じゃなかったと気付きました。ありがたいことだったんだと身に染みるように学ばせていただきました。たくさんの方に映画を愛していただけるように、これからもがんばっていきます。皆さんもたくさん映画を愛してあげてください」と呼びかける。来場者からは「出演作を選ぶときの基準」に関する質問が飛んだ。「これといって何か基準があるわけではなくてですね」と切り出し、「そのときの心の状態で台本を読んで『あ、これは今、私が演じなければいけないな』と感じたら、その作品はやらせていただいています」と明かす。今後の展望については「まだまだ恋愛ものもやりたいし、自分以上の年齢の役にも挑戦してみたい。もしかしたら男性の役もできるのかな? 自分の中でも未知で、これから探っていきたい」と語った。

清原果耶(右)

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清原果耶

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護られなかった者たちへ」の清原には「さまざまな作品で多彩な役を演じ、今後のさらなる飛躍への期待を込めて」という理由から山路ふみ子新人女優賞が贈られた。清原は「世の中がどうなっていくかわからない日々の中で、瀬々(敬久)監督をはじめとするスタッフ・キャストの方と歩んだ日々はほかの何にも代えがたいかけがえのない日々だったと思います」と充実の撮影を振り返る。そして「これからも映画を皆さまにお届けできるように1人の女優として成長できるよう精進してまいります。本当にありがとうございました」と感謝の言葉をつづった。

※森崎東の崎は立つ崎(たつさき)が正式表記

第44回山路ふみ子映画賞 受賞者

第44回山路ふみ子映画賞

西川美和「すばらしき世界」

第43回山路ふみ子映画功労賞

倍賞美津子「護られなかった者たちへ」など

第35回山路ふみ子福祉賞

高橋伴明「痛くない死に方」

第36回山路ふみ子文化賞

横浜聡子「いとみち」

第34回山路ふみ子女優賞

尾野真千子「茜色に焼かれる」「明日の食卓」

第32回山路ふみ子新人女優賞

清原果耶「護られなかった者たちへ」など

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末尾ルコ(アルベール)「母連れ狼」「言葉の革命」「文学・映画・音楽」「人生と介護」、美は醜に勝る。 @sueorukoalbert

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