山形国際ドキュメンタリー大賞は匿名監督たちが香港民主化デモ捉えた「理大囲城」

山形国際ドキュメンタリー映画祭（YIDFF）2021の閉会式・表彰式が本日10月13日に開催。香港ドキュメンタリー映画工作者による「理大囲城」がインターナショナル・コンペティションの大賞に輝いた。

1989年から隔年で行われ、今年で17回目の開催を迎えた同映画祭。124の国・地域から集まった1972本の応募作品からインターナショナル・コンペティションに15本、アジア千波万波部門に18本が選出された。開催はコロナ禍を鑑み初のオンライン形式に。コンペ2部門の審査員は公平を期すため、山形市内の映画館フォーラム山形のスクリーンにて鑑賞して審査を行った。

「理大囲城」は香港民主化デモにおいて香港理工大学での籠城を余儀なくされた学生たちを内側から捉えたドキュメンタリーだ。11日間に及んだ籠城で退路を絶たれ、日を追うごとに憔悴する若者たち。防護マスクやモザイク処理によって顔が隠された彼らの不安と恐怖が映し出される。安全上身元を明かすことができないため、匿名の監督たちが「香港ドキュメンタリー映画工作者」の名義で発表した。

審査員による選評では「彼らの作り上げたこの作品が多くの人々に見られるよう願い、大賞といたします。そして、最も大事な事は、世界が、彼らの今後から目を離さずにいる事であると切に感じています。また、他の現場で、分断され、包囲され、隔離された日常を生きるすべての人たちにも届くことを願います」と述べられている。なお本作をはじめ受賞作の一部は明日14日に配信が行われる。

各部門の受賞結果と受賞者のコメントは下記の通り。公式サイトには各作品の選評も掲載されている。

山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 受賞結果

インターナショナル・コンペティション

ロバート＆フランシス・フラハティ賞（大賞）

「理大囲城」監督：香港ドキュメンタリー映画工作者

山形市長賞（最優秀賞）

「カマグロガ」監督：アルフォンソ・アマドル

優秀賞

「ボストン市庁舎」監督：フレデリック・ワイズマン
「ナイト・ショット」監督：カロリーナ・モスコソ・ブリセーニョ

審査員特別賞

「最初の54年間 軍事占領の簡易マニュアル」監督：アヴィ・モグラビ

アジア千波万波

小川紳介賞

「リトル・パレスティナ」監督：アブダッラー・アル＝ハティーブ

奨励賞

「ベナジルに捧げる3つの歌」監督：グリスタン・ミルザイ、エリザベス・ミルザイ
「メークアップ・アーティスト」監督：ジャファール・ナジャフィ

特別賞

「心の破片」監督：ナンキンサンウィン

市民賞

「燃え上がる記者たち」監督：リントゥ・トーマス、スシュミト・ゴーシュ

香港ドキュメンタリー映画工作者 コメント

山形よ ありがとう

昨夜この受賞の報せを受け取った時

香港は大型の台風に見舞われていました

その嵐の中で私達は
ある言葉を思い浮かべていました

それは「水になれ」です

この抑圧と監視が続く中

私達は形のない流動的な
水のような存在にならなければならない

そうすれば集まっては散らばり
散らばっては集まる

離合集散を自由自在に行うことができるからです
ロバート&フランシス・フラハティ賞の受賞は
私達にとってとても大きな栄誉です

それは私達を勇気づけてくれると同時に
私達に起こったこと
私達が記憶したことは
決してコントロールされたり
上書きされたりすることはできないのだということを
思い出させてくれます

自由を信じる全ての人々にとって
抵抗は決して終わることのない道であり
それこそが抑圧に対して私達が歩むことのできる唯一の道なのです

私達はこれからも撮影を継続し
アクションを起こし続けます

山形よ ありがとう

アブダッラー・アル＝ハティーブ コメント

今回のこの賞というのは自分が初めて受賞する賞でして、今回この山形映画祭に参加させていただいたことはとても自分にとって大きなことで私個人としてもまた制作チーム全体としても非常にこの今回の招待、また受賞をとても嬉しく思っております。
そしてヤルムーク難民キャンプの経験、実態を日本の皆様とシェアできたことをとても嬉しく思います。現在のシリア人およびパレスチナ人がシリアで置かれている状況をお伝えできてとても嬉しかったです。これは非常に大きなチャンスでして、映画というのは通常どうしても西洋側に傾きがちですが今回中東にも寄せられたことを嬉しく思います。
今回このような賞をいただけたことは私個人としてとても嬉しく思っております。この映画自体は他にも賞を受賞しているそうなんですが、とりわけこの賞を受賞できたことは私にとってはとても大きなことです。
なので、審査員の方々には感謝を申し上げますし、また他にも受賞された映画にもお祝いの言葉を申し上げたいと思います。
そして今回この受賞をしたことで「リトル・パレスティナ」という映画が、ご覧いただいた日本の皆様の記憶に残ることを願っています。これが私のもっとも基本的な目的、願いでして、ヤルムーク難民キャンプのことが皆さまの記憶に残ることを願っています。
最後になりますが、母もとても今回の受賞を喜んでおります。一番最初に受賞の知らせを伝えた相手でして皆様にも大変感謝を伝えてくれと言っております。