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蒼井優と高橋一生が共演した本作は、太平洋戦争前夜の兵庫・神戸を舞台に、連合国のスパイと疑われる貿易商とその妻の姿を描く作品。第77回ヴェネツィア国際映画祭では銀獅子賞(監督賞)を受賞した。イベントではまず、プロデューサーの猛プッシュから長岡に音楽を依頼したことを黒沢が説明。インターネットで長岡の演奏をチェックしたという黒沢は「ものすごく正確なギターで“バカテク”というのはこういうことを言うのかと(笑)」と長岡の演奏技術を称賛しつつ、本作の音楽について「この映画は1940年前後の時代背景なのでエレキギターは想像つかないなという感触はあって。打ち合わせで素直にお伝えしました」と要望を出したことを明かす。
長岡は「好き嫌いがはっきりしているほうが進めやすいと思いました。ダメだったらダメだと言ってくれるだろうと」と述懐。普段の楽曲作りと映画音楽の制作の違いについて「映画には環境音やセリフなど音楽以外の要素があって、音楽は絶対にメインではない。セリフを縫っていくような、ほかの要素に干渉しないような音楽をという意識がありました」と語る。本作で初めて映画音楽を担当した長岡へ、黒沢が「通常はギターのスペシャリストですが、この映画の音楽は一種のオーケストラになっていますよね。今回のような曲も簡単に?」と問いかけると、長岡は「いえ、今回が初めてでした。意外とできましたね。コンピューターの力ですが」と答えた。
黒沢が、長岡による音楽の印象を「音楽だけがガンガン聞こえるでもなく、単にBGM的でもない。明らかに意図を持っているし、俳優の演技、セリフなどとも混じり合って、僕の考える理想的な映画音楽になっているなと思いました」と絶賛すると、長岡は「褒めすぎです。調子に乗ってしまう(笑)」とはにかむ。さらに黒沢は「僕の好みから言うと、古すぎても新しすぎてもいやだというのがある。生音のオーケストレーションが好きだけどクラシックは古すぎる。どこかモダンでありたい。だって映画だからっていうのがあるんですけど、モダンな感じがよかったです。『これこれ、これが僕の好きな映画音楽よ』って」と続けた。
「また映画音楽をやりたい?」と聞かれた長岡が「今回は監督が認めてくださったからスムーズにいったと思います。褒められると伸びるタイプなので。傷付かない現場があればやりたいです(笑)」と回答すると、黒沢は「僕は現代劇もやるけれど、エレキギターを使ったことは一度もないんじゃないかな。なので初めてのエレキギターを」とリクエスト。そして黒沢は「音楽は通常のハリウッド映画やテレビドラマに比べると少ないと思います。その代わり、出た瞬間は一気にその音楽に引き込まれる。ここぞというところに使ったつもりです。ここで来るんだ、これ作ったのはあの人なんだと思い出しながら観てもらえたら」と呼びかけた。
「スパイの妻(劇場版)」は全国で公開中。
tAk @mifu75
「スパイの妻」黒沢清が長岡亮介の音楽に「理想的」、次回はエレキギターをリクエスト https://t.co/6RzXzybQTv