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太平洋戦争前夜の兵庫・神戸を舞台に、連合国のスパイと疑われる貿易商とその妻を描いた本作。満州で恐ろしい国家機密を知ってしまった福原優作を高橋一生、優作の妻・聡子を蒼井が演じている。第77回ヴェネツィア国際映画祭では、黒沢が銀獅子賞(監督賞)に輝いた。
イベントは、観客から事前に募った質問に黒沢が答える形で進行。「登場人物の衣装はすべて特注か?」という質問に、黒沢は「作るしか手立てがなかったので作りました。当時の服は現存していたとしてもボロボロなので、一から生地を集めました。けど、その分デザインも自由にできましたし、サイズもぴったり合わせることができましたので、これはぜいたくだなと思っていましたね」と答える。東出昌大演じる津森泰治ら憲兵隊の制服については「よくあるカーキ色ではなくて、少しブルーがかった色をしているんですが、これは僕の意図です」とアレンジを加えたことを明かし、「憲兵たちを文字通り冷たい感じにしたかった。それに、時代や作られた当時の工場によってさまざまな色があったようだと資料で知りましたので、もう少し冷たい色にしても間違いではなかろうと思ってそうしました」と述べた。
「今後歴史ものの作品を撮りたいと思うか?」と問われると、「本当に衣装などでぜいたくをできましたし、ロケ地を探すのは難しかったですが楽しかったですね」とほほえむ。「フィクションですが当時のリアリティを基礎にしているので、アドリブや現場で思い付いたことを取り入れようとしても無理。すべて準備してきたものをもとにして力を発揮していくという映画の作り方は面白いなと思いました。ガシガシ枠を決められて、その中でどうするかという発想が湧いてくる楽しさを感じました」とコメント。続けて「もし許されるなら、もう少し場所を大陸のほうに移して、派手な戦闘シーンがふんだんに盛り込まれた作品を作ってみたいですね」と思いを語った。
「ロケ地探しで一番苦労したシーンは?」という質問に、黒沢は満州に旅立つ優作と聡子が別れる港でのシーンを挙げ、「撮ること自体はさほど難しくなかったんですけど、茨城のワイン醸造所で撮ると決めるのに逡巡しましたね」と当時の心境を語る。本作では彼とその教え子である濱口竜介、野原位が脚本を手がけているが、黒沢は「濱口たちは無責任に『港』と書くわけですけど、実際の神戸の港は高層ビルや明石海峡大橋があるので、1940年代の港に見立てることは無理でした」と苦笑。「ちらっと海の風景でも入れるか?と言われたんですが、『一切いらない。どうせここは牛久の山だし、海なんかない』と割り切っちゃえばあとは知らん。ぬけぬけとやってしまいました」とあっけらかんと述べ、観客を笑わせる。山中や海辺のシーンも、多くは千葉や茨城で撮影したことを紹介し、黒沢は「そういうところはフィクションなので許してください」と観客に語りかけた。
「スパイの妻(劇場版)」は東京・新宿ピカデリーほか全国で公開中。
tAk @mifu75
黒沢清が「スパイの妻」ロケ地選びで苦悩「フィクションなので許して」 https://t.co/nQ5Sr82Dwk