映画館で待ってます 第15回 [バックナンバー]
横浜駅西口の風景とともにあり続けた映画館:神奈川 ムービル編
閉館まであと数カ月。かつて通っていた人も、初めましての人も
2026年4月28日 12:05 3
味がある独特な内装、“シネコン的”に収まらないラインナップ
──先ほどおっしゃっていた「ムービルの空気感」について、具体的にどのように感じていますか?
泉慎太郎(ムービル支配人) まず劇場の作りそのものが、今のシネコンではなかなか見ない構造をしています。客席にいわゆる段床(段差)がなく、スクリーンを見上げる形で、そして劇場の中央に通路があるのも特徴的です。今のシネコンは両サイドに通路を設けるのが一般的ですが、真ん中にスロープがある内装は味があって独特だと思います。
久保正則(東急レクリエーション代表取締役副社長) 僕たちがムービルを継承し運営するにあたって、内装のリニューアルも行いましたし、コンセッションでのポップコーン販売などいわゆるシネコン的なサービスも取り入れ、現代の映画館のシステムに切り替えてきました。ただ、何より大切にしてきたのは街に愛される映画館であり続けること。地元の人たちがしっかり通ってくれる映画館なので、その存在は守り続けたいという強い思いがありました。
──リニューアル後もどこか昔ながらの趣が残っていて、そこがいいですよね。私自身もなじみ深い映画館ですが、途中で経営母体が変わったことはまったく気が付かなくて。観客としては「いつの間にか変わっていた」ぐらいの感覚で、それはある意味幸せなことだったんだなと今振り返って思います。
久保 相鉄さんはムービルでの鑑賞を楽しんでくれている方々を長年大切にしてきました。だからこそ、その方々を裏切ることなく、ムービルのよさを残しながらリニューアルしていきたいと考えていたんです。そういえば映写室も面白いんですよ。今のシネコンでは、全スクリーンの映写機が1カ所に集約されていて、少人数のスタッフで効率よく回せるのが主流です。でもムービルは5つのシアターがそれぞれ独立した構造なので、映写室もバラバラ。運営の効率で言えば大変ではあるのですが、今となっては貴重です。
──番組編成についても伺いたいのですが、ムービルは109シネマズ系列でありながら、いわゆるシネコンらしくない企画を組まれていますよね。ムービルだけは独自の編成が許容されているのでしょうか? 例えば昨年の9月には、映画配給会社エクストリームとのコラボ企画「ホラー映画祭 ~突き抜けた恐怖~」を開催されたり。
泉 年末には香港映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」の企画を行い、最近はタイ映画の特集上映も実施しました。編成チームとは常に話し合っていますね。好きにやっていいというか、劇場の認知を高める意図もありつつ、ほかではやっていないことを楽しくやろうというコンセプトもあって独自企画には力を入れたいなと。でもコラボフードや入場者特典、登壇付きのトークイベントなど、劇場主導で企画を打つのは実際なかなか大変で……。会社としてもこれまであまり事例がなかったので、そうした取り組みが実現できたのはとても印象に残っています。
──ちなみに特集上映以外でも、ムービルのラインナップを見ると、アジア映画に力を入れている印象も受けました。
泉 そうですね。やはりムービルでしか観られないという点に価値があると感じています。もちろんアジア映画好きのスタッフもいますが、ほかのシネコンでは大きく扱われにくい作品でも熱心なファンが足を運んでくれる映画をできるだけ多く取り入れたい意向があり、そのあたりも編成チームと相談しながらブッキングしています。
久保 やっぱり泉くんが(クロージングの支配人として)適任だと思いませんか? 最後までしっかり、いろいろなことに挑戦してもらいたいですね。シネコンってどうしても全国一律のオペレーションになりがちなんですよ。もちろんサービスの質を保つためには不可欠ですが、実際にはエリアごとに環境が違います。駅前すぐの劇場もあれば、車でないと行きにくいところもある。だからこそ、そのエリアごとの戦略やお客様の声を編成に反映させていく必要があります。ムービルは熱心に劇場に通うファンにも支えられているので、その熱量に応えられる自由さも必要なんです。
親子3代にも愛され続ける地元の映画館
──大手シネコンでありながら、その柔軟性はすごいですね。これまでのお話から“街の映画館”として多くの人に愛されている理由がうかがえますが、観客との交流の中で印象に残っているエピソードや、思い出深い上映作品はありますか?
泉 本当に長く通っていただいているお客様が多くて、その中には「ムービルでしか映画を観ない」という方もいらっしゃったり。それぐらい愛していただいているのが伝わってきます。特に印象的だったのは、お子さんと一緒に来館されたお客様ですね。その方自身も子供の頃にお父様とムービルで映画を観ていたそうで、「自分の子供を連れて行くなら最初は絶対ムービルがいい」と話されていたと聞きました。親子3代にわたって受け継がれているのは、本当にすごいことだと思います。
久保 横浜という街は地元愛が強いですよね。地域にゆかりのある作品は特に話題になります。例えば最近だと、横浜が舞台の「帰ってきた あぶない刑事」も大いに盛り上がりました。
スタッフ 映画以外の話になりますが、サザンオールスターズのライブビューイングもすごかったです。500席クラスの大きなシアターが2つとも満席になって、本部からも応援に駆け付けてもぎりを手伝うほどで、まさにお祭り状態でした。
久保 やっぱり横浜は魅力のある街だから。それに横浜駅西口周辺の独特な雰囲気の中にムービルが存在しているのもいいんですよね。少し雑多だけど、それも含めて魅力的な場所だと思います。
──ムービルの建物自体が横浜駅西口のシンボルのような存在ですよね。私自身にとっても映画館だけでなくモスバーガーに牛角に……あのビル丸ごと学生時代の思い出でいっぱいです(笑)。ムービルで映画を観て、五番街(※駅前の繁華街エリア)のゲームセンターでプリクラを撮るのも定番コースでした。そのように映画館に付随して、場所ごと思い入れのある方は多いと思います。
泉 今もあのあたりには学生さんが多いのですが、最近はムービル館内でTikTokを撮影している女子学生をよく見かけます。階段にスマホを置いて踊っている姿を見ると時代の流れを強く感じます(笑)。
1つでも多くの思い出をムービルで刻んでほしい
──閉館まで残された時間は残り数カ月となります。かつて通っていたけれど最近は足が遠のいている方や、まだ一度も訪れたことがない方も含め、ムービルでどのような時間を過ごしてほしいですか?
泉 単純に映画を観るだけでなく、ムービルという空間の独特の匂いや空気感、大きなスクリーンでの体験は、ここでしか味わえないものだと思います。昔の記憶を呼び起こして懐かしんだり、その時間を大切に楽しんでいただけたら。限られた時間ではありますが、1つでも多くの思い出をムービルで刻んでほしいと願っています。
久保 まったく同じです(笑)。本当に感謝の気持ちでいっぱい。長いこと多くの方に支えていただいてきた映画館なんだと改めて実感しています。最後の日まで、皆さんに楽しんで帰っていただきたいですし、私たちも横浜の街のためにがんばりたい。このようなスタイルの映画館はもう一度作ろうと思っても二度と作れませんから、しっかり目に焼き付けていただいて。まだ来たことがない方は、ぜひお越しください。
──本当に閉館してしまうんだと、私も実感が湧いてきて寂しいです。ちなみにクロージングの特別企画について現時点でお話しできることはありますか?
泉 まさに今企画を練っている最中で……コンセプトは「お客様の思い出に残る劇場でありたい」。そこはブレてはいけないと念頭に置きながら、いろいろなジャンルの作品を上映していきたいと考えています。また、会員様への感謝の気持ちをキャンペーンという形でお届けすることも検討しています。お客様からは「バックヤードツアーをやってほしい」という声もいただいていて、そうした企画も前向きに考えています。
久保 相鉄さんもこの建物をとても大切にされていますから。映画館単体ではなく、ビル全体でのクロージングイベントも企画されていくのではないかと思います。
──これまで当たり前にあった風景がなくなるのは本当に寂しいことですが、観客としても「ありがとう」という気持ちを伝えられるように、私も学生時代の友人を誘ってまた足を運びたいと思います!
バックナンバー
リンク
フォローして最新ニュースを受け取る
ジョーンズ卿 @SirJonesIII
横浜駅西口の風景とともにあり続けた映画館:神奈川 ムービル編 | 映画館で待ってます 第15回 https://t.co/BUBDaWEv6S
横浜で映画と言うと東映ジョイ・エンタテインメント系ばかり利用してたしなぁ。閉館までにちょっと行ってみるか。