イラスト / 徳永明子

映画と働く 第20回 [バックナンバー]

現場の助監督やピンク映画から監督への道を作る!映画プロデューサー久保和明が語る映像制作会社の存在意義 目指す未来とは?

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大切にしているのはクリエイティブ面とビジネスを両立させること

──映画プロデューサーとして25年走り続けてきた久保さんですが、お仕事をしているうえでどんなことを大切にしていますか?

まず“仕事は継続すること”が大切だと思っているので、この人と継続して仕事をしたいのかどうか?ということは重要視しています。そして、やれることは全部やる。いつも全力を尽くすということは心がけています。

またクリエイティブ面とビジネスを両立させることは絶対的に大切にしています。今の日本映画界は作りたい内容に対するバジェットが合っていないという問題を抱えていると感じています。自分はビジネスとして成立していないものは、世の中に求められていないものだと思っています。「芸術なんだ」と無理して作ったり、助成金でなんとかしようとするのは、自分の中では違うと感じてしまいます。結局、予算に無理がある場合、影響が出るのって、賃金と労働時間なんですよ。だから企画に合った予算をつけなければならない。なんとか作れるっしょ!と進めてしまうのは問題だと思っています。

長年プロデューサーをやってきましたが、作品を作るうえで1番に優先しているのは「安全」。次に「お金」、3番目が「作品の面白さ」。1番が「作品の面白さ」になる人も多いと思うんですが、自分の中でこの順番は25年ずっと変わらない。ビジネスとして成立させられるか、見極められる人がこの職業には向いていると思います。

──それ以外にどんなものが必要だと思いますか?

問題解決能力ですね。現場の数だけ問題が発生するので、それを解決していけるかどうかが非常に重要です。うちみたいな独立プロダクションでプロデューサーをやる場合は、出資を募る能力も必須になってきます。

──さまざまな能力が必要とされる大変な仕事だと思いますが、プロデューサーをやめたいと思ったことは?

つらいので、8割ぐらいの現場でやめたいと思っています(笑)。撮影現場が大好きなプロデューサーが、うらやましい。自分は、いつも最悪のことを考えながら現場にいるので、緊張しっぱなしなんです。今まで500本以上作品を作ってきましたが、完成させられるかどうか不安を感じなかった作品は1本もない。会社がダメになるかも?というピンチも6回ぐらいありました。

──具体的には?

製作費500万円のVシネマを作る場合、利益を20%、100万円ぐらい確保できます。同時並行的に制作できるので年間40本作ると1年の利益は4000万円。月約333万円の収入で、ここからランニングコストを引いても小さな会社はやっていけます。

一方、予算1000万円規模の映画を作る場合は、制作費を900万円として利益は10%の100万円を目標とします。ただ、当然映画はVシネマよりコストが掛かってしまいますし、スタッフも映画だと気合いが入ってしまうので10%の利益も危うくなることが多いんです。Vシネマと違って、映画は並行して数本動かしていくことも難しく、制作期間も長い。企画して、脚本を書いて、撮影して、仕上げ作業をして納品と、最低6カ月ぐらいは掛かります。1作品の利益が100万円ほどしか残らないとしたら、月収は約16万円です。会社の維持費を考えるとビジネスとして成り立たず、これだと会社はピンチを迎えることになります。

──なるほど。

仮に年間10本作ってうまく10%の利益を確保できたとしても年間1000万円の利益。月約83万円の収入です。500万のVシネと1000万の映画で比較するとこの計算になります。

──Vシネマだと月約333万円の収入、映画だと月約83万円の収入となると、かなり差がありますね。

予算を2000万円と想定すると今度は10%の利益自体も難しくなりますし、制作期間もより長くなるので年間に制作できる本数も減ります。現実的にはその利益目標の数字すらうまくはいかないので、当然やり方によっては会社が回らなくなってしまうんです。だからこういう予算規模の映画を商業ベースで引き受けられる制作会社は相当少ないのだと思います。そこで独自のノウハウが蓄積されていくのかもしれません。

──レオーネさんが引き受けられるのは、やはりVシネマで培ってきた経験があるからですか?

それもあると思います。低予算でやるノウハウを持ったトップクラスの会社になると、決めてやってきたので。単純に世の中の流れと逆なんです。映画の予算がどんどん下がってきた中で、自分たちの制作予算は少しずつ上がって、ちょうど今出会っているのかもしれません。うちが断ったらもう作れないのかなと思う作品の依頼がきた場合、お相手の人間性がよければ、基本的に仕事は断らないようにしています。面白いものが世の中に出ないのはもったいない。先ほどの話とは矛盾していますが(笑)

制作予算が3000万、5000万と上がっていくと「もうかってますね」と思われますが、それはまったく違います。何より大事なのは利益率です。会社ベースで考えると予算が大きいかどうかは重要ではない、となります。むしろ予算が大きくなっていくと、月のランニングコストも跳ね上がりますし、何か起きたときのリスクもより高まっていきます。自分はこのことに早めに気が付いていました。それが20年なんとかやってこれた要因かもしれません。だからこそいつも危機感を持っています。この話は長くなるのでまた別の機会にでも。

──またぜひお時間をいただきたいです!

「製作費」と「制作費」の違いも、気になりますよね? それもまた別の機会に。

──久保さんはお仕事をする中でつらいこともたくさん経験してきたと思うんですが、逆に喜びを感じる瞬間は?

お客さんが入った客席を劇場の後ろから見ているときです。15年ぐらい、誰が観てくれているかわからない中で作品を作っていたので、こんなに観に来てくれる人がいるなんて最高!って思います。8割つらくてもその一瞬のためにがんばれる。

先ほどお話しした通り会社が1番もうかっていたのはVシネマをたくさん作っていた頃でした。でも、やっぱり今はお金より作ったものを観てくれる方の声が聞こえてくることが大事だと思っていますし、1番うれしいです。

助監督から監督への道を作る、ピンク映画から監督への道を作る

──今、映画プロデューサーを目指している若者もいると思います。何かアドバイスはありますか?

まず1つ目は映画の現場に入ることですね。現場って本当に人間関係が密なので、自分がやりたいことはプロデューサーなのか、監督なのか、録音なのかといったことを見極められると思います。撮影現場は探せばいくらでもあるので、とりあえず体験して、自分がなりたい職種の人に話を聞いてみるといいと思います。そして「また、次呼んでください」と言う。めちゃくちゃ簡単な就職活動です。

──もう1つは?

俺んところに来い!です。ここでがんばればプロデューサーになれるよ、映画監督になれるよ、自主制作映画じゃないルートもあるんだよというのを見せていくのが映像制作会社の存在意義だと思っています。

映画の制作もドラマの制作も現場の担い手にすごく困っています。助監督がいない、制作部がいない、助手さんがいないって日本中の撮影現場で耳にします。だからこそ、うちの会社でがんばった人にはなりたいものになるための手助けをしたい。助監督から監督になれるという道をしっかり作っていきたい。自主映画出身で活躍している監督もたくさんいますし、もちろんそれもいいんですけど、そればっかりになってしまうと、現場を担える人がいなくなってしまうのです。

うちは少人数の会社なので、美術や制作、助監督のことを全部勉強しながら監督やプロデューサーになっていくことができます。助監督しかやっていないと、自分の都合で美術部や制作部にガンガン発注したりするけれど、お弁当を発注したり、ロケ場所を考えたり、交通整理をしたりしながら成長していくと、視野が広くて相手の気持ちがわかるスタッフになれるんです。それで、うち以外の現場に行くと、あまりにも優秀だから、帰ってこない(笑)。でもそれでいい。そういう循環が必要です。

──久保さんは「助監督から監督への道を作る」「ピンク映画から監督の道を作る」という目標を掲げて、実際に小南敏也監督の「YOUNG&FINE」、小関裕次郎監督の「となりの宇宙人」をプロデュースされました。両作の座組みに胸が熱くなった映画ファンもいると思います。

城定秀夫がずっと自分の組で助監督としてがんばってきてくれた小南敏也のために「YOUNG&FINE」の脚本を書く。しかも原作者は小南敏也も現場を担ってくれた「ビリーバーズ」の原作者でもある山本直樹さんです。これは映画界のストーリーとしてあるべき姿だと思っています。一方の小関裕次郎も、いまおかしんじさんのピンク映画に憧れて、今もピンクでがんばっている人間。だからいまおかさんに脚本を書いてもらった「となりの宇宙人」を、小関裕次郎が監督するのもまた映画業界のあるべき物語のような気がしています。

ピンク映画に少しでも恩返しをしたいなという思いも実はあります。ピンク映画を作ったことで、レオーネの作品を観てくれる人が増えて、今の土壌を作ってくれたので、感謝しているんです。城定秀夫以来、ピンク映画出身で活躍している監督は出てきていないとも言えるので、ピンク映画でがんばれば、道が広がっていく、夢のある場所であってほしいと思っています。どちらの作品もやれることは全部やりました。制作費がリクープ(ペイ)できれば、次の人たちにバトンを渡せる。なんとかヒットさせたいです。

「となりの宇宙人」場面写真 ©クロックワークス・レオーネ

「となりの宇宙人」場面写真 ©クロックワークス・レオーネ

「YOUNG & FINE」場面写真 ©クロックワークス・レオーネ

「YOUNG & FINE」場面写真 ©クロックワークス・レオーネ

──久保さんが今後チャレンジしたいことは?

この20年でVシネマもピンク映画もMVも企業用VPもバラエティもテレビドラマも全国200館規模の映画も、やれることは全部やってきました。そんな中で、やっていないことはなんだろう?と考えると、製作費数億円規模の作品を作ることぐらいでしょうか。先ほど熱弁した理論上、ビビり倒して、避けてきましたが(笑)。そんな話はそもそも来ないのかもしれませんが! ただ1回ぐらいは経験して制作できることを立証したいですね。やるときはより慎重に。

またレオーネを「この制作会社に入りたい」「この制作会社が作っているから作品を観たい」と思ってもらえるような会社にしたいです。作品を観る際、お客さんは、どんな制作会社が作っているかなんてあまり気にしていないと思います。でもアニメだと、明確にブランド力のある制作会社はある。それに近いものを目指していきたいと思っています。その一環として企画したのが、創立20周年を記念した特集上映「LEONE for DREAMS」です。この特集を観てもらえば、どんなものを作ってきた制作会社なのかがわかってもらえるようになっています。制作会社の特集上映なんて聞いたことがないので、この場をお借りしてポレポレ東中野さんには感謝を申し上げたいです。

──本日、お話を伺って、久保さんの行動力のすごさに圧倒されました。プロデューサーはこういったパワーのある人じゃないとできないかも……と思う若者もいるかもしれません。

自分の口癖は「気合いさえあればなんとか乗り越えられる」なんです。でもこういうタイプは映画業界ではむしろレアかもしれないです(笑)。プロデューサーにもいろんな人がいて、ものすごくメンタルが強いという特性を持っている人もいれば、人に好かれるのが得意な人、問題が起こっても周りが許しちゃう人もいる。みんなの前で、話すのが苦手だったら、1人ひとりと信頼関係を築いていけばいい。プロデューサーになるためのノウハウや、どうやって人をまとめていくべきかは教えるので、自分に合った方法を見つけていけばいいと思います。

久保和明(くぼかずあき)プロフィール

1975年8月8日生まれ、千葉県出身。日本映画学校(現:日本映画大学)俳優科10期を卒業後、1999年に「はみだし刑事情熱系 PART5」で俳優デビュー。2001年に初プロデュースした「MEANSレッツ合コン!」で監督としてもデビューを果たした。2004年に映像制作会社レオーネを立ち上げて以降は、映画、テレビドラマ、Vシネマ、CMなど500タイトルを超える映像作品を手がける。主なプロデュース作品に「デコトラ★ギャル奈美」シリーズや、「悦楽交差点」「アルプススタンドのはしの方」「愛なのに」「猫は逃げた」「ビリーバーズ」「水深ゼロメートルから」「新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!」などがある。

レオーネ創立20周年記念特集上映「LEONE for DREAMS」

2025年2月1日(土)~14日(金)東京都 ポレポレ東中野
※1日2作品上映予定(全16作品)

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読者の反応

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久保/ LEONE / Lenny / KP @ProductionLenny

映画ナタリーさんの記事。
トップページと言うんでしょうか?目立つところにあるのでなんか恐縮ですが、読み応えは半端ないと思いますのでぜひ読んでみてください。
映画つくってる人にとっても、映画がすきな人にとっても面白い文章になってるといいなと思います。

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