選者 / SCANDAL RINA「Swallow／スワロウ」

文 / SCANDAL RINA（コラム）、田尻和花（作品紹介）

平凡な楽しみなんかじゃ埋められない穴

夫の両親が買い与えた豪邸で過ごす贅沢なはずの時間と空間には、何ひとつ満たされるものがない。細やかな喜びを感じとることができる彼女は、誰にも気付いてもらえないまま、ギリギリまで穏やかに、たったひとりで自分を取り巻く違和感を乗り越えようとしてきた。
その為に、私だけの秘密の快感が必要だった。

俗に言う幸せの条件が揃った夫婦の間にあるフェイク感が、不気味で不快な食卓。
適当な表情であしらわれる他愛ない大切な会話。
綺麗なブロンドのボブヘアに触れられ、「息子はロングヘアがタイプ」と言い放たれても何も言い返せずに居る歯痒さ。
どうして世界はこんなにも窮屈なのか。

さらに多くの人にこの作品を知って欲しくてコラムにしようと選んでみたものの、文章にするのがとっても難しい。いつもより長く悩みながら言葉を選びたい。私は、この映画ではじめて異食症と言う症状を知った。彼女は、日々の不安や女性としての役割を人に決められ押し付けられる苦しさなどから逃げるため、自分を解放する手段をやっと見つけたのだ。

ある日、【喜びの才能】と名付けられた一冊の本に書かれた、「毎日驚くようなことや、新しいことに挑戦しよう」の一文でスイッチが入る。
光をあつめてキラキラ輝くビー玉をどうしようもなく飲み込みたくなるのだ。その好奇心はもう誰にも止められなくて、久しぶりにドキドキと胸が躍った。

彼女の目に魅力的に映ったモノたちが入ったガラスケースは宝箱のように見える。
彼女が満たされるたび、画面越しにも痛みが伝わる。衝動は次第にエスカレートし、目を背けたくなるほどのシーンと、達成感でいっぱいの表情、相反する姿がセットとなって連続する。
これだけでも強烈に見応えのある作品に仕上がっているにも関わらず、この映画の凄まじいところは、後半にもまだ大きな爆弾が仕掛けられているところだ。

自分の人生が自分のものじゃなくなってしまったときの孤独とストレスで空いた穴は、きっと平凡な楽しみなんかじゃ埋められないことがある。
目に見えない深い傷が痛い。
自分の幸せを人に決められるのは辛い。
女性の在り方を改めて問われるような作品にも感じた。無言のメッセージと痛く美しい映像、これを観て何を想うか、ぜひ自分の目で試してみて欲しい。

RINA

SCANDAL RINA

1991年8月21日生まれ、奈良県出身。2006年にHARUNA（Vo, G）、MAMI（G, Vo）、TOMOMI（B, Vo）と結成したガールズバンド・SCANDALでドラムとボーカルを担当。2008年にシングル「DOLL」でメジャーデビューを果たし、翌2009年にシングル「少女S」でレコード大賞新人賞を受賞した。2019年にはSCANDALのプライベートレーベル・herを設立。

「Swallow／スワロウ」（2019年製作）

傍目からは誰もがうらやむ生活を送りながらも、孤独で息苦しい思いを抱えた主人公ハンターを描く本作。夫に自分の話を真剣に聞いてもらえず、義父母からも蔑ろにされる中、彼女は妊娠をする。より孤独を深めていく彼女は、ふとしたことから“ガラス玉を飲み込みたい”という衝動に駆られ……。
監督はカーロ・ミラベラ＝デイヴィスが担当。「イコライザー」「マグニフィセント・セブン」のヘイリー・ベネットがハンターを演じたほか、オースティン・ストウェル、エリザベス・マーベル、デヴィッド・ラッシュ、デニス・オヘアがキャストに名を連ねた。

「Swallow／スワロウ」Blu-ray+DVD販売中

税込価格：5280円
発売元：クロックワークス
販売元：TCエンタテインメント

※「Swallow／スワロウ」はR15+指定作品