イラスト / 徳永明子

映画と働く 第8回 [バックナンバー]

照明技師:平山達弥「いい表情の役者に、いい光を当てた達成感」

「新聞記者」「ヤクザと家族 The Family」──芝居の深みはライティングで増していく

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「ヤクザと家族 The Family」が今のベスト

──独立してから数々の作品に参加されますが、中でも印象的な作品は?

ヤクザと家族 The Family」は体力的にキツかったのも含めて思い出深いです。ナイター(夜間撮影)が多かったので照明部は大変でした。役者も綾野剛さんや舘ひろしさんなどすごい人ばかりで緊張感もあって。でも自分の中ではこの作品が今のところベストです。

「ヤクザと家族 The Family」ポスタービジュアル (c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

「ヤクザと家族 The Family」ポスタービジュアル (c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

──主演の綾野さんも本作が「今現在の自分の集大成」だとおっしゃっていました。平山さんはどのあたりに手応えを感じていますか?

作品が3章に分かれているので、カメラマンの今村圭佑さんと色のトーンを変えていこうと決めました。それが顕著なのが(寺島しのぶ演じる)愛子さんの食堂のシーン。1章は赤、2章は水色、3章は蛍光灯の色をそのまま生かして、色にこだわったところはうまくいったなと思っています。

「ヤクザと家族 The Family」より、愛子の店のシーン。(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

「ヤクザと家族 The Family」より、愛子の店のシーン。(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

──照明について役者から褒められたり、何か感想をもらうことはあるんですか?

そんなにないんですけど、「ヤクザと家族」の現場では綾野さんが毎回モニタで映像を観て感想を言ってくださいました。自分の芝居だけじゃなくて各部署のことも常に見ていて、そういう部分もリスペクトできる人でした。一度、僕と今村さん、録音部の根本飛鳥さんの3人を焼肉に連れて行ってくださったことがあって。綾野さんがひたすら肉を焼いてくださいました。

藤井道人や今村圭佑との出会い

──「ヤクザと家族」からご自身のフィルモグラフィーを振り返り、照明技師としての歩みの中でターニングポイントだったと思う出来事を挙げるとしたら?

今村さんとの出会いはそう言えるかもしれません。僕が助手をしていた頃から、今村さんも助手として現場に来ていたので、お互いのことは知っていて。同い歳ということもあって現場で話したりもしていました。それから僕が独り立ちして初めて参加した「おじいちゃん、死んじゃったって。」で今村さんが撮影監督をされていて、そこから徐々に一緒に仕事をするようになりました。

──今村さんも平山さんも「新聞記者」や「ヤクザと家族」など、藤井道人監督の作品ではおなじみのスタッフですよね。

藤井さんと今村さんは学生時代から一緒にやっているので、映像面に関しては藤井さんが圧倒的に今村さんを信頼しているんです。僕は今村さんから声を掛けてもらって参加させてもらっています。照明に関しても藤井さんから直接何か言われるというよりは、基本的に今村さんが色やトーンの方向性を決めるので、それに沿って考えていきます。

「ヤクザと家族 The Family」撮影現場にて、平山達弥(左奥)、撮影チーフの星潤哉(左手前)、藤井道人(手前中央)。

「ヤクザと家族 The Family」撮影現場にて、平山達弥(左奥)、撮影チーフの星潤哉(左手前)、藤井道人(手前中央)。

──照明部と撮影部の連携が映像のイメージを左右するのですね。平山さんのお話を聞いていると、今村さんへの圧倒的な信頼がうかがえます。

そうですね。やっぱり映像と言うとカメラマンと話し合うことが多いので。今村さんは作品への集中力がとてつもなくて。特に今村さんが長編初監督をした「燕 Yan」では現場でカメラを持ちながら演出をしていて、とんでもない人だなと思いました。それは履歴書の「尊敬する人」の欄に書いた方々に通ずるんですけど。いい作品を生み出す人たちってそういうところがすごいんだなと近くで見ていて思います。

──平山さんもそんな藤井組の一員として毎回参加されているわけですが。何か共鳴するものがあって毎回組まれるのでしょうか?

「俺たちが!」とかそんな熱い感じではなくて。でも藤井組だからこその雰囲気はあって、そこは居心地がいいなと感じます。歳が近い分、距離感も近くて、言いたいことを言い合えたりもするので。

ライティング次第で芝居の深みも変わる

──照明技師として「楽しい」と感じるのはどんな瞬間ですか?

台本を読んで、どんな照明にしようかと考えているときが一番楽しいです。もちろん実際にライトを当てた様子をモニタで観るときも充実感がありますけど、その前の仕込み図を書いたりしている段階がわくわくします。体力的にキツい部分も多々ありますけど。最初に現場入りして仕込みを始めて、撮影後は撤収して最後に帰るので。

ナイター撮影のセッティングの様子。

ナイター撮影のセッティングの様子。

──なかなかハードな仕事でもありますね。これから映像関係の照明をやってみたいと考えている人たちに、平山さんからアドバイスをいただけますか?

専門学校時代から振り返ってみると、理想の高い人は辞めてしまった人が多い気がします。僕も映画がめちゃくちゃ好きでこの業界に入ったわけではないんですけど、考えすぎないで始めてみるほうがいいのかな。心のゆとりがあったほうが、イレギュラーに強くなるのかもしれません。厳しいことがたくさんある世界なので。仕事が楽しいと思えるように、柔軟な気持ちを持ち続けるのが大切だと思います。

──映像に関わるようになって気付いた、映像の照明ならではの楽しさはどんなところですか?

芝居に合わせたライティングが楽しいと感じるようになりました。ライティング次第で芝居の深みも変わってくると自負しているので、いい表情をしている役者さんには、いい光を当てた達成感があります。

──履歴書の「照明とは?」という質問には「生活の一部」とお答えいただきましたね。

照明がないと生きていけないとか、そんなたいそうなものではなく。暮らしの中の一部になっていて、意識することもなく自然と存在しているものだと思いました。照明技師だからと言って、部屋の照明にこだわったりとかも特にないです。ただ子供の写真を撮るときは、無意識に太陽の位置を計算しながら撮影していることがあります(笑)。

平山達弥(ヒラヤマタツヤ)

平山達弥

平山達弥

1988年4月7日生まれ、長崎県出身。2009年に東放学園の照明クリエイティブ科を卒業後、CRANK(現・照明機材会社ライトワーク)に入社する。2010年から太田康裕に師事し、河瀬直美監督作「2つ目の窓」「あん」でチーフを務める。2016年に独立後、2017年公開作「おじいちゃん、死んじゃったって。」に参加。2019年公開作「新聞記者」は第43回日本アカデミー賞で作品賞など3冠に輝いた。そのほか「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「サヨナラまでの30分」「燕 Yan」などの照明を担当。「ヤクザと家族 The Family」が全国で上映中のほか、米倉涼子が主演を務めるNetflixオリジナルシリーズ「新聞記者」が2021年に全世界配信予定。

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ASUKA NEMOTO|映画録音 @nemoasu

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