第4回コミナタ漫研レポート(ゲスト:新條まゆ)【2/5】

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臨場感ある雪山の描写は、思わず寒さを感じるほど

唐木 では新條さんを「なんだこれ!」って引き込んだ、この作品の絵について見ていきましょうか。さっきのペットボトルからしてそうですが、現代的なマンガ表現の中でも、かなり極端に精緻な絵柄です。洋服や小物など、まるで写真かってほどの描き込みですよね。

(スクリーン:精密に描き込まれた腕時計、リュックの画像)

新條 ええ。ディテールがすごいですよね。いくら本物の写真からトレースするとしても、普通ここまで描けないですよ。

唐木 これ持ってるリュックから登山用品から、調べれば型番がわかる。適当なものはひとつもないんです。服のファスナーに入ってるブランドロゴまで描き込まれていて、まさにちょっと異様な、突き詰めた迫力を感じますね。

新條 トーンワークも、とにかく凝っています。うちのアシスタントもじーっと画面を見てます。「どうなってるんだろう」っていつも言ってて。実は私、坂本先生のサイン会に行ったことがあるんですけど、使ってる画材とかいろいろ細かく教えていただいたんですよ。

唐木 あ、けっこう教えてくれるんですね。

新條 はい。でもきっとオフレコだと思うんで秘密にしておきます(笑)。

唐木 なるほど。次に雪山の絵を見てみましょう。吹雪のシーンですね。

(スクリーン:吹雪のシーン)

新條 こういうシーン、読んでるとなんだか寒くなってくるんですよ。なんか自分が雪山にいるような気がして、ゾクゾクしてくる。

唐木 それちょっと、のめりこみすぎじゃないですか(笑)。

新條 いや、ほんっとうに寒くなるんですよ。あと人が滑落したシーンなんか、見たらギャー! って血の気が引いちゃいましたもん。

唐木 まあでもわかります。その場にいる感じ、臨場感があるというか、没入させる力がすごいんですね。その、のめりこませる力のあるなしって、どこに源泉があるんでしょうか。いま登山用品がリアルだとか雪山の絵がすごいとか話しましたけど、そういう表現が積み重なることによって?

新條 それはそうなんですけど、ただ上手いというだけの話じゃないと思うんです。坂本先生はほんっとに絵が上手だと思うんですけど、でも絵が上手いマンガ家って世の中にいくらでもいるんですよ。

唐木 絵が上手ければ誰でも読者を引き込めるってもんじゃない、と。

会場の様子

会場の様子[拡大]

アシスタントが感じるマンガ家の気迫、それが絵に出る

新條 あの、さっきの冬山も登山用品も、実際に描いているのはアシスタントさんだと思うんです。そこで大事なのは、作者がキャラクターにのめりこんでいると、それが画面に出てくるってことなんですよ。こういうキャラクターでこういうことを表現したいっていうマンガ家の気迫がアシスタントに伝わると、アシスタントはまたそこに念を込めて、返してくれるんです。

唐木 おお。それが結果的には雪山とかの絵になって、最終的には読む者を引き込む力になる、と、そういうことですか。新條プロはどうでしょう? アシスタントさんたちは、新條さんの気迫を感じてるんでしょうか。

新條 まず、私の場合は自分のスキル自体は高いとは思ってないんです。アシスタントさんにどのぐらい助けてもらうか、みたいな感じではあるんですよ。だからうちではアシスタントではなくてスタッフと呼んでいて、例えば背景を描く人は「美術スタッフ」なんです。そこでは「チーム新條」という意識で、私と同じ立ち位置で仕事をしてるって感覚でやってもらってます。

唐木 まず意識作りというのがあるんですね。

新條 あと気迫というのかわからないですけど、スタッフには絶対最初にネームを読んでもらうようにしています。読んでもらった上で、ここは迫力つけたいとかトーンを減らして抜け感を出そうとか、表現のイメージを伝えるんですが、そのネームが面白ければ、あとは自分の腕次第だってみんな思ってるので、100%以上の力を原稿にぶつけてくれるんです。

唐木 アシスタントさんに惚れてもらえるネームを描かなきゃいけないと。

新條 そうなんですよ。スタッフがネームに共感できなくて、どう表現していいのかわかってないまま進めると、それが画面に出て、読者に伝わっちゃう。

唐木 なるほど。これは推測ですけど、「孤高の人」のスタッフは、みんな坂本先生のネームすごいなーって思ってやってるのではないですか。

新條 誇りを持ってお手伝いされてると思いますよ。あと絵がいくら上手くても、背景から浮いちゃってるのって見たことないですか? 坂本先生の絵はぜんぜん浮いてないんですよ。それも、おそらくアシスタントさんがちゃんと考えてるからだと思います。私は今りぼん(集英社)みたいな少女誌と、少年誌青年誌でも描いてるんですけど、掲載誌に合わせてペンタッチとか絵柄を変えています。そうするとアシスタントも、それに合わせて背景のタッチを変えてくれるんですよ。おそらく坂本先生のところのアシスタントさんも、先生の絵に合わせる工夫をしてると思います。

唐木 そうした有能なアシスタントさんを雇って、なおかつ彼らに気迫を伝えてその気にさせることも、マンガ家の実力のひとつなのかもしれない。僕らを雪山に連れてってくれる、「孤高の人」のあの没入感は、そうした面からも作られるんですね。(つづく)

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第4回コミナタ漫研レポート(ゲスト:新條まゆ)【2/5】 http://natalie.mu/comic/news/46522

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