週刊少年マガジン(講談社)が、“画力”に特化した尖ったマンガ賞「マガジン頂上画力漫画賞」を開催中だ。新たな才能を発掘すべく、とにかく画力に自信のあるマンガ家をプロ・アマ問わず求めている。
コミックナタリーでは、「マガジン頂上画力漫画賞」で審査員を務める「ガチアクタ」の裏那圭へのインタビューを実施。まだ若手ながらもマガジン屈指の画力を持つ裏那の、“絵”に対する思いやこだわり、マガジンに投稿した理由などを聞いた。
文 / 小林聖
マガジン頂上画力漫画賞とは?
世界に届き、世界を変える、次世代のマンガを求めて週刊少年マガジンが行うマンガ賞。審査は原則「画力のみ」! 画力で甲乙付けがたい場合のみ、その他の要素を審査に加えるという尖ったマンガ賞だ。
画力特化のマンガ賞だけあって、マガジンでも特に画力が印象的な作家陣が審査員として集結。スピード感や動きの迫力が圧倒的な「はじめの一歩」の森川ジョージをはじめ、ダイナミックな構図に緻密で強烈な情報量の画面で読者を圧倒する大暮維人(「エア・ギア」「灰仭巫覡」)、写実的かつ繊細な感情を浮かび上がらせる大今良時(「聲の形」「不滅のあなたへ」)、師匠・大久保篤(「炎炎ノ消防隊」)に「僕なんてもう完敗」とまで書かせた裏那圭(「ガチアクタ」)と、豪華作家陣が審査を務める。スポーツ、アクション、ファンタジー、ヒューマンドラマなど、その絵でさまざまな作品を生み出してきたマンガ家たちが、どんな作品をどんな視点で選び、評価するのか。応募する人はもちろん、読者としてもその講評が気になる賞だ。
大賞と各審査賞に選ばれた作品は掲載権が確約。また大賞は100万円、各審査賞もそれぞれ100万円の賞金が用意されており、すべてに同時に選ばれると最大500万円の賞金が贈られることになる。対象は未発表のオリジナル作品で、ページ数・プロアマは不問。ただし、画力特化の賞のため、作画と原作などの分業作品は応募対象外となっている。
「カッコいいと思うことを絵として出したい」
マンガにとって絵は特別なものだ。もちろん、マンガはストーリー、コマ割りなどの構成、セリフなどさまざまな要素でできている。実際に少年マガジンでもネーム原作賞やリベンジネームコンペといった、物語作りなどにフォーカスした賞を行っており、「絵はあくまでマンガの一要素」というのも1つの事実だ。
だが、その一要素がマンガの象徴であり、年齢や言葉を超えて心を掴む核でもある。多くの人が作品や作家の名前を聞いたとき、真っ先にセットで絵を頭に浮かべるし、心を打たれた作品に出会った子供はまず絵の模写をする。マンガ家になった人々も原体験は絵という人が多い。
「マガジン頂上画力漫画賞」の審査員の1人、裏那圭もやはり絵を描くのが好きな子供だったという。
裏那は2018年に「MGP(マガジングランプリ。現在は「マガジンライズ」へリニューアルしている)」に入選。その後、第103回新人漫画賞入選、「炎炎ノ消防隊」のアシスタントなどを経て、2022年より週刊少年マガジンで初連載「ガチアクタ」をスタートさせた。犯罪者の子孫が暮らすスラム街に生まれた少年・ルドが、いわれない罪に問われ、絶望とともに世界に立ち向かう同作は、連載開始からわずか半年ほどで「次にくるマンガ大賞2022」でコミックス部門 Global特別賞を受賞。2025年7月からはTVアニメが放送中の新進による注目作だ。師匠にあたる大久保篤が「大久保を超えた俺の正当後継者」「ガチでカッコいい」と絶賛するように、新人ながらマガジン屈指の画力を持つ作家と多くの人に認められている。
そんな裏那の原体験は「カッコいいマンガ」に触れたことだった。
「絵は物心がつく前からずっと描いていました。小学生の頃に友達に少年マンガを貸してもらって『こんなカッコいいマンガを描きたい』と思って自分も描くようになりました」
本格的にマンガ家を目指すようになってからも核にあったモチベーションは「絵を描くのが好き」だった。
「新人時代の原動力は単純に絵を描くのが好きだからです。いかにずっと楽しく描き続けるかというのを考えていました。自分がカッコいいと思うことや、誰もやってこなかっただろうなってことを、自分のマンガとして、絵として出していけたらな、と」
裏那はのちに、少年時代に憧れた作品の1つ「ソウルイーター」を描いた大久保篤のアシスタントとして経験を積むことになる。そこでは技術的な学びもあった。
「(大久保の)『炎炎ノ消防隊』なんかも、まったくストレスなく読める。それはなんでだろうと考えていくと、シンプルで無駄のないコマ割りだったり、絵に雑さがないことだったりするんです。自分は定規を使うのが下手で、線のはみ出しなんかもすごく多かった。丁寧に背景を描くってことを知らなくて。でも、そういう部分が雑だとマンガってすごく読みづらくなるというのを教えてもらいました」
描き手の感情や魂は絵に乗る
代表作「ガチアクタ」にもそんな絵に対する情熱と遊び心が詰まっている。和風の舞台になればその雰囲気を表現するために水墨画的な手法を使ったり、音の振動を表現するために定規を使わずフリーハンドの線をさらにマスキングテープを使ってあえて汚したり、さまざまな方法を試している。それは技術的な追求でもあるが、単純に新しい絵を描くのが楽しいという感情から生まれているように見える。
自作を振り返る裏那のコメントで印象的だったのは126話、傷ついて諦めかけたフォロがルドに発破をかけられもう一度立ち上がるシーンについてのものだ。
「魂を込めたかった絵です。このキャラクター(フォロ)自身が苦戦しながら成長を遂げるというシーンだったので、自分も楽しちゃいけないと思って、あえてアナログで手を真っ黒にしながら時間をかけて描きました。やっぱり描き手の感情とか魂みたいなものは絵に乗ると思っています」
コマ割り、構成などマンガにとって欠かせない重要な要素、技術はたくさんある。だが、裏那にとって魂が宿るのはやはり絵なのだ。
マガジンはやりたいことを実現しやすい場所
師匠・大久保との関係を話す中でも、裏那の原点を感じる印象的な話があった。
「大久保先生はマンガの自由さと遊びを思い出させてくれる一番のマンガ家だなって思ってます。大久保先生のマンガを読み返すと、初心に戻れるんですよね。子供の頃に戻って、自分の中に出てくる傲慢さとか承認欲求みたいなものをどうでもよくしてくれる」
描くのが楽しい、カッコいい絵を描きたい。それが裏那の核なのだろうと感じる話だ。
「これからやりたいことはいっぱいあるんですけど、軸にあるのはやっぱりカッコいいことや楽しいことをし続けたいということです。周りの人にも恵まれているので、そういう人たちともっといろいろできたらとも思っています」
少年マガジンは、そんな裏那にとっていろいろな挑戦ができる場所でもあるという。
「マガジンに投稿したのは、自由そうだなと思ったからです。それはただ漠然としたイメージだったんですが、結果的にその勝手なイメージは当たっていたなと感じています。マンガに関してもそうですが、マンガとまったく関係ない部分でも、自分がやりたいと言ったらけっこう実現できるような環境づくりをしてくれるのがマガジンだと思います」
昨年公開されたマガジンの新人作家応援PVの中で、森川ジョージは同誌を「何が流行っていても、これ面白いと思ったら載せ」る雑誌と表現している。自分の中にある「カッコいい」「楽しい」「面白い」をぶつけてみたい人にとって、マガジンは可能性を与えてくれる場所といえるのかもしれない。
マガジン頂上画力漫画賞 概要
審査員
- 森川ジョージ(「はじめの一歩」)
- 大暮維人(「エア・ギア」「灰仭巫覡」)
- 大今良時(「聲の形」「不滅のあなたへ」)
- 裏那圭(「ガチアクタ」)
対象者
マガジンでのデビューを目指す、画力に自信のあるすべてのクリエイター。
プロ・アマ不問。
応募条件
応募は未発表のオリジナル作品に限ります。ページ数不問。
「画力に自信のある漫画家」の賞のため、作画と原作が分かれているなどの分業作品はNGとさせていただきます。
各賞&賞金
- 大賞
100万円+掲載権確約 - 各審査員賞(森川賞・大暮賞・大今賞・裏那賞)
100万円+掲載権確約 - 優秀賞
10万円
応募締切
2025年8月31日(日)
結果発表
週刊少年マガジン公式サイト上にて10月下旬に発表予定