週刊少年チャンピオン(秋田書店)と言えば、どんな雑誌という印象だろうか? ヤンキーマンガが主体だったイメージが残る読者も多いかもしれないが、格闘マンガの「刃牙」シリーズ、スポーツマンガの「弱虫ペダル」、動物たちの群像劇を描く「BEASTARS」など、さまざまなジャンルの作品が長年雑誌を盛り上げてきていた。
そんな中、コミックナタリーでは、「魔入りました!入間くん」や「桃源暗鬼」などのメディア化タイトルはもちろん、近年、週チャンでファンタジー作品が充実していることに着目。週チャンの最強のファンタジー作品は何か? マンガ好きライター3人に声をかけ、“絶対結末まで読みたい”をテーマに「俺的最強3作品」を選ぶ、ドラフト会議を行ってもらった。しかし、ドラフト会議では選びたい作品が被りくじ引きが連発……! ライター陣が作品愛を語り合う、そんな様子も楽しんでほしい。
文 / ナカニシキュウ
今回ドラフト会議に参加したのはこちらの3人
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太田祥暉
1996年生まれ、静岡県出身。同人活動を経て、2018年にライター活動を開始。現在フリー。主にアニメやライトノベルについて取材・執筆。「僕の心のヤバイやつ TVアニメ公式ガイドブック」(秋田書店)では構成・取材・執筆を担当した。
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小林聖
1981年、長野県出身。マンガを専門とするフリーライター。過去には、その1年で読んだマンガから面白かった作品を自身の独断と偏見で選ぶX上の企画、「俺マン」こと「俺マンガ大賞」などを主催。
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はるのおと
アニメやマンガ、ゲーム、デジタルガジェットに関するライター・編集。週に65本くらいTVアニメを楽しみながら、アニメ関係のメディアや雑誌やムックや公式サイトなどでテキストを執筆。好きなチャンピオンマンガは「ドールガン」「シュガーレス」「LOOK UP!」など。
週チャンのファンタジー事情
──まずは最近の週刊少年チャンピオンの印象について伺えればと思います。けっこう時代時代でイメージの異なる雑誌ではありますよね。
小林聖 そうですね。「今のチャンピオンって、こんなにファンタジーが増えてるんだな」というのはすごく感じました。あまり雑誌を追っていない人からすると、それこそまだ「刃牙」シリーズとかヤンキーものとかのイメージが強かったりするのかなという気はしているんですけど。10数年前に「弱虫ペダル」が出てきたあたりから……もちろんその前にもいろいろありましたけど、だんだん雑誌のカラーが変わってきたような印象はあります。
太田祥暉 最近だとチャンピオンクロスとかのアプリで読むことも多くなって、掲載誌を意識しないケースも増えてきていますよね。
小林 たしかにたしかに。
太田 今回この企画のお話をいただいて、改めてチャンピオンの連載作を確認してみたんです。そしたら「学マス」(「学園アイドルマスター GOLD RUSH」)とか、単行本を買っているにもかかわらず「これ、チャンピオンでしたか」と気づかされたりしました(笑)。(参照:「学園アイドルマスター」猪ノ谷言葉×沖乃ゆうのマンガ版1巻 特装版に書き下ろし新曲)
はるのおと チャンピオンって、以前はずっと“ファンタジーマンガ不毛の地”と言われていたんですよ。「フルアヘッド!ココ」以外にファンタジーもので目立った長期連載が見当たらなかった。それが最近は、けっこうファンタジー作品が多くなってきていて、もちろん“なろう系”の流れとかもあるんだろうけど、編集部が力を入れるようになってきているんだろうなと。
小林 ファンタジーというジャンルに関しては、いわゆる少年4誌の中では後発にあたると思うんです。でも今回読んでみてすごく印象的だったのが、もうとにかくレベルが高い!
太田・はるのおと うんうん。
小林 “付け焼き刃感”がないというか。とにかく上手な作家さんがそろっているし、どの作品を読んでも本当に面白い。他誌と比べても遜色ない……というか、ファンタジーだったら今一番強いんじゃないかぐらいの層の厚さを感じましたね。
太田 ここ10年くらいのラインナップを振り返ってみると、「BEASTERS」や「実は私は」などがあって……まあ、あれが厳密にファンタジーと言えるかどうかは置いておいて、今の状況を生む土壌は着実に育ってきていたんだなと感じます。それこそ「魔入りました!入間くん」の大ヒットもあったし、「刃牙」と「浦安鉄筋家族」だけの雑誌じゃないんだぞみたいな(笑)、そういうイメージは少しずつ浸透してきているんじゃないですかね。
はるのおと あと、いわゆるスピンオフが強いというのもありますよね。「入間くん」や「刃牙」といった“おいしい原作”をチャンピオンは抱えているから、料理のしがいがあるというか。ほかにも今は「ルパン三世」のスピンオフ(「ルパン三世 異世界の姫君」)もやってますし。
小林 ただ、「ルパン」はチャンピオン原作でもなんでもないですけどね(笑)。
はるのおと そうなんですよね(笑)。「学マス」とかもそうだし……。
小林 「どっから引っ張ってきたんだよ?」っていう、いい意味で節操のない感じはチャンピオンならではの魅力だなと感じましたね。
──ありがとうございます。今日はそんな週チャンのファンタジー作品の中から、「結末まで読みたい3作品」というテーマで皆さんにオススメ作品を選んでいただき、プロ野球ドラフト会議の要領で、作品被りのないリストを完成させる企画を行いたいと思います。
週チャンファンタジードラフト会議 ルール
- 対象は2025年7月時点で単行本が発売されており、週刊少年チャンピオンおよび系列誌で現在連載中のファンタジーマンガ。
- 「ファンタジー作品と言えるかどうか」の線引きは、常識の範囲内で選者に委ねるものとする。
- 1巡ごとに3者が選択希望作品を同時に指名する。
- 複数の選者が同一作品を指名した場合、コミックナタリー編集部がクジ引きによる厳正な抽選を行い、獲得者を決定する。
- 抽選に漏れた者は再度指名を行い、3者の指名作品が決定した段階で1巡終了とする。
- 獲得者の決定した作品はもう指名できない。
- これを3巡繰り返す。
早速指名被り! ドラフト1巡目
──指名が被りそうな作品を早めに獲るのか、独自路線を狙うのか、各自の戦略が問われます。ではさっそく、第1巡選択希望作品を発表します。
太田・小林 あああー、被った。
はるのおと よっしゃー! 一本釣り!
──はるのおとさんは交渉権獲得ですね。
はるのおと 誰となんの交渉をするのかまったくわかりませんが……(笑)。
──クジ引きの前に、まずは皆さんの指名理由を聞かせてください。
太田 皆さんご存知のルパン三世一味がファンタジー世界へ転移するお話なんですけど……一般的に異世界ものって、転生した先の世界観設定を説明するのに尺を食うものなんですよね。そのパートってどうしても退屈になりやすいというか、面白く読めるまでに時間がかかってしまうケースも少なくない。その点、この作品は誰もがよく知る「ルパン三世」のキャラクターを使うことによって、その説明を最小限で済ませることができています。過去のTVスペシャルなどの“お約束”なんかもうまく取り入れていて、初手から楽しく読めてしまうのが魅力だと思いますね。脚本を担当されている佐伯傭介先生の巧みな構成によって、どんどん先の展開が読みたくなる作品でした。
小林 僕はまず絵ですね。とにかくいい絵だよなあっていう。あと、異世界転生ものというと、主人公にチート能力が付与されるのがパターンですけど、ルパンたちには別にチート能力が与えられない。「僕らのよく知っているルパンたちが、僕らのよく知っている能力で剣と魔法の世界をどう乗り切っていくのか」を楽しめる作品になっているので、それが面白いですね。
太田 異世界もののセオリーを押さえつつも、ルパンたちがちゃんといつものルパンたちなのがいいんですよね。先の展開がまったく予想つかないまま15巻まで続いていて、これが16巻17巻とどう続いていくのか本当に読めないから、完結までちゃんと読みたいと思わせる作品だなと思っています。
小林 それでいうと僕はちょっと逆で……もちろん細かい展開は予想できないんだけど、最終的にルパンは元の世界へ帰らざるを得ないと思うんですよ。メタな話になっちゃいますけど、「ルパン」ってある種の股旅もので、「どこからかやってきたルパン三世が誰かを救って去っていく」というのがお決まりのパターンじゃないですか。大枠としての結末がわかっているからこそ、ちゃんとどうケリをつけるのかを見せてよっていう。これを最後まで読めないのはちょっとつらいですね。
──はるのおとさんが「乱破」を指名した理由は?
はるのおと 僕のように一昔前からチャンピオンが好きだった人間からすると、「乱破」は“超チャンピオンしてる”作品なんですよね。バカバカしさ、泥臭さ、熱さ、ちょっとファニーなところ……僕の好きだったチャンピオンの要素が詰まりに詰まっている。それに加えて、絵が抜群にうまいですよね。アクションシーンの絵が一枚絵としてすごくカッコいいのは大きな魅力だと思います。
小林 実はこれ、僕も選びたかった作品で。本当にはるのおとさんがおっしゃった通り絵がカッコいいですし、しかも読みやすい。ただ今回のテーマが「最後まで読みたい」だったので、その観点でいうとやや「ルパン」に軍配が上がるかなというところで、泣く泣く指名を見送った作品です。
はるのおと 一時期に比べると、今のチャンピオンには洗練されたマンガが増えている印象があって。その中にこういう泥臭いものが存在してくれるのは、やっぱりチャンピオン好きとしてはうれしい。設定で大風呂敷を広げる感じも好きだし、主人公のバカさ加減はちょっと異常なほどですよね。
小林 あれいいですよね。基本めちゃくちゃなのに、忍者の存在だけはどうしても信じられなかったりとか(笑)。
はるのおと そうそう(笑)。登場する忍法のバカバカしさもそうだし、実にチャンピオンだなあってうれしくなる作品ですね。あと、これだけは言っておきたい。出てくる女の子がすごくかわいい。
小林 わはははは、そうですね(笑)。
太田 いや、大事なところですよ!
──では抽選に参りましょう。
コミックナタリー編集部 了解しました。ドゥルルルルル……(クジを引いて)はい、太田さんが当たりました。
太田 当たった(笑)。
小林 わー! じゃあもう1回指名するのか……。
──ということで、小林さんの外れ1位指名はこちらです。
小林 実は僕、バトルファンタジーってそんなに自分のど真ん中ジャンルではないんですね。もちろん読むことは読むんですけど。その中でこの「SHY」に関しては、戦うヒーローのカッコよさは当然ありつつも、不完全さや弱さというところに向き合っていく“心のドラマ”が中心なんですよ。そこがすごくグッとくるポイントです。キャラクターたちのことをどんどん好きになっていくんで、その結末はやっぱり見届けたい気持ちにさせられますよね。彼ら彼女らの笑顔を見たいっていう……この作品って、敵キャラもいいじゃないですか。
はるのおと わかります。バトルものって、強敵を1人倒したら次にもっと強いのが出てきてどんどんインフレを起こしていくパターンも多いですけど、「SHY」はずっと同じ組織の敵と戦い続けるんですよね。だからこそ、彼らの関係性を最後まで追いたくなるというのはたしかにあるなと思います。
小林 そうですね。単純な悪ってわけじゃなくて、もちろん禍々しさはあるんだけど、彼らは彼らなりの悲しみを背負っていることがすごく丁寧に描かれる。「じゃあ単に勝って終わり、ってわけにはいかないよね」というのがあるので、けっこうつらい展開も多い作品ですけど、彼らが幸せになるところをぜひとも見届けたいです。途中で読めなくなったらすごく困る(笑)。