ピッコマで連載中の「無能な継母ですが、家族の溺愛が止まりません!」(以下「ママ溺」)が、連載100話を突破した。「ママ溺」は家族から“無能”と罵られ育った公爵令嬢・エルシャが、“戦争狂”と恐れられる大公・ロルフとの結婚をきっかけに、家族から愛されること、また家族を愛することを学んでいくハートフルなファンタジー。読者からの熱い支持を受け、「タテ読みマンガアワード 2024」では国内作品部門で1位を獲得した。
コミックナタリーでは100話突破を記念して、原案・脚本を務めるつるこ。に作品を振り返るアンケートを実施。「ママ溺」のテーマでもある“家族愛”を感じるお気に入りのシーンを、第1話から第99話までの中で6つ挙げてもらい、そのお気に入りポイントや原案・脚本を執筆する際の裏話についてたっぷり回答してもらった。最後には「タテ読みマンガアワード 2024」に関する質問も。改めて受賞について振り返ってもらっている。
①第10話:アイスベルグ家の天真爛漫な弟・ヒューの覚醒
──このシーンを選んだ理由とお気に入りポイントを教えてください。
アイスベルグ家の愛され末っ子、ヒュー。「かわいらしさ」が前面にくることが多いキャラクターなのですが、優しいがために悩んで、苦しんで、声を失っていた時期があります。そんなヒューが、エルシャを守るためにトラウマを乗り越えて、敵に立ち向かうこのシーン。怖くてたまらないのに、うまくできるかわからなくて不安でいっぱいなのに、久しぶりに声を出して喉だって痛いはず。それでも何もせずにいられなかった、ヒュー。彼の優しさと勇気、伝わりましたでしょうか? 伝わってほしいと願いながら、心を込めて書きました。
──執筆する際にどんなことを意識しましたか。
エルシャがヒューを助けたことで、ヒューが成長して今度はエルシャを助ける。そんな相互愛が描きたいと思ってこのシーンを執筆しました。そもそもタイトルに「無能な」という単語を取り入れている本作。ただ主人公が溺愛されるだけでなく、みんな支え合って成長していってほしいということを意識しながら書いています。そういう意味でこのシーンは、作品を象徴しているシーンかもしれません。
②第12話:ウィルバートとヒューの兄弟愛
──このシーンを選んだ理由とお気に入りポイントを教えてください。
アイスベルグ家のがんばりすぎるお兄ちゃん、ウィルバート。真面目で紳士で、他人にも自分にも厳しいウィルバートですが、そんな彼にとってヒューだけはちょっと特別。どれだけウィルバートにとってヒューが愛しくて、大事な存在かがわかる1話だったと思います。溺愛アルバムシーンからの、ヒューが告白したトラウマを全身全霊で受け止めるお兄ちゃん。ヒューとウィルバートの深い絆を感じていただけたらうれしいです。書きながら、2人とも愛しくてたまらないなぁ~と思っていました。
──執筆する際にどんなことを意識しましたか。
このシーンは「エルシャ」が主役になりすぎないお話にしたいと思って描きました。本作の主人公はエルシャで、基本的にはエルシャが何か行動をすることで、周囲が変化していく物語です。ですがこのシーンではエルシャはどちらかというと縁の下の力持ちのような存在で、ほんの少し手助けをしているだけ。エルシャ以外の「家族」の魅力や絆も描きたい……という私のわがままから生まれたシーンなのですが、結果的には全員の魅力が引き出せたのではないか、と思えて、お気に入りのシーンとなりました。
③第46話:エルシャ初めてのお誕生日パーティ
──このシーンを選んだ理由とお気に入りポイントを教えてください。
無能な継母ことエルシャは、誕生日を祝ってもらったことがなく、冷遇されてきました。そのため誕生日を祝ってもらえるなんて想像したことすらありません。そんなエルシャのために、アイスベルグ家のみんなが心を込めて開いたパーティ。その後にエルシャがロルフに贈った「家族愛」の詰まったお礼。「ママ溺」を語るうえでは外せない話だと思っています。
──執筆する際にどんなことを意識しましたか。
この物語がこれほど誕生日を掘り下げることになったのは……実は企画当初は想定していませんでした。物語を描いていくうちに、エルシャにとって誕生日というのはすごく特別なものだと気がついて、後から思いついたエピソードです。キャラクターたちが私の想像を超えて肉付いて、動き始めてくれて。私は何も意識できてないので、なんとお答えしていいのかわからないのですが(笑)。強いて言うのならば、動き出したキャラクターを、無理に制御しないようにしようと思いました。物語の中で伸び伸びと動いてもらおうと腹をくくりました。
④第52話:幼きエルシャとアイスベルグ家
──このシーンを選んだ理由とお気に入りポイントを教えてください。
家族に冷遇されて、独りぼっちだった幼いエルシャ。彼女に不思議な力で会いに行く(?)ことになったというエピソード。幼いエルシャの笑顔が見られて、胸がいっぱいになりました。エルシャと出会ったことで成長したウィルバートやヒューが、幼いエルシャを救う……なんだかとても感慨深かったです。お化けエピソードに関しても、いつか回収したいと思っていました(笑)。
──執筆する際にどんなことを意識しましたか。
こちらも「幼いエルシャを、たとえ夢の中でも救ってあげたいんだ!」というわがままから生まれたシーンです。見せ方には正直、苦戦しました。シンデレラの魔法のように、解けて消えてしまうものだけれど、それでも確かにこの夢の中の出来事を通じて、今のエルシャも救われたので、わがままを貫き通してよかったな、と思っています。
⑤第74話:エルシャと父・ワーリンのすれ違い
──このシーンを選んだ理由とお気に入りポイントを教えてください。
エルシャをずっと冷遇してきた父・ワーリンと、亡くなった母・エルケのエピソード。エルシャにとってアイスベルグ家だけでなく、ゾーネブルグ家も間違いなく家族。つらくても苦しくとも無視できない存在です。このお話は読者の皆さんに受け入れてもらえるか不安だったのですが、こうして世に出せたことをうれしく思っています。
──執筆する際にどんなことを意識しましたか。
こんな面倒なキャラクターとエピソードは、取り入れるべきじゃない!と作家としての理性は叫んでいたのですが、書いてしまいました。意識には反しています(笑)。少しでもワーリンの苦悩が伝わるように。けれど美談にしすぎないように。エルシャの気持ちに寄り添いながら、気をつけて書いたエピソードです。
⑥第93話:暴走したヒューを真っ先に抱きしめるエルシャ
──このシーンを選んだ理由とお気に入りポイントを教えてください。
戦って、成長して、乗り越えてきた子供たち。けれどうまくいくことばかりではありません。でもたとえ失敗しても、大丈夫。エルシャがいるからね。子供たちの成長だけでなく母として成長したエルシャを描けてうれしいです。このシーンも、企画立ち上げ当初からいつか描きたいと思っていました。ここまで連載を続けられたことも感慨無量です。
──執筆する際にどんなことを意識しましたか。
このシーンに関しては、意識したことは、本当にまったくないです。いつか書きたいと思っていながらも、キャラクターたちに導かれるまま書いていました。泣いているヒューとウィルバート、そして苦渋の選択をするロルフを描きながら「エルシャ~~~~~早く助けてあげて~~~~~~!!」と叫びたくなりました。あまりにもアイスベルグ家のみんな愛しくて、書きながら、少し泣いてしまって。キャラクターたちに、なんて苦しい思いをさせているんだと自分を少し責めたりもしながら(笑)。この話については、温かいご感想をたくさん頂戴しまして。伝わってよかったです。
──改めて「タテ読みマンガアワード 2024」国内部門1位を受賞した際の感想を教えてください。
エルシャへ
こんなにたくさんの人に愛されているよ
もう一人ぼっちじゃないよ
よかったね
このように受賞の際のコメントにも書かせていただいたのですが、改めて感慨深く思っています。
無能で、誰にも愛されず、居場所のなかったエルシャが、こんなにたくさんの方に愛されて、応援されて、賞をいただけるなんて、なんだか出来過ぎじゃないかとも(笑)。
本当にありがたいです。未だに夢のように思っています。
──2025年2月には授賞式が行われ、作品の代表者としてつるこ。先生にご登壇いただきました。あれから4カ月、何か反響はありましたか。
たくさんの反響を頂戴しました。ファンの方からも本当にたくさんのお祝いの言葉を頂戴しました。身近な話で言うと、今まで私は知り合いに作家業をしていることをあまり話していませんでした。ですが今回の賞の開催をきっかけに、勇気を出して「こんな作品を書いているんだよ」「もし読んでみて好きだったら、応援してくれるとうれしい」と伝えたら、「もう読んでる」みたいなことがたくさんあって。そのうえ、「応援するし、布教するよ!」と言ってたくさんの「ママ溺」の輪がリアルでも広がっていきました。その後、受賞をきっかけに、さらにその輪が広がってくれています。思いがけないところからお祝いのお言葉をいただくことも。
改めて、「ママ溺」が多くの読者さんに届いていること、Webtoonそのものの認知が広がっていることを痛感いたしました。
──関係者の皆さんやファンの方々へメッセージをお願いいたします。
ありがとうございます。この一言に尽きます。
応援してくださるファンの皆様、制作チームの皆様、関わってくださるすべての皆様には、感謝の言葉をどれだけ伝えても足りません。
まだまだアイスベルグ家の溺愛は止まりません!
これからもますます加速してまいります!
どうぞ、今後とも「ママ溺」を「溺愛」よろしくお願い申し上げます。
プロフィール
つるこ。
マンガ原作者、シナリオライター。三重県在住。2014年頃からゲームや音声コンテンツの脚本、マンガ原作など、ジャンルを問わず執筆する“なんでも書く系シナリオライター”として活動。現在、ピッコマで連載中のSMARTOON「無能な継母ですが、家族の溺愛が止まりません!」の原案・脚本を担当している。同作は「タテ読みマンガアワード 2024」の国内作品部門で1位を獲得した。単行本は最新2巻がKADOKAWAより刊行されている。