「灰仭巫覡」3巻

このマンガ、もう読んだ?

「灰仭巫覡」の読み方は?カイジンとは?フゲキって何?そんな読者の疑問をスッキリ解決

PR大暮維人「灰仭巫覡」

大暮維人が12年ぶりに放つオリジナル作品「灰仭巫覡」。週刊少年マガジン(講談社)新作の中でも大きな反響を呼ぶ同作だが、タイトルを検索すると「灰仭巫覡 読み方」と出てくるくらいみんなタイトルが読めてないらしい……? そんな読者の素朴な疑問に答え、「灰仭巫覡」の世界観の基礎の基礎を徹底解説する。

/ 小林聖

大暮維人「灰仭巫覡」3巻
大暮維人「灰仭巫覡」3巻
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タイトルが読めない? それはだいたいみんなそう

冒頭からなんだが、困惑している。なぜなら「灰仭巫覡(カイジンフゲキ)」のレビューはつい3カ月前に書いたからだ。洗濯槽の掃除だってこんな頻度でやっていない。どういうつもりでまたオファーが来たのか。

このマンガ、もう読んだ?

という真っ当な疑問をコミックナタリー編集部にぶつけたところ、こんな答えが返ってきた。曰く「タイトルを検索すると『灰仭巫覡 読み方』と出てくるくらいみんなタイトルが読めてない」「これでは『このマンガ、もう読んだ?』どころではなく、『このマンガ、そもそもタイトルが読めない』である」「だというのに、どっかのライターが『小難しい設定を読み込むよりまずどっぷり世界観に漬け込まれる感覚を楽しもう』みたいな原稿を書いてくるもんだから、相変わらず読み方と用語でつまづく人がいる」。

なるほど、もっともである。「灰仭巫覡」は2巻発売時にも「過去1年間の週刊少年マガジン新作の中で最も売れている」というニュースが出るくらい反響が大きい作品だが、おそらく未読の人は「マガジンの難しい漢字のやつ」と呼んでるし、下手をすると買ってる読者も「グレ先生のタイトル読めないやつ」と呼んでる。なんならレビューを書いた筆者自身も「2時間に1回読み方を再確認しながら原稿を書いたやつ」と呼んでいる。

タイトルが読めようが読めまいが作品を読めばその魅力はわかるのでたいした問題ではないとも言えるが、本作の場合、タイトルの解説をすることが世界観の理解にもつながってくる。この世界観の魅力をスッと楽しむために、今回はタイトルや用語などの整理を行っていこう。

「オカルトが“科学”化した世界」を押さえれば世界観が見えてくる

さて、まずはタイトルである。すでに冒頭からフリガナを入れているが、「カイジンフゲキ」と読む。この読み方が覚えづらいのは漢字が難読であることもあるが、多くの人にとってなじみのないフレーズが重なっているからだろう。

まず「灰仭(カイジン)」だが、これは「灰と燃えがら」を意味する「灰燼」を踏まえた造語である。あてられた「仭」は、本作の主人公の名前だ。少年・仭が敵もしくは自分自身を灰と燃えがらにするように戦うイメージが浮かんでくる。

そして、「巫覡(フゲキ)」。こちらは神に仕える人、祈祷などを行う人を指す言葉だ。「巫女」と言えばなじみがあるだろう。「巫」は女性、「覡」は男性に使うのだという。この「巫覡」は、本作の中核を為す要素だ。「巫覡」という言葉を理解するために、この世界の理論体系と技術を把握しておこう。

「灰仭巫覡」の舞台は、「夜」と呼ばれる災害とも怪異とも言えるようなものが存在する世界。人間は、世界を滅ぼすほどの脅威である「夜」と各地で戦っている。強大な「夜」に対して、各国で軍隊のような組織が対抗し、戦争のような様相を呈している。これが本作の世界の状況だ。

巫覡は“パイロット”であり、神楽を舞って「夜」と戦う

そして、もう1つ重要なのが「夜」に対抗する力。本作の世界では「霊磁力(レイジリョク)」と呼ばれるエネルギーと、その作用である「霊磁力学」が現実世界における科学として存在している。

そんな霊磁力学の1つの結実であり、「夜」や神と戦う鍵となっているのが「巫覡」と「神楽」と「祟り刀」だ。

「灰仭巫覡」1話より。

「灰仭巫覡」1話より。

この世界における「巫覡」は「巫覡魂(フゲキコン)」と呼ばれる一種の才能を持つ者を指し、主人公の仭やそのバディ・ガオもその1人。彼ら彼女らは神楽を舞うことで自分の中の霊磁力を増幅させて神を降ろし、その力で「祟り刀」を操って「夜」と戦う。ざっくり言えば、巫覡は本作では祟り刀と呼ばれる兵器の“パイロット”であり、神楽を舞って戦うというわけだ。

「オカルト現象」が理論的に証明された世界、その理論体系が「霊磁力学」

神道や陰陽道をモチーフにして描かれる霊磁力学は世界観の肝で、さまざまな関連用語が出てくる。例えば、この後試し読みを載せている第12話だけでもざっと以下のようなものがある。

  • 方忌(カタイミ):陰陽道の風習の1つ。「方違え」といえば古典で習った人も多いのではないだろうか。
  • 反閇(ヘンバイ):神に捧げる舞である神楽における足運びのこと。
  • 八咫之比礼(ヤタノヒレイ):比礼は女性が肩にかけた薄布。日本神話でニギハヤヒが授けられた10種の宝・十種神宝にも3種の比礼が入っている。本作では戦闘で使うアイテムになっている。

さらに、こうした現実にある用語に加え、独自の造語も入ってくる。同じく12話で描かれる「塞楽八拍子(ソクラクヤツビョウシ)」はその1つ。作中で使われる踊りの技名だが、これは存在しない言葉だ。

「灰仭巫覡」12話より。

「灰仭巫覡」12話より。

1話分取り出してみてもこれだけさまざまな用語が出てくるのだから、世界観と情報に溺れてしまうのも無理はない。だが、ひとまず物語を大雑把に理解するのに重要なのは、この世界ではいわゆる「オカルト現象」が理論的に証明されており、その力を利用しているということだ。その理論体系が「霊磁力学」というわけだ。

本作は第1話でこうした世界観や作り込みを順を追って説明するのでなく、一気に放り込むスタイルを取っているため、とっつきにくいイメージを持つ人もいるであろう。だが、このあたりを押さえておくとグッと話をつかみやすくなるし、仭たちが何をしているか、登場人物たちが何に苦悩し、葛藤するかといった人間ドラマに集中しやすくなる。

これくらいの解像度から読んでいっても十分面白いし、言葉やモチーフについて踏み込んでいけば沼のように考察・研究できそうな広がりもある。ひとまずこんな基礎を押さえて、試し読みから入ってみてほしい。

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「灰仭巫覡」12話を試し読み!
© 大暮維人 / 講談社

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