コミックナタリー編集部員が振り返る「10月の新連載」

今月の新連載 第5回 [バックナンバー]

コミックナタリー編集部員が振り返る「10月の新連載」──はくりの魔法使いファンタジー、流行りの“ぬい活”マンガ、4コママンガ議論

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雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを振り返る企画だ。第5回は2025年10月にスタートした新連載を語る。

/ コミックナタリー編集部

「幸色のワンルーム」はくりの魔法使いファンタジー

くろねこ はくりさんの新連載「WITCHRIV」が、少年ジャンプ+でスタートしましたね。前作の「幸色のワンルーム」とは打って変わって王道ファンタジーで驚きましたけど、面白かったです。

ぞう 人間から迫害されている魔法使いと、魔法の力を利用した魔道具で戦う人間の対立を描く作品で、なぜ対立することになったのかとかまだわからない点も多いですが、ワクワクする感じがあります。

うさぎ けっこう情報量も多いのに、読みづらさとかも感じませんでした。

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りす はくりさんのマンガを僕は初めて読んだんですけど、こんなに上手な人だったんですね。全然違ったジャンルでヒット作を出した人が、次に王道のファンタジー描くというのはちょっと珍しい気がします。

うさぎ 実はもともとファンタジーが好きで、以前から描きたかったとか、そういう理由があるのかもしれないですね。

ぞう 魔法使いの設定も、よくある炎を出すとか空を飛ぶみたいな定番ではなく、主人公のノナは、何かと何かを縫い合わせるという力を持ってる。その後に物を重くする能力を持った魔法使いが出てきたりするので、魔法使いによって使える魔法が違うっていうのも能力バトルものっぽくて面白そうです。あとお母さんが人間と戦うときに使った魔法の威力にノナが驚いている描写があるんですが、普段は力を抑えていたのかなと。本来魔法使いは人間にとってかなりの脅威で、警戒されるだけの理由があることを、あのバトルだけで描くのがうまいと思いました。

りす 何かを縫い合わせるっていう魔法自体はちょっと地味ですけど、工夫次第でいろいろできる能力でもあると思うので。すごいことができたときの驚きというか、感動がありますよね。

流行りの“ぬい活”を描く「ぬいの直し屋」

くろねこ 「ぬいの直し屋」もかわいい話だなと思いながら読みました。“ぬい活”をテーマにした話ですけど、ぬいぐるみの“診療所”っていうのが今どきっぽいなと。

ぞう ぬいぐるみを持ち歩く人もすごく増えたので、時代にあったマンガだなと思いました。

りす そもそも“ぬい活”ってなんですか?

くま ぬいにお洋服を着せたり、ぬいを連れてお出かけしたりすることですかね。

りす 普通に家でぬいぐるみを大事にして心の支えにしてる人の場合は、“ぬい活”ではないんですかね?

くま その人たちは“ぬい活”をしているというよりかは生活の中にぬいがいる、って感じじゃないですか。

りす ただ一緒にいるというよりは、ぬいと一緒に活動するイメージですかね。

くま 作中にもぬいの病院が出てきますけど、入院中のぬいの様子を写真に撮って送ってくれる病院もありますよね。

一同 へー。

くま あとは自分の代わりにぬいを旅行に連れて行ってくれるサービスとかもありますし。だからただ一緒に過ごすっていうだけではなく、一緒に暮らしたり、我が子を育てたりするような感覚で「いろんな景色を見せてあげたい、体験させてあげたい」っていうのがいわゆる最近の“ぬい活”なんじゃないかと思います。

うさぎ 幌琴似さんの前作「針と羊の舟」は、ペットロスになった主人公が、亡きペットを羊毛フェルトで再現する作業を通じて心を再生させていくみたいな話だったので、今回の作品もただの“ぬい活”の話ってわけでもなさそう。

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ぞう 「ぬいの直し屋」も、ぬいぐるみ診療所の店主・布瀬はもともと野球選手だった過去があるみたいですし、何か訳ありな感じはありますよね。扉ページにも「みんなの相棒の“再生”を描く」って書いてありますし。

りす “ぬい活”と再生のテーマがどう絡んでくるのかが注目ポイントなのかな。

新人保育士の奮闘&食事が不要になった世界、ビームの新連載

うさぎ 黒崎冬子さんの「いたいのいたいのそらをとべ」は、保育園児の子を持つ親として、子供たちのにぎやかさの再現が素晴らしいなと思いました。もともとエネルギッシュで躍動感のある作風の人だけど、子供を生き生きと描くのが上手ですね。

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りす 以前コミックビームで描いていた「無敵の未来大作戦」は、一夫多妻または一妻多夫の家庭を作ることが認められた世界の話でしたよね。そういう変わった設定や、独特のギャグを描かれる人だと思っていたので、過去の作品と比べると今作はリアリティラインを少し上げてきたような印象を受けました。

うさぎ そもそも保育園という場所が十分カオスな空間だからっていうのもあるかもしれませんが(笑)。

りす 今回は現代の保育園が舞台ということで、現実感がなくなるような突拍子もないギャグを入れることは避けているのかもですね。「無敵の未来大作戦」は少子化対策の話で、今作も保育士の給料が安いとか保育園の大変さみたいな話が盛り込まれているので、ぶっ飛んだマンガを描く人と思っていたけど、社会制度に興味があるすごく社会派な人なのかもしれない。

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うさぎ 同じくビームでスタートした「きみと光さす食卓で」も面白かったです。こちらは人類が光合成できるようになって、食事がほぼ不要となった世界を描くSF作品。

りす 食べる喜びを取り戻すみたいな話なのかな? 現実では環境負荷低減の観点から、代替肉とかとかが注目され始めているじゃないですか。そういう時代に、“本物”を食べる喜びみたいなことが描かれているのは、何か隠れたメッセージがあるのかなってちょっと深読みしたくなります。

ぞう 作中のポスターにもありましたけど、地球の資源を食べる昔の人間になるのか、光合成をして資源を減らさない人間になっていくのか。

りす いろんなことを考えさせられそうなマンガですね。

徐々に増えつつある、外国人マンガ家

ぞう 僕はスペイン出身のフアン・アルバランさんのエッセイマンガ「A Mangaka’s Road to Japan」を紹介したいです。DCコミックスで働いていたけど、コロナ禍で仕事がなくなったフアンさんが、日本で連載を持つまでを描いていて、コロナが酷かったときのスペインの状況やDCコミックの話、海外のマンガ事情を挟みつつ、外国の人が日本でマンガを描くために何が必要なのかも描かれてます。講談社の海外のマンガ家志望向けのサイトでは、英語バージョンも公開しているので広まってほしいですね。

りす 前回も話しましたけど、お仕事マンガとか自分が知らない仕事の仕組みがわかるマンガは面白いですよね。マンガ家のアシスタント専門の掲示板があるなんて知らなかったです。

くろねこ フアンさんはモーニングで「マタギガンナー」も描かれてますけど、最近は海外のマンガ家さんも増えてきましたよね。「マタギガンナー」は原作付きなのでちょっと違いますが、けっこう王道のファンタジーとか純文学っぽいマンガが多いなという印象です。あと個人的には、美術とかを学んだうえでマンガも描いてる人が多いイメージです。でも日本のマンガって自由だから、もっと自由に描けるといいなとも思う。

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りす 確かに外国のマンガって絵が第一みたいな印象ありますね。でも日本のマンガは絵が上手ではなくても、面白いのもいっぱいありますから、そこの文化の違いはありそうな気がある。

くま 外国人の作家さんっていうと、Souffle(秋田書店のWebマンガサイト)で読み切りを発表しているアメリカ人作家の化石流星さんを思い出しますね。生まれも育ちもアメリカなのか、生まれたときから日本で暮らしている方なのかわからないですが、言われないと日本人としか思えない作風なので、興味深いなと思っています。

くろねこ 確かに、言われないとわからないかも。海外の作家さんが、どんな作品に影響を受けてマンガを描いてるのかとか、聞いてみたいですね。

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4コマ目で落ちてる? 落ちてない? 4コママンガ議論

とり 私は「華麗なるエロ漫画部」が面白かったです。エロマンガを主体とした内容ではなくて、エロマンガに真剣に向き合うお嬢様という1つのテーマがコメディとして描かれていて、楽しく読めました。

うさぎ テンポがよくてちゃんとクスッと笑わせられてしまう。こういう作品を読むのは好きだなと思いました。

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とり これって4コママンガの括りに入りますよね?

りす 4コマですね。今の4コマの世界では、ストーリーマンガを4コマのフォーマットで描くのは当たり前になってますし、4コマ目で1コマ目のフリに対するオチがついてれば、4コママンガだと思います。

くろねこ でもストーリー4コマというか、1話全体のストーリーがあって、それを4コマで落としつつ話を進めるっていうスタイルですよね。

くま 純粋な疑問なんですけど、4コマ目で落ちてなくても、4コママンガと言えるんですか?

りす まあ確かに本当にコマ4つで1エピソードが完結してるわけじゃなく、何ページも使って1つの長いエピソードを描いているから昔ながらの“4コママンガ”ではないけど、「麗なるエロ漫画部」はちゃんと4コマ目で落ちてるし、しっかり4コマだと思いますよ。

くろねこ そこまで落ちてない作品もありますもんね。

りす ありますね。落とさないことで話を途切れさせないというのも1つのテクニックだと思うので、落ちてないことが悪いってわけでもないですが。やっぱり4コマ目で落ちてると、気持ちがいいですよね。そこではずみをつけることが次の4コマを読み進める推進力になるというか。

くろねこ なるほど。ただ4コマ目で落とすじゃなく、マンガとして面白く読ませるためのテクニックでもあるのか……。

くま それはそれで技術がいるっていうことですね。

りす 「ぬるめた」の作者のこかむもさんがブログで「きらら4コマの描き方」を解説していて。4コマに興味ある人は全員読んだほうがいいっていうぐらい、すごい解説だったので読んでもらいたいですね。

ぞう 確かに、4コマは普通のマンガとは作り方が違いそうですもんね。

くろねこ ただ世の中的に、4コマ自体って減ってそうですよね。昔は雑誌に1作か2作は4コマの連載があったけど、それもなくなってる雑誌が増えてるじゃないですか。

りす 面白い4コマはいっぱいあるんですけどねー。

“おっさんもの”の次は“お母さんもの”が来るかもしれない

うさぎ 「お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!」は、最近お母さんものの冒険ファンタジーが流行りつつあるのかなと思いながら読みました。「勇者に全部奪われた俺は勇者の母親とパーティを組みました!」が売れてたり、ちょっと前ですけど「通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか」がアニメ化したりとかもあったから、“おっさんもの”の次はお母さんものが来るのかもしれない。

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くま おじさんが異世界に転生する話で、男性読者がおじさんに感情移入するのはなんとなくわかるんですけど、女性読者はお母さんとか主婦に感情移入するんですかね?

りす おじさんがおじさんのまま転生する話と、おじさんが転生して若返って人生やり直す話では、またちょっと違うからなあ。「異世界おじさん」とか面白いけど、別にあのおじさんに感情移入してるかっていうとそういうわけではない気もするし……(笑)。

くろねこ 周りから見下されたりしてるような冴えないおじさんが活躍するっていうことに、カタルシスがあるのはわからなくないですけどね。

くま それこそ「8月の新連載」でも“弱者男性”というワードが出ましたけど、現実世界にどこか生きづらさを抱えている人たちがカタルシスを感じるのかもしれないですよね。

くろねこ まあでもおじさんものと比べると、お母さんものはそんなに数も多くないし、何かしらヒット作がでないとブームにはならないから、今後どうなるかですよね。異世界転生は本当に手を変え品を変えだから。一時期は、第○王子とか末っ子転生も多かったし。

くま 末っ子に転生して溺愛されて、プレッシャーもなくすくすく育つみたいな(笑)。

くろねこ 異世界転生ものは、現代社会の生きづらさや生まれ変わってやり直したいっていう思いを反映してると。

りす 不況だったりで世の中が大変だから、異世界ファンタジーに救いを求めるっていうのはありますよね。

くろねこ ほかに気になった作品ありますか?

とり 「猫と手」は面白いというか、今まで見たことないマンガだなって思いました。

くろねこ 確かに。なんか変わったマンガなんだけど、不思議と惹きつけられる魅力があるなと。

うさぎ 「まるで理屈がわからないわ」っていう言葉が出てきて、本当にその通りだなと思いました(笑)。

りす なんで手と猫を絡ませようと思ったんだろう。

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とり 猫のキャラクターは人間の造形をしていますけど、これがリアルな猫で描かれていたらなおカオス度が増しますね(笑)。

くろねこ この手の正体って、のちのちわかるんですかね。「猫と手のほのぼのストーリー」って書いてあるから、謎を明かしていくような話ではないような気もしますけど、ちょっと正体が気になる(笑)。

りす この手の正体がわかってきたらすごいマンガになりそう。いろいろ想像は膨らむけど、あんまり勝手に予想すると、今後の展開を潰すことになるからよくないかも(笑)。

座談会に参加した編集部員

  • うさぎ:5歳の子に買う、初めてのマンガで迷っている。
  • くま:最近は川瀬はるさんのマンガ「くまさきさん」に癒やされました。
  • くろねこ:「クローズ」「WORST」の続編がついに決まってうれしい。
  • ぞう:菅原亮きんさんの「小金井兄妹の休息」がめちゃくちゃいいです。
  • とり:幼少期はトラウマレベルで怖かったけど、大人になって読んで大ファンになった作品その1「多重人格探偵サイコ」。
  • りす:バニーガールが好きになったきっかけを考えていました。たぶん「ドラゴンボール」で、ブルマが着る服がなくてウーロンに渡されたバニーガールの服を着ているのを見たとき。

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