コミックナタリー編集部員が振り返る「8月の新連載」

今月の新連載 第3回 [バックナンバー]

コミックナタリー編集部員が振り返る「8月の新連載」──マンガを通して生き方を模索、心理カウンセラーが異世界転移、「GALS!」の藤井みほながココハナ登場、ろびこの新作読切はヤンマガで

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雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを振り返る企画だ。第3回は2025年8月にスタートした新連載を語る。

/ コミックナタリー編集部

座談会に参加した編集部員

  • いぬ :Kindle本マンガフェスでマンガを買いすぎた。
  • うさぎ:夏の作品だと、田島列島「子供はわかってあげない」、吉田基已「夏の前日」がマイフェイバリットです。
  • くま:りぼんと3COINSのコラボ、「ときめきトゥナイト」のポーチを早速愛用しています。
  • くろねこ:「ヴィンランド・サガ」の最終巻が発売されたので、一気読みしたい。
  • ぞう:この夏一番グッときたマンガは「サボタージュ・サマー」でした。
  • とり:「スキップとローファー」最新12巻読みまして、情緒がかき乱されています。
  • ねずみ:今年の秋は「ひらやすみ」「じゃあ、あんたが作ってみろよ」のドラマが楽しみ。
  • りす:「魔法騎士レイアース」では海ちゃん派。

マンガを読みながら、自分の生き方も模索していく「ひとごとごと」

くま 月刊コミックビーム(KADOKAWA)で始まった、オカヤイヅミさんの「ひとごとごと」が面白かったです。結婚する気のない未婚の40代女性・あさみが主人公のお話で、自分は30代半ばなんですが、共感しかなかったです。第1話のラストが、中学生ぐらいの集団とすれ違ったあさみの「なんか なにか してあげたいなー」というモノローグで終わるんですが、個人的に「わかるなあ」と思って。自分も結婚願望も子供を産む気もないんですけど、子供のために何かしてあげたいなあという気持ちだけはあって。数年前から里親制度とかに興味を持ち始めたので、あさみがどういう意味で「何かしてあげたい」と思ったのかはまだわかりませんが、そこも含めてとても共感できる1話でした。あと連載が始まったときのオカヤさんのXによると、「ライフステージによって住む地区が隔てられた世界」という設定らしく、完全に現実の話ではないのも含めてどうなっていくか、続きが楽しみです。

「ひとごとごと」新連載時のポスト

ぞう 住む人の属性によって地区が分かれてるというのは面白いですよね。この設定がいいアクセントになっているなと思いました。

くま 7月の新連載で挙がった「終末パートナー」もSF要素取り入れつつ、安楽死という現実の制度を扱う話で、どちらもビームの作品だから、私が今読むべき雑誌ってビームなのかもしれないと思いました。

うさぎ オカヤさんがこの前にビームで連載していた「雨がしないこと」は、恋愛をしない女性が主人公の群像劇でした。ただ、その主人公の内面を深く掘り下げていくというよりは、主人公は合わせ鏡のような存在で、彼女の周囲にいる人々の内面が描かれていく側面が強くて。全2巻で、魅力的な作品だったんですが、個人的には「もうちょっと読みたいな」「もっと主人公のことを知りたいな」といううちに終わってしまった印象もありました。「ひとごとごと」は2話以降も、この主人公の内面を深堀りしていくのかな?

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くま 以前、女性セブン(小学館)で連載されていた「白木蓮はきれいに散らない」も、しんどい現実を生きる女性がテーマでしたよね。今回の新連載が始まったとき、オカヤさんが読者の「フェミニズムの作家とみなされることに腹を括った感のある、静かに熱い新連載」という投稿をリポストしていたので、なんかそういう思いがオカヤさんの中にあるのかなと思いました。

くろねこ オカヤさんに限らずですが、ただしんどい話というだけではなく、じゃあこの現実に自分らしく向き合うにはどうしたらいいのか?みたいなところまで描いてくれる作家さんが多くていいなと思います。最近だと雁須磨子さんの「あした死ぬには、」とか、新作の「起承転転」とか、難しいテーマではあるけど読んでいて悲壮感は感じないんですよね。カレー沢薫さんの「ひとりでしにたい」も、コメディとして描くことで楽しく読める人もいるでしょうし。

うさぎ 無理して面白おかしくしてやろうとか、明るくポジティブに受け入れられるようにしようとか、そういうのではない作品が増えてますよね。

くろねこ 楽観的すぎず悲観的すぎず、でも現実もちゃんと見ているという。そういう絶妙なところをマンガに落とし込んでくださる作家さんがいてくれてうれしいです。自分だけが悩んでるわけじゃないんだ、と知れるだけでも救われることもあるし。

くま 価値観の合う女友達と一緒に会話をして、悩みながら自分の生き方も模索していく、みたいな感覚になれますよね。

女性の生き方を描くマンガが増える一方、男性の生き方を描くマンガは……?

くろねこ 女性の生き方という話だと、冬野梅子さんの「復讐が足りない」も面白かったです。冬野さんもデビュー当時から描きたいことはぶれないなという印象なのですが、今回は社内で起きた性被害を取り巻くお話で、興味深く読んでます。

くま 同僚が性加害を受けて仕事を辞めて、でも加害者と被害者とされる人たち双方の言い分が違うっていうのは最近の社会の中でも耳にする出来事なので、けっこう気になるテーマですよね。主人公の妄想の中にある暴力性と、性加害を受けたとされる同僚との話がどう絡んで、「復讐が足りない」というタイトルにつながるのかも楽しみです。元同僚の友達も訳ありっぽいですし。

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くろねこ 今月は女性向けで気になる作品が多かったんですけど、生き方みたいなテーマのマンガとなると、やっぱり女性向けが多いのかなと思いました。男性向けの作品があってもよさそうなのに。

くま 女性で使われがちな「生きづらさ」とか、「おひとりさま」みたいな表現を男性で言い換えるとしたら……弱者男性?

くろねこ になっちゃいますよね。あんまり積極的に使いたい言葉じゃないけど。

くま そういう意味では、男性が己に生き方を問いかけながら、楽しく読めるマンガって何かありますかね?

ぞう 「路傍のフジイ」(小学館の週刊ビッグコミックスピリッツで連載中)は近いと思います。

くま ああ、確かに。フジイは自由な生き方してますもんね。

ぞう フジイに弱者男性の自覚はないと思いますけど、彼を慕ってる同僚の田中は登場当初は弱者男性っぽさがありましたね。周りの男友達はみんな結婚していて、1人だけ独身なことに引け目を感じてたり、大金を稼いでいるわけでもなく、なんでも話せる友人もいない。社会的に成功とされる人生を歩んでいないことに葛藤していたけど、フジイの生き方を知って変わり始める。

とり カレー沢さんが週刊漫画ゴラク(日本文芸社)で連載している「ごじあいのススメ」というマンガも、男女問わず読めると思います。日常の些細なトラブルとか、ちょっと煩わしいと思う気持ちが性別関係なく描かれているので。

りす 男性でライフスタイルみたいなものを描いてる作家というと柳沢きみおさんとか、福満しげゆきさんが浮かぶけど、上で挙がっているような生きづらい系の作品とは、ちょっと毛色が違う気も。男性向けのマンガでも、人生とか生き方を描くものが増えていくといいですね。

異世界転移した心理カウンセラーを描くファンタジー、「フリーレン」のヒットの影響も

とり 「セトウツミ」や「オッドタクシー」の此元和津也さんが原作を担当してる、「カミキル-KAMI KILL-」が面白かったです。3話ぐらいまで読んだんですけど、下町とシャッター商店街の人情劇かと思いきや、いろいろ怪しい感じなんですよね。

いぬ  此元さんはそういう仕掛けがうまいですよね。「セトウツミ」も伏線がちりばめられていたのが終盤で発覚しますし、「オッドタクシー」にも驚く仕掛けがあったし。公式で「人情×ユーモア×ミステリーの物語」と謳っているので、今後、何かしらどんでん返しを入れてくるんじゃないかなと思います。

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うさぎ マンガ好きの美容師と、「床屋が主人公のマンガってあまりないよね」って話したことがあって(笑)。だから此元さんみたいな、会話劇が得意な作家が取り上げてくれたのはなんとなくうれしい。床屋と会話劇って相性ぴったりですよね。

くま 確かに床屋だと会話が展開しやすいですもんね。此元さんが「オッドタクシー」の木下麦監督とタッグを組んだ劇場アニメ「ホウセンカ」も10月に公開されますし、10月期のドラマ「シナントロープ」でも原作・脚本を手がけていて、面白そうなので個人的に注目してます。

とり あとマンガワンで始まった「星霜の心理士」も面白かったです。現代日本から異世界転移してきた心理カウンセラーを描くファンタジーで、勇者って強い存在として描かれることが多いですけど、実際はそりゃつらい経験もたくさんしているよなって気づきました。仲間も失っているだろうし、精神的な負担はありますよね。その視点をファンタジーに持ち込んだのが面白かった。

くろねこ 前回もファンタジー作品の変化の話をしましたが、斬新な切り口ですよね。「葬送のフリーレン」がヒットした影響もあるんでしょうけど、作り手側も模索してるんだなと思いました。

くま 私はファンタジー作品よりも日常マンガのほうが惹かれる人間なんですけど、人と関わって生きていくことや、大切な誰かを失った人のことを描いている「フリーレン」もそうですし、「星霜の心理士」も現実世界に通じる話だから、自分とも重ねて自然に読めました。

ぞう 僕はヤンマガWebの「あずさ荘の食卓」がよかったです。殺し屋の候補生4人が一軒家に集められて、殺し合って生き残る1人を決める話なんですが、緊張感と緩和というか、合間に入るシュールなギャグがうまいんですよ。この殺し合い自体は彼らを管理する組織が仕組んだもので、なぜか半年の期限があったり、「半年後に4人がいる町が消滅する」というセリフが出てきたり、少しミステリーっぽい要素もあります。

くま それまで人間として扱われてこなかった4人が、徐々に自分の好きなことに目覚めていくのが面白いですよね。

うさぎ 安直な例えだけど、「ファブル」的な面白さを感じました。ファブルが4人いるみたいな。

くろねこ ヤンマガは本誌もWebも、裏社会とかアウトロー系の連載が半分以上はあると思うんですけど、どの作品にも共通する雰囲気みたいなのがあるなと思っていて。似てるかどうかというよりは、こうして雑誌のカラーって受け継がれていくんだなと思いました。

「GALS!」の藤井みほながココハナに、VTuberの赤見かるびの新連載

くろねこ あと今月の注目作品としては、「GALS!」藤井みほなさんの新連載「淑女の条件」がココハナ(集英社)で始まりましたね。いい意味で絵柄とかも当時と変わらなくてかわいいし、懐かしい気持ちになりました。

ねずみ いや、でも扉ページを見てください。主人公の口がチュンってしてるじゃないですか。藤井さんのこれまでの作品って、表紙とか扉絵だとキャラクターがだいたい三角形のおっきな口で笑ってるんですよ。だからココハナ仕様に意識して絵柄も変えてきてるんじゃないかなと思うんです。

くま おお、確かに。扉ページだけ見たら藤井さんだってわかんないかも。

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ねずみ そうなんですよ。それがすごく新鮮で。お話はブライダル業界を舞台にした29歳の女性CEOが主人公で、やたらとスタイルのいいハイスペイケメンが序盤から2人も出てくる。煌びやかな世界観で、波瀾万丈になりそうなところがなんか韓国ドラマっぽいんですよね。私の中ではもうキャスティングもできてます(笑)。大御所の作家さんが昔と変わらないエネルギーでこんなに明るい作品を描いてくれると、読んでいるこちらも元気をもらえる気がしますね。

うさぎ それこそ「ひとごとごと」とか「復讐が足りない」とかは令和のマンガって感じだけど、「淑女の条件」は今風にアップデートされていつつも、平成のマンガのような勢いが感じられて、これはこれでよかった。

くろねこ あと話題作というと「かるび、もまれる。」ですかね。VTuberの赤見かるびさんを、赤坂アカさんとしろまんたさんがコミカライズするということで、記事もかなり読まれました。

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ぞう これまでのVTuberのマンガって、基本的には活動を宣伝するような作品がほとんどでしたけど、「かるび、もまれる。」は赤見かるびさんのファン以外からも反響がありそうですよね。VTuberのキャラクター原案・設定を担当したことのある赤坂さんと、VTuber好きのしろまんたさんだから、これまでと違うVTuberマンガになりそうだなと期待してます。

テンポ感がよく読者を飽きさせない、ろびこの新作読み切り「夕闇とかたわれ」

くろねこ 新連載ではないんですが、ろびこさんの読み切り「夕闇とかたわれ」の話をしてもいいですかね。私、それほどろびこさんの作品に詳しいわけではないんですが、「夕闇とかたわれ」がびっくりするぐらい面白くて。それをろびこさん好きのりすさんに言ったら、「よくある話だった」って言われて、それにもびっくりしたんですけど(笑)。

りす いや、僕がよくある話って言ったのは、「死にたいサラリーマンを助けたのが吸血鬼の女の子で、実はサラリーマンが裏社会の人で~~」みたいにあらすじだけ抜き出してみると、マンガとしてはよくある設定って意味です。それを面白く描けるのがろびこさんってことですね。

くろねこ なるほど。確かによくある話ではあるけど、なんでこんなに引き込まれるんだろうか……。ほかの人がどう思ったのか聞いてみたいです。

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りす ろびこさんは会話劇が上手な作家さんで、インパクトが強い言葉や珍しい言葉を使うわけじゃないんだけど、キャッチーな会話を作るのがうまいんですよ。

うさぎ テンポ感がよくて読者を飽きさせない、お手本のような読み切りだと思いました。この面白さを言語化するなら、ポイントは「2ページに1回は必ず“ヒキ”が用意されている」という構造にあるんじゃないかな。冒頭から「私、吸血鬼なんです」っていう設定で引き込んで、次第に借金や借金取りの話になり、サラリーマンに迫るところではほんのりお色気の雰囲気も見せて、でもそれもすぐにひっくり返してしまう。いい意味で読者を裏切って進みつつ、そのやり取りを追ううちに、どんどんキャラクターが魅力的に見えてくる。

くろねこ セリフにわざとらしさがないんですよね。ちゃんとキャラクターが自分の言葉をしゃべってるというか。それがキャラクターを作る力ってことなのか……。これ連載になりますかね? 読み切りとして終わるのもきれいですけど、2人がかわいいので、普通に続きを読みたい気持ちもある。

ぞう 「夕闇とかたわれ」は本誌のほかに海外向けに作ったヤングマガジンUSAに載っていて、読者投票の上位5作品は連載化するそうなので、連載になるかもしれませんね。

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