台湾のクリエイターを対象にした「2025 国際縦読みコミックコンテスト」の結果が発表された。同コミックコンテストは楽天グループ、台湾コンテンツの海外発信を支援する独立行政法人の台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)、Webtoonプロダクション・Contents Lab. Blue TOKYOが共同で主催している。
コミックナタリーはコンテストの審査に携わった楽天グループの高橋宙生氏、TAICCAの王敏惠氏、Contents Lab. Blue TOKYO花宮麻衣氏と、特別審査員を務めた松井玲奈による座談会を実施。「2025 国際縦読みコミックコンテスト」が生まれた経緯にはじまり、台湾のマンガ文化の現状や日本との共通点、相違点、このコンテストが見据える未来までを語ってもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / ヨシダヤスシ
電子書籍市場が拡大傾向にある台湾市場において、優れたクリエイターを発掘し、日台共同制作による国際的な作品を創出することを目的としたコミックコンテスト。18歳以上の台湾クリエイターを対象に2025年6月20日から8月24日まで作品募集が行われ、銀賞、特別審査員賞、読者人気賞、佳作の計4つの賞に6作品が輝いた。
銀賞、特別審査員賞、読者人気賞の受賞作は台湾と日本での連載が決定しており、日本での連載は楽天のデジタルコミック配信サービス・R-TOONほかで行われる。
「2025 国際縦読みコミックコンテスト」受賞作
銀賞
- 金勻「地獄有事(地獄で何かが起こっている)」
- Udalin「一分為惡(悪に1ポイント)」
特別審査員賞
- 竹川獅「紙紮人(紙で縫い合わせた人形)」
読者人気賞
- 金勻「地獄有事(地獄で何かが起こっている)」
佳作
- 楊白「屍眼(死体の目)」
- 白大與哈鴿「獸夢旅人(ビーストドリームトラベラー)」
- 芽露「這才不是乙女GAME(これは乙女ゲームではありません)」
座談会
「国際縦読みコミックコンテスト」はどうして生まれた?
松井玲奈 このコンテストが開催されることを最初に伺ったとき、まず一番に「すごく面白いな」と思いました。私は台湾のマンガ文化にはこれまであまり触れてきていなかったのですが、台湾という土地はもともと大好きなので、そんな台湾の知らない文化に触れられる喜びが大きかったです。
花宮麻衣(Contents Lab. Blue TOKYO) そう言っていただけてうれしいです。そもそもの始まりは、私が台湾のクリエイターさんの能力の高さに感銘を受けたことでした。私は10年ほど前から台湾のマンガに触れてきているんですが、皆さん絵もうまいし、色彩のセンスもすごくいい。お話の作り方もすごく上手で。
松井 わかります! それは私も今回すごく感じました。
花宮 その中で、2、3年ほど前からTAICCA(独立行政法人台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー)さんとも交流を持たせていただいていまして。2025年の2月に、TAICCA主催の「日台ウェブトゥーン交流会」で若い台湾作家さんたちの作品を拝見したときに、彼らが持つ可能性の大きさを改めて実感したんです。
王敏惠(TAICCA) TAICCAでは韓国のBIPA(釜山情報産業振興院)と協力して、優秀なクリエイターさんに縦読みコミック制作のノウハウを教える講義を行っていました。今花宮さんがおっしゃった交流会で、その成果発表の場を設けたんですよね。
花宮 そのときに「もっと台湾の才能を積極的に発掘したい」と思い、私のほうからTAICCAに日台合同コンテストの開催を打診させていただいたところ、「それなら楽天さんも一緒にぜひ」と返答をいただきまして。それで3社合同での開催に至りました。
高橋宙生(楽天グループ) 楽天では、TAICCAさんと一緒に日本と台湾の間でコンテンツ……とくにコミックコンテンツを発掘し、普及させる取り組みをちょうど始めていたところだったんです。そのタイミングでお声がけいただいたので、それはぜひやろうと。日本のマンガを読んで育った台湾のクリエイターの方々が、台湾の文化と感性を携えて新たなコンテンツを生み出し世界に発信していく、というのはとても可能性のあることだと思います。
台湾のマンガ産業は発展途上の段階
松井 以前台湾へ旅行に行ったとき、書店にたくさんのコミックスが置かれているのを見ました。その中には日本のマンガが翻訳されたものもあって、マンガというカルチャーが根づいているんだなというのは感じました。
王 おっしゃる通り、台湾の人々は日本のマンガが大好きです。しかし台湾のマンガ産業は、日本や韓国に比べると発展途上の段階にあって。日本のように世界中で人気になった作品はまだ存在しませんが、だからこそ日本の皆さんとの協力関係を築き、影響力のある素敵な作品を作っていきたいと考えているんです。その足がかりになり得るこのコンテストが誕生したことは、とても意義深いことですね。
花宮 日本では「マンガ家になってヒット作が出れば億万長者になれる」というイメージを誰もが持っていますが、台湾にはまだそういうストーリーがありません。今後、世界中で読まれるような作品が台湾からも生まれてくれば「マンガ家になりたい」と考える若者が増え、さらに加速度的に発展していくのではないかと思っています。
高橋 中国語に翻訳された日本のマンガに親しんで育ち、「自分でも描いてみよう」と絵を描き始める人は現状でも多いと思います。ただ、台湾ではマンガ雑誌も少なくなってきていていざ作品を作っても発表する場がなかったんですね。そこで、TAICCAさんもやられていますけども、インターネット上に投稿サイトが生まれ始めている。そこに今回のようなコンテストも加わることで、「じゃあこの機会に何か描いてみよう」となる流れができたらいいなと。
花宮 問題は、日本で言う集英社や小学館、講談社のような大きなマンガ雑誌を持つ出版社が台湾には存在しないので、マンガ編集者の能力も日本ほど成熟していないんです。
松井 ああー、なるほど! その違いは大きそうですね。
花宮 そのぶん作家さんたちは自由な発想で好きなものを描くことができているのですが、商業的な視点が不足しているように感じています。本コンテストで連載を勝ち取った作家さんには弊社のほうで担当編集をつけますので、そのようにして1つずつ課題をクリアしていきたいです。
王 TAICCAとしてはそうしたクリエイターさんたちをサポートし、優秀な作品を安定したペースで創作していける環境を整備したいと考えています。マンガに強い愛を持っている若者は多いですから、マンガを産業として成り立たせて「マンガ家は夢のある職業だ」と思ってもらえる社会にすることで、さらに優秀な人材が集まってくるようになるのではないかと。
高橋 その際に、紙でマンガを出そうと思ったらコストがかかります。そこで電子の、しかも読みやすい縦読みのフォーマットが発展普及することがキーになってくるのかなと。
松井 確かに……最近は日本でも、電車の中などで縦読みコミックを読んでいる方をよく見かけるようになりましたよね。自分自身はこれまであまり縦読みには触れてこなかったのですが、今回このコンテストの審査に関わらせていただいて、「こんなに可能性を秘めたフォーマットなのか」と感じたんです。コマの使い方も自由度が高く、紙ではできない実験的な表現もできる。もしかしたら今後、アニメーション以上にダイナミックな表現が手のひらの中だけでできてしまうのかもしれないなと感じました。
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台湾と日本はお互いにお互いの文化を楽しめる素地がある



