アニメスタジオクロニクル No.16 スタジオコロリド 金苗将宏

アニメスタジオクロニクル No.16 [バックナンバー]

スタジオコロリド 金苗将宏(代表取締役 / プロデューサー)

多様な価値観のクリエイティブが集まってチャレンジできるスタジオに

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多様な作品ながらにじみ出る“コロリドらしさ”

長編映画をメインとするスタジオコロリドだが、「薄明の翼」のようなWebアニメやCMを現在に至るまで作り続けている。同社にとってそれらの仕事はどんな存在なのだろうか。

「うちは映像作家気質のあるクリエイターさんが多くて、みんなチャレンジしたがっているんです。ただいきなり長編映画で監督とかキャラクターデザインのデビューというのはさすがにハードルが高い。だからCMや短尺のアニメの仕事ではそうした、才能はあるけどまだディレクション側の仕事ができていない人にチャレンジしてもらうことが多いです。それに映像表現も短尺のほうが挑戦しやすいので、そこで得られた手応えを長編にフィードバックさせられるというメリットもあります

パズドラTVCM「転校生」篇(30秒)webオリジナル版

例えば新井陽次郎さんは長編のキャラクターデザインでも活躍してくれましたけど、瑞々しい映像表現のレベルが高く、『パズル&ドラゴンズ』のCMも評価いただきました。ほかにも山下清悟さんもそうですし、デザインや作画監督で活躍されている加藤ふみさん、刈谷仁美さん、美術監督の稲葉邦彦さんや宍戸太一さんなど一線級の方々と一緒にお仕事するきっかけになったのも短尺のアニメからが多いです。ありがたいことに評価していただけているのと新しい才能の気付きや出会いもあるので、本当はCMの仕事も積極的にやりたいんですけど、どうしても長編の作業の隙間でやらざるを得ないので、オファーをすべて請けるのは難しい。でもタイミングよくお請けできるときは、そういう新しい才能の挑戦も兼ねて制作させてもらっています」

尺、ジャンル、媒体。種々様々な作品を作っているスタジオコロリドだが、アニメファンならそれらにどこか似た雰囲気を感じているのではないだろうか。

金苗将宏氏

金苗将宏氏

「“コロリドらしさ”はめちゃくちゃ意識しています。主に映像トンマナの話で物語性やキャラクター性とはまた違うんですけど、例えば色味なんかは制作内でその“らしさ”をちゃんと言語化しています。そうしたコロリドらしさを生み出すための要素を資料化してスタッフと共有しているので、どの作品からもなんとなく“らしさ”を感じられる映像に仕上がっているのではないかと。

あとコロリドは映像や画に対して意識が高いスタッフが多いので、作品ごとにメインスタッフは異なるものの同じ資料を参考にしたりして意図せず映像のビジョンが似てくるところもあります。それで作品に幅はありながらも、結果的に共通している部分が生まれているのかもしれません」

より“色彩豊か”なオリジナル作品を生み出していきたい

連綿と受け継がれてきたスタジオコロリドらしさが凝縮されたのが、2024年5月24日に劇場やNetflixで公開された「好きでも嫌いなあまのじゃく」だ。

「今回、コロリドの得意とする王道のボーイミーツガール作品に、ファンタジー要素を加えた真骨頂とも言える作品に正面から取り組みました。監督は『泣きたい私は猫をかぶる』で佐藤順一さんと共同監督を務めた柴山智隆さんにお願いしました。柴山さんは作品内のファンタジー的な世界観の構築に長けており、その才能を活かして見応えのあるシーンを多数創出することができました。本作は幅広い層に親しみやすい作品でありながら、童話的な雰囲気の中でテーマをしっかりと表現できていると感じています。

「好きでも嫌いなあまのじゃく」キービジュアル

「好きでも嫌いなあまのじゃく」キービジュアル

今は『薄明の翼』の山下監督や『BURN THE WITCH』の川野監督のオリジナル企画の2本を制作中で、今までのコロリドの文脈からすると多少変化球と捉えられる側面もあるかもですが、どちらも新たな価値観で作っている作品です。これらが発表されたら、スタジオコロリドの作品の幅もより豊かに広がるんじゃないでしょうか。大げさではなく、この2つの新作でうちにとって新しい扉が開くと本気で思っています」

「BURN THE WITCH #0.8」キービジュアル

「BURN THE WITCH #0.8」キービジュアル

新たな扉が開かれるというスタジオコロリド。同社の現状と今後について改めて聞くと、金苗氏の言葉からは「今後もオリジナル作品を作るスタジオでありたい」という言葉に続いて「うちはまだまだ1年生」という意外な言葉が飛び出た。

「スタジオとして10年以上経験を積んで、制作進行もクリエイターも個々人のスキルアップはもちろん、各セクションに有能でプロフェッショナルなスタッフが多く、生産力も年々着実に向上しているのは実感としてあります。ただオリジナル企画で勝負することを大方針として掲げているスタジオとしての経験値は、まだまだ全然1年生というか。0から1を生み出すという作業はとてつもなく難易度が高く、特異な創造性を要するため毎回完成に至るまでさまざまな壁にぶつかっています(笑)。毎度課題が生まれて、そういう意味で制作スタジオとして知見や知識がまだ体系化されていないのも事実です。それに歴史に残るような大ヒット作の実績をもつ監督やスタジオがあって、経験豊富なレジェンドクラスの方々と同じ土俵で勝負するわけですから、越えるべきハードルは山ほどあります。それを乗り越えて、より多くのお客さんに喜んでいただき後世に残るような作品を、毎回確信を持って世に送り出せるようになりたいですね。

金苗将宏氏

金苗将宏氏

そのために、築き上げたコロリドのトーンやマナーを継承しつつ、新たな表現への挑戦をしたいという段階に入っています。自分の癖として極端な偏りを避けたいという思いがあって、どこかでバランスをとりたくなる。多様なクリエイティブの価値観があっていいし、先人たちに敬意を払いつつ、ときに創造的破壊というか固定観念や慣例にとらわれすぎずに、いろんな方々と組んで作品制作してみたいという欲求があります。社内でともに成長してきたスタッフが監督を務める未来も想像していますし、同時にこれから出会う新たな才能とともにコロリドでチャレンジしたい方がいたら一緒に仕事していきたいです。

そもそも『コロリド』というのはポルトガル語で“色彩豊か”という意味で。当初は映像に対する思いを込めて付けられた社名だと思いますけど、今はいろんな価値観のクリエイターや制作人がコロリドに集まって、チャレンジできる場所でありたいと思っています。会社として安定した経営を行うためビジネスとしても成功させたいというのは前提としてありますけど。そしてディズニーやピクサーではないですが、『スタジコロリドの作品だったら観たい』と言ってくれるようなスタジオのファンを増やしたいです」

金苗将宏(カンナエマサヒロ)

1982年1月28日生まれ、東京都出身。スタジオコロリド代表取締役。2003年にアニメーション業界に入り、タツノコプロでの制作経験を経て2015年スタジオコロリドに入社。「台風のノルダ」「ペンギン・ハイウェイ」「雨を告げる漂流団地」「泣きたい私は猫をかぶる」「好きでも嫌いなあまのじゃく」などを手がける。

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ジブリまみれ @ghiblimamire

《アニメスタジオクロニクル No.16》
スタジオコロリド 金苗将宏(代表取締役 / プロデューサー)
コロリドの歴史から、「ペンギン・ハイウェイ」と「薄明の翼」で迎えた転機、そしてスタジオが掲げる未来図まで語ってもらった
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