三谷幸喜と松本幸四郎が強い信頼関係で生み出す三谷かぶき「歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン) 幕を閉めるな」11月は歌舞伎座で会いましょう (2/2)

ハプニングの先に、伝説の舞台が生まれる

──せっかく劇作家の方にお話を聞ける機会なので……「ショウ・マスト・ゴー・オン」という伝説の作品が、どんな経緯で生まれた作品なのかもお話いただけますか?

三谷 最初は東京サンシャインボーイズで1991年に上演しました。同じころ、前年に上演した「12人の優しい日本人」が映画化(中原俊監督)されることが決まって、劇団のメインだった相島一之と梶原善が撮影にかなりの時間を取られることになった。つまり劇団公演のほうは、西村雅彦単独主演の作品を作ることになったんですね。そこからの発想で「舞台監督が主人公のお芝居をやろう」と決めた流れが一つ。あとかつて黒澤明監督が書いた「暴走機関車」というシナリオがあって、これはそのままお蔵入りとなった脚本なんです。後にハリウッドで映画化はされますが(アンドレイ・コンチャロフスキーが監督)幻の台本と言われていて、暴走する機関車をどうやって止めるか?という1点で展開する話。当時そのシナリオに感銘を受けて、ショウ・マスト・ゴー・オン(一度開いた幕は何があっても、途中で降ろしてはいけない)の物語に仕立てていきました。

三谷幸喜

三谷幸喜

──暴走機関車を舞台裏の物語に重ねるなんて、すごい発想です……。でも確かに舞台には、いろいろなハプニングがありますよね。

三谷 僕が今でも鮮烈に覚えている信じられない光景は、学生のとき。サンシャイン劇場で芝居を観ていたら、主演の役者さんが……もう誰が見ても明らかに下手なんですよ。僕も「下手だな、この人」と思いながら大人しく観ていたのですが、後ろに座っていた男性がついに我慢できなくなったのか「下手くそーー!!」と叫び始めたことがあって。

幸四郎 それは壮絶ですね。

三谷 もう壮絶ですよ! しかもその役者が「じゃあお前がやってみろよ!」なんて言い返して騒然となっちゃって。

幸四郎 ええ、それはどうやって収まったんですか?

三谷 周囲が「まあまあ」と取りなして、どうにかことなきを得ました。役者さんの名前は絶対に言えないです!

──気になりますが……歌舞伎にもさまざまな“ハプニング”があるかと。

幸四郎 おじ(中村吉右衛門)の体調不良で、上演時間が2時間ある「沼津」の呉服屋十兵衛の代役を、開演1時間半前に勤めることになった瞬間は、やはり忘れられないですね(2019年9月の歌舞伎座)。しかも僕、初役でしたから。

三谷 その開演までの1時間半は、どう使ったんですか?

幸四郎 きっかけセリフ(相手に渡すセリフ、音響や場面転換などの合図となるセリフ)を頭に入れるのに必死でした。将来演じることを目標にしていた役の一つですから、「できません」とは決して言えませんでしたね。

松本幸四郎

松本幸四郎

──2022年版「ショウ・マスト・ゴー・オン」の上演では新型コロナウイルスなどの影響を受けてキャストが次々と休演となり、三谷さんが4度の代役を勤められました。“リアル・ショウ・マスト・ゴー・オン”と評判でしたね。

三谷 代役は最後の選択ですから、あまり自分の歴史に残したくないんですよ。もうただ必死なだけというか、大変でしたから。お客さんに対しては申し訳なさしかないです。

──そんな数々の舞台を経験してきた三谷さん、幸四郎さんですが、初めてご一緒したのは、松本白鸚さんが立ち上げた演劇企画集団シアター・ナインスの第1回公演「バイ・マイセルフ」(1997年)。約30年のお付き合いです。

三谷 なんかもう感無量ですよね。当時、幸四郎さんだった白鸚さんのポジションに染五郎さんだった幸四郎さんがいらっしゃって、今また若い染五郎さんがいて……。しかもまだ十代だった染五郎さんも前回に比べるとはるかに進化、成長されていて、それをこうやって見届けることができるなんて、本当にうれしいです。

幸四郎 僕にとっての三谷さんは、ずーっと変わらず、いつでもどこでもすごい作品を作ってくださる大きな存在です。毎回100%の信頼を寄せていますし、こちらの想定以上、必ず驚きと感動がある舞台を作り上げてくださる方。30年経ってもその信頼感は揺るぎません。今回のお芝居は幕が開いてから終幕までアクシデントの連続ですけれど、本当のアクシデントは起こさないよう(笑)、最後まで無事にがんばります!

左から松本幸四郎、三谷幸喜。
左から松本幸四郎、三谷幸喜。

左から松本幸四郎、三谷幸喜。

プロフィール

三谷幸喜(ミタニコウキ)

1961年、東京都生まれ。1983年、大学在学中に劇団東京サンシャインボーイズを結成、1994年に活動を休止、2024年に復活公演を行った。またテレビドラマの脚本家や映画監督としても活動。現在テレビドラマ「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるんだろう」が放送中。また来年1月から3月にかけて作・演出を手がけた「いのこりぐみ」、4月から5月にかけて新作ミュージカル「新宿発8時15分」が上演される。

松本幸四郎(マツモトコウシロウ)

1973年東京都生まれ。1979年に「俠客春雨傘」にて三代目松本金太郎を襲名して初舞台。1981年に「仮名手本忠臣蔵」七段目の大星力弥ほかで七代目市川染五郎を襲名。古典から復活狂言、新作歌舞伎まで幅広い演目に取り組む一方で劇団☆新感線の舞台やテレビドラマ、映画などにも出演し人気を博す。三谷幸喜とは2006年にPARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」、2019年に歌舞伎座にて三谷かぶき「月光露針路日本 風雲児たち」を生み出した。2018年に高麗屋三代襲名披露公演「壽 初春大歌舞伎」にて十代目松本幸四郎を襲名。12月14日に講演会「松本幸四郎が語る日本舞踊の世界」に出演。

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