“観劇はじめ”は歌舞伎座で! 坂東巳之助&中村米吉、尾上右近&中村壱太郎、中村隼人が語る「壽 初春大歌舞伎」

目まぐるしく変化していく日々、ふと非日常的な時間や空間に浸りたくなったら、“ゆるりと歌舞伎座で会いましょう”。2025年の“観劇はじめ”は、松竹創業百三十周年「壽 初春大歌舞伎」でぜひ。ステージナタリーでは、昼の部「寿曽我対面」より曽我五郎時致役の坂東巳之助、曽我十郎祐成役の中村米吉、夜の部「二人椀久」より椀屋久兵衛役の尾上右近、松山太夫役の中村壱太郎、そして人気の時代小説が原作の新作歌舞伎「大富豪同心」より八巻卯之吉 / 幸千代役の中村隼人にインタビューを実施。作品への思いを語ってもらった。

さまざまなアーティストやクリエイターに歌舞伎座での観劇体験をレポートしてもらう企画「歌舞伎座へ」には、フォトグラファー・着物インフルエンサーのさんかくが登場。「十二月大歌舞伎」第一部「あらしのよるに」を、作品とリンクした着物で観劇した。

編集・文 / 川添史子

「寿曽我対面」
坂東巳之助&中村米吉

鎌倉時代に実在した兄弟の仇討ち物語を、役者の“美しさ”を魅せる祝祭劇、様式美あふれる江戸歌舞伎として立ち上げる「寿曽我対面」で2025年は幕開き。血気盛んな曽我五郎に坂東巳之助、柔らかな物腰の曽我十郎に中村米吉が扮する。昨年まで共に奮闘した若手の登竜門「新春浅草歌舞伎」が一区切りし、今年の正月は歌舞伎座という大舞台で迎えることに。おめでたく華やいだ舞台から、1年分のエネルギーをもらえるような一幕となるだろう。

坂東巳之助

「寿曽我対面」(2021年11月、歌舞伎座)より、坂東巳之助扮する曽我五郎時致。©︎松竹

「寿曽我対面」(2021年11月、歌舞伎座)より、坂東巳之助扮する曽我五郎時致。©︎松竹

──演目としての魅力、注目ポイントを教えてください。

「お正月には曽我物を」というのが江戸時代からの伝統……と言うと重苦しくなってしまいますから、風習、御見物衆のお楽しみのようなものだったとお考えください。その曽我物の代表格がこの「対面」です。歌舞伎の見本市のような登場人物たちの姿形、キャラクターを楽しんでいただけたらと思います。

──今回演じる五郎は2021年に初役で演じられました。お役について教えてください。

五郎は父の仇討ちに燃える荒事の役ですので、仇である工藤に対する怒りを煮えたぎらせて、登場から幕切れまで燃え上がり続けています。その一本槍な感情が様式的な演出に包み込まれる。これが歌舞伎として昇華されることが大切なことでもあり、見どころでもあるかと思います。

──共演者、米吉さんへのメッセージをいただけますでしょうか。

11月の明治座「鎌倉三代記」に引き続き、僕をしっかり止めていただくようお願いいたします(笑)。

──2024年はどんな1年でしたか? 2025年はどんな1年にされたいですか?

2024年は「新春浅草歌舞伎」からのいったんの卒業に始まり、古典のなかでも時代から世話、新歌舞伎や復活狂言など歌舞伎座を中心にたくさん勉強させていただきました。2025年は年男でもあります。これまで応援してきてくださった皆さんはもちろん、巳年に巳之助のことをたくさんの方に知ってもらえるよう、さまざまなフィールドで活動させていただけたらと思っております。

プロフィール

坂東巳之助(バンドウミノスケ)

1989年生まれ。大和屋。十世坂東三津五郎の長男。1995年に二代目坂東巳之助を襲名し初舞台。2015年より日本舞踊坂東流家元となる。

中村米吉

「寿曽我対面」より、中村米吉扮する曽我十郎祐成。(撮影:岡本隆史)

「寿曽我対面」より、中村米吉扮する曽我十郎祐成。(撮影:岡本隆史)

──演目としての魅力、注目ポイントを教えてください。

江戸の昔から正月狂言として親しまれてきた“曽我物”の代表格で、歌舞伎の代表的な役柄がそろう一幕です。教科書のような作品に私たち世代が歌舞伎座で挑ませていただきます。とにかく縁起の良い物がちりばめられた祝祭のような作品ですので、新年の始まりにご覧いただくのに相応しい一幕です。

──初役への意気込みをお聞かせください。

「対面」の十郎をお正月の歌舞伎座で勤めさせていただけるとは思いもよらないことでした。これまで傾城として後ろから拝見してきましたが、荒事の五郎に対して、十郎は和事の役柄です。柔らかさと気品のような雰囲気を醸し出すことができたら。先輩たちが今日まで伝えてきた歌舞伎の代名詞的な芝居ですから、キッチリと勤めなくてはならないと思っています。

──共演者、巳之助さんへのメッセージを。

年男の巳之助兄さんと新年早々対面の曽我兄弟とは何と縁起がいいんでしょう! 精一杯止めさせていただきます!

──2024年はどんな1年でしたか? 2025年はどんな1年にされたいですか?

結婚という人生の大きな節目を迎え、家庭を持ってはじめての新年を迎えることとなりました。ありがたい大きな経験を糧に、ますます精進していき、へびー級の活躍ができるような1年にしたいと思います! あ、あとナタリーさんで連載中の「中村米吉の#カワイイは世界を救う?」もがんばりまーす。

プロフィール

中村米吉(ナカムラヨネキチ)

1993年、東京都生まれ。播磨屋。中村歌六の長男。2000年に中村米吉の名を襲名して初舞台。

「二人椀久」
尾上右近&中村壱太郎

遊女松山太夫に焦がれるあまり狂乱した若旦那椀屋久兵衛が、暗い夜道をさまよい歩くと、どこからともなく愛しい松山の幻が現れ……。うっとりとした夢の世界へ誘われる名作舞踊が、フレッシュな顔合わせで登場する。風情ある長唄の旋律、しっとりとした情緒からアップテンポの踊りという静と動、恋の苦しさと浮き浮きとした楽しさ──変化に富んだ同作にこの2人が挑むのは、右近の自主公演「第四回 研の會」(2018年)以来だ。その情熱的な舞台が話題となった令和のコンビによる、新たな“夢幻的狂乱舞踊”に期待しよう。

尾上右近

「二人椀久」より、尾上右近扮する椀屋久兵衛。(撮影:岡本隆史)

「二人椀久」より、尾上右近扮する椀屋久兵衛。(撮影:岡本隆史)

──「二人椀久」の注目ポイントを教えてください。

セリフが1つもない中で、音楽と舞台セットと照明、そして踊りだけで物語を紡いでいく。数ある舞踊作品の中でも舞踊劇としてここまで世界観に浸れる作品はほかに類を見ないところだと思います。

──演じるうえで大切になさりたいことを教えてください。

静けさ、激しさ、切なさ、色っぽさを大切に、お客様に感情移入していただけるように勤めたいです。

──共演者、壱太郎さんへのメッセージを。

同時代を生きる奇跡、この作品に対して同じ情熱を持ち合っている奇跡、自分たちの思いが歌舞伎座で実現したという奇跡。さまざまな奇跡を噛み締めながら、2人にしかつくれない「二人椀久」をつくりましょう!

──2024年はどんな1年でしたか? 2025年はどんな1年にされたいですか?

ありがたいことに、いろいろな挑戦をさせていただき非常に充実感のあった1年でした。中でも「四谷怪談」に出会えたことは一生の宝物です。今すぐにでも再演させていただきたいくらい大好きです。2025年こそは! 生きる意味にも等しい、「春興鏡獅子」をやらせていただきたいです!

プロフィール

尾上右近(オノエウコン)

1992年生まれ。音羽屋。清元延寿太夫の次男。曾祖父は六代目尾上菊五郎。2000年に初舞台。2005年に二代目尾上右近を襲名。また、2018年に清元栄寿太夫を襲名。

中村壱太郎

「二人椀久」より、中村壱太郎扮する松山太夫。(撮影:岡本隆史)

「二人椀久」より、中村壱太郎扮する松山太夫。(撮影:岡本隆史)

──「二人椀久」の注目ポイントを教えてください。

私が演じるのは幻として登場する松山太夫。右近くん演じる椀久と共に、「月と松と桜」というシンプルかつファンタジーな舞台空間の中、幻想的なカップル感を、究極に美しくお届けする演目です!

──演じるうえで大切になさりたいことを教えてください。

とにかく美しくありたい! 自前で拵えた「流水と桜」の打ち掛けも含めた衣裳、美意識にこだわった鬘など、考え抜いた拵えにもご注目ください。

──共演者、右近さんへのメッセージを。

とにかく愛しています! これまでも公私にわたりさまざまなことを共に乗り越え、助け合ってきた仲だからこそ、目に見えない力でつながることができていると思っています。「いつもありがとう、これからもよろしくね」。

──2024年はどんな1年でしたか? 2025年はどんな1年にされたいですか?

2024年は「激動と変革」の年でした、2025年は「静寂と安定」の年にしたいです! 難しいかもしれないけれど……心に思っているだけでも(笑)。

プロフィール

中村壱太郎(ナカムラカズタロウ)

1990年、東京都生まれ。成駒家。中村鴈治郎の長男。1995年に初代中村壱太郎を名乗り初舞台。2014年、吾妻徳陽として日本舞踊吾妻流七代目家元襲名。