第49回菊田一夫演劇賞の授賞式が、本日6月6日に東京都内で開催された。
菊田一夫演劇賞は、劇作家の菊田一夫による業績を伝えると共に、大衆演劇の舞台で優れた業績を示した芸術家を表彰する賞。第49回となる今回は既報の通り、藤田俊太郎が演出し、
“記号はいらない”勇気をくれた「ラグタイム」
「ラグタイム」は、さまざまな人種が暮らす20世紀初頭のアメリカを舞台にした作品。藤田演出の「ラグタイム」では、衣裳やダンスなどを通じて人種の違いが表され、高い舞台成果を上げたことが評価された。石丸は「稽古が始まったときは課題が山積みでしたが、皆様のアイデアや解釈のおかげで賞をいただけるほどに作品を練り上げられた」と稽古を振り返り、「四半世紀前にニューヨークで『ラグタイム』を観て衝撃を受け、『いつか日本でこの作品を』と思っていた。夢がかなってうれしい」と喜びをかみ締めた。
「アジア人だからこその表現でこの作品を届けられたことは誇り」と言う井上は「僕は初めて黒人の役を演じた。ビジュアル撮影では役をイメージしたカツラを被ったけど、舞台稽古のときに衣裳の前田文子さんから『芳雄ちゃん! いつもの髪のほうが良い!』とカツラを外すようすすめられ、本番はカツラなしになりました」とエピソードを語り、「僕はなんだかんだ『カツラがあるからこの役を演じられる』と安心材料にしていた。でも『“記号”はいらない。ふさわしい表現を探れば必ずお客様に届く』という自信と勇気を『ラグタイム』にもらいました。今後もこの作品が愛されることを願います」と言葉に力を込めた。
安蘭は「大きな賞と賞金をいただき、『どうやってみんなで賞金を分けよう』と思っています」とジョークを飛ばし、「素晴らしい作品に出会えた。キャスト、スタッフみんなの力で素敵な舞台を作り上げることができましたし、作品を愛してくれたお客様がたくさんいらっしゃることもうれしい」と感慨を述べた。
初めてのギター、日本語・英語・鹿児島弁の“3カ国語”…柿澤勇人が乗り越えた壁
柿澤は「スクールオブロック」のデューイ・フィン役、「オデッサ」の青年役を評価され、受賞に至った。柿澤は「スクールオブロック」でギターに初挑戦したことに触れて「夜中まで稽古場に残り、絶望しながらギターを練習した」と述懐。また「オデッサ」で柿澤は、日本語、英語、鹿児島弁の“3カ国語”に挑んだ。作・演出の三谷幸喜に「柿澤さん、大丈夫です。僕には(柿澤が見事にセリフを操る姿が)見えています!」と言葉をかけられたことに触れ、柿澤は「公演終了後に、なぜ“3カ国語”を話す設定にしたのか三谷さんに聞いたら『見切り発車』と言われ、『鬼だ』『何も見えてなかったじゃないか』と思いました」と笑いを誘い、「今後も壁に直面するはず。でも諦めず、誠実に、がむしゃらに精進したい」と思いを語った。
宮澤エマが言葉を大切に挑んだ「ラビット・ホール」「オデッサ」
「ラビット・ホール」のベッカ役、「オデッサ」の警部役の演技で受賞した宮澤は、アメリカ人の父、日本人の母を持ち、両親の方針でバイリンガル教育を受けてきた。宮澤は、約10年の舞台のキャリアで、英語の作品を日本語でやる難しさを強く感じ、このため翻訳劇である「ラビット・ホール」と、英語が話せない日本人旅行客、日本語が話せない警部、語学留学中の日本人が“男と女と通訳の会話バトル”を展開する「オデッサ」への出演にあたり、「二度と呼んでもらえなくなるとしても、言いたいことを言わせてもらおう」と決意していたという。宮澤は「『オデッサ』のセリフについて三谷さんにたくさん意見し、時にガチンコすぎて三谷さんが本気で怒っていた」「稽古が始まる数カ月前から『ラビット・ホール』の台本を読んだ。俳優の役割を超えていることを重々承知しながらプロデューサーと演出家に『リアルな口語でやりたい。セリフを見直させてほしい』と提案し、みんなで初日ギリギリまでセリフの検討を続けた」と2作を回顧する。最後に宮澤は「インターナショナルスクールを嫌がる私のお尻をたたいてくれた両親をはじめ、家族やみんなの支えがなければ私はこの場に立っていません。この先も言葉を大切にお芝居したい」と結んだ。
母の教えを胸に挑み続ける三浦宏規は「死ぬその日まで舞台に立っていたい」
三浦は「のだめカンタービレ」の千秋真一役、「赤と黒」のジュリアン・ソレル役、「千と千尋の神隠し」のハク役の演技が評価された。三浦は「日本初演や新作の公演で賞をいただけてうれしい」と言い、「5歳からクラシックバレエを習っていましたが、ケガで将来に迷っていた頃に演劇と出会い、『この世界に進みたい』と思いました」「バレエをやっていた頃から、母に“家訓”として『人が習い事でやるようなことで食べていくのは、人並みの努力では難しい』と言われてきた。この教えを胸にがんばってきた」と家族への感謝を口にする。また三浦は「僕、このあと(東京・シアタークリエで上演中の)『ナビレラ』の昼公演があって(笑)。1人ひとりにごあいさつできませんが、皆さんにこの場でお礼を言いたい」と改めて謝辞を述べ、「僕には、死ぬその日まで舞台に立っていたいという夢がある。その場を作っていけるよう、これからも精進したい」と晴れやかな表情を見せた。
ウォーリー木下は“好きだからやる”!賞金の使い道は…
ウォーリーは「約30年前、関西の小劇場で自分の劇団を旗揚げして以来、『楽しいからやろう』と演劇を続けられたのは、多くの人が助けてくれたおかげ」と感謝を口にする。「チャーリーとチョコレート工場」「町田くんの世界」の演出を評価されたことについて、ウォーリーは「共通点は、どちらも『好き』という気持ちを肯定してくれる作品であること」と話し、「好きなことは必ずしもお金になるわけではなく、“好き”という言葉に相反するつらさを感じていた。でも今は“好きだからやる”ことを好意的に捉えています」と胸の内を語る。さらにウォーリーは「家族で相談していた賞金の使い道が、昨日ようやく決まりました。子犬を飼います。菊田一夫さんに顔が似ているから名前は“キクちゃん”かな。うちに来る人はぜひかわいがって」と破顔一笑し、会場を和ませた。
芸歴60年、“6年生”の前田美波里が語る菊田一夫との思い出
永年のミュージカルの舞台における功績により菊田一夫演劇賞特別賞に選ばれた前田は、15歳で菊田に見いだされた。バレエダンサーを志して上京した前田はあるとき、「これからはハーフの人がミュージカルで活躍する」という趣旨の菊田のエッセイを読んだ当時のマネージャーにより、菊田に引き合わされたという。菊田に名前を聞かれて答えたところ、前田は「声が小さい。舞台人になるなら大きな声で言え!」「芸能人みたいな名前だな」と言われたと懐かしそうに目を細める。さらに前田は「菊田先生は『舞台は10年やって1年生』とおっしゃった。私は芸歴60年でやっと6年生。だから皆さん、私はもう少し舞台の上で生きたいと思うんです。せめてあと20年。私も舞台の上で死ねたらと思います。よぼよぼだって良いじゃありませんか!」と快活に笑い、「菊田先生、本当にありがとうございます。うれしい賞をいただきました」と、壇上に飾られた菊田の写真に一礼した。
第49回菊田一夫演劇賞発表
菊田一夫演劇大賞
- 「ラグタイム」上演関係者一同(「ラグタイム」の高い舞台成果に対して)
菊田一夫演劇賞
柿澤勇人(「スクールオブロック」のデューイ・フィン役、「オデッサ」の青年役の演技に対して) 宮澤エマ(「ラビット・ホール」のベッカ役、「オデッサ」の警部役の演技に対して) 三浦宏規(「のだめカンタービレ」の千秋真一役、「赤と黒」のジュリアン・ソレル役、「千と千尋の神隠し」のハク役の演技に対して) ウォーリー木下(「チャーリーとチョコレート工場」「町田くんの世界」の演出の成果に対して)
菊田一夫演劇賞特別賞
前田美波里(永年のミュージカルの舞台における功績に対して)
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ウォーリー木下 @worry_kino
マネージャーに「ギリです」と言われたコメントが載ってる。ワン。 https://t.co/DKeBZ988Je