明日6月5日からVimeoにて有料生配信される
「煙草の害について」は、
劇中では、柄本演じるくたびれた初老の男が、妻に命じられ、煙草の害にまつわる講演を行う物語が描かれる。初めは仕方がなく煙草の有害性について語る男だったが、話は次第に妻への文句や娘の話など、思わぬ方向に逸れていき……。
ところどころ抜け落ちた歯に長い頬ひげ、そしてツギハギだらけのチョッキに燕尾服を羽織った柄本が舞台上に登場し、垂れ下がった幕を上げると、いびつな演説台が中央に置かれた、大きな窓のある部屋が現れる。窓の奥には、坂道や教会が見える外の景色が簡易的に描かれており、その場所が一体どこなのか、観る者の想像力を掻き立てた。
柄本は老いへの悲哀や小汚さを強調しつつ、男をエキセントリックでおかしみ溢れる人物として演じる。朗々とした語り口から一転、突然同じワードを何度も繰り返したかと思えば、軽妙な口調で聴衆に語りかけ始めるなど、緩急のある芝居でテキストを巧みに立ち上げていく。また男が吐き気を催すシーンや、喘息の発作を起こすシーンではリアルな身体表現で観客の不安を煽り、発作を気合で止めようと、自らの胸を激しく打ちながら「意志で止める!」と叫び歩き回る姿には、男の切実さと滑稽さを滲ませた。
取材会で柄本は、配信上演のきっかけは劇場からのオファーだったと語り、「断る理由がなかった。役者という仕事であることには変わりはないので、(オンラインでの配信上演に対し)“挑戦”という気持ちも特にないですね」とコメント。無観客での上演については「違和感はあります。でも、厳密に言えばお客さんがいないというわけではない。劇場にはスタッフもいますから」と話す。
また、配信での上演作に「煙草の害について」を選んだ理由を「僕ができる一人芝居が2つしかなくて、そのうちの1つを選んだだけです(笑)」と明かしつつ、「もともとは20分ほどの短い戯曲なのですが、そこにチェーホフのほかの作品からの引用や、さまざまなアレンジを加えて、1時間ちょっとの作品にしました。いつも上演しながら、チェーホフに申し訳ない気持ちです(笑)」と冗談交じりに述べ、報道陣の笑いを誘った。
コロナ禍で、芸術文化が“不要不急”と認識されてしまいがちな風潮について記者から考えを問われると、「ご飯とは違うから、食べなくても生きていける人はいるかもしれない。でも芸術文化や、娯楽が死ぬということは、人間の死と同義語。絶対に必要だと思います」と述べる。オンラインでの配信をきっかけに、演劇に興味を持つ層が増えるのではという記者からの言葉には、「興味を持っていただいたら、劇場再開後、実際に足を運んでいただきたいですね。僕はやっぱり、お芝居の本来の面白さって“劇場に来る”ということだと思うので。配信を通して、少しでも劇場の空気を届けられればいいな」と微笑んだ。
上演時間は約1時間で、生配信は6月5・6日に実施される。視聴チケットの購入方法は浅草九劇の公式サイトで確認しよう。
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