辞典とは、言葉や漢字を集め、一定の順序に並べ、その読み方・意味・語源・用例などを解説した書(「広辞苑」より)。1960年代に小劇場と呼ばれる演劇シーンが立ち上がってから約半世紀超、小劇場を愛する演劇人や観客たちが独自の文化を形成してきた。「東葛スポーツ・金山寿甲の小劇場用語裏辞典」では、小劇場で使用されるさまざまな演劇用語を、岸田國士戯曲賞受賞作家の
まえがき
演劇には演劇用語がある。医学には医学用語があり、数学には数学用語があり、哲学には哲学用語があるのと同様である。そして、医学を怪しむためには医学用語を、数学をせんさくするためには数学用語を、哲学をもてあそぶためには哲学用語を知っておいた方がいいように、演劇とおつきあいするためには演劇用語を知っておいた方がいい。
……というまえがきから始まるのは2003年に出版された別役実著「うらよみ演劇用語辞典」です。小劇場には小劇場用語があります。小劇場とおつきあいするためには小劇場用語を知っておいた方がいいですし、知っておいていただくことで望まないおつきあいをしなくても済むのかと思います。
索引「自由席 / エンジン・円陣 / 入り」
・自由席(じゆうせき)
「自由席というから好きな席に座ったのに、スタッフに奥から座れと言われた」というクレームを小劇場界隈のX(旧Twitter)でしばしば見かけます。“自由”という言葉を辞書で引いてみてください。「自由:誰も守ってくれない状態」(筒井康隆著「現代語裏辞典」より)と出ます。そうなんです。自由席とは誰も守ってくれない席なのです。開場前から並んで最前席の特等席を確保しても、開演時刻間近になって急に自分の前に桟敷席が出されるのが自由席なのです。確かにスタッフのお客さんに対する声掛けの良し悪しというのはあるでしょう。しかし、小劇場の会場整理のスタッフの方々にそこまでを要求するのはあまりにも酷です。彼らはほとんど無償であの損な役回りを買って出てくれているのです。お目当ての劇団の当日制作を手伝ってお近づきになって、いつかは自分も出演者として舞台の上から客席を観たい、という役者さんが担っているケースがほとんどなのです。いろいろと至らない点はあるかと思いますが、お客さまにおかれましてはぜひとも会場整理のスタッフに温かい眼差しを注いでいただけましたら幸いです。ちなみに、私が主宰しております東葛スポーツでは、当日制作の方々には1日3000円を、昼夜公演2ステのWですと5000円(お弁当付き)をお支払いさせていただいております。
・エンジン・円陣(えんじん)
車の動力を発生させるのがエンジンなら、演劇の動力を発生させるのは円陣です。前に言われたことがあります。「金山さん、開演前に役者さんたちが円陣を組んでるの知ってましたか? そういう人たちのがんばりのおかげで金山さんの演劇が成り立ってるんですよ」と。しかも、「金山さんって円陣とかそういうの嫌いそうだから、こっそりとやってるんです」とまで。僕は本当に素晴らしい座組に恵まれているなあとつくづく思います。排気量を小さくし、燃費や排出ガスを抑えるといったエンジンのダウンサイジング化が加速する現代において、演劇もいかに小さい円陣からエネルギーを出力してターボ過給し、増幅させステージで走らせるか。僕は、「みんなで円陣を組んでから出てきました!」と一見してわかるV型12気筒演劇はうるさくて苦手です。
・入り(いり)
巨人軍のしきたりに、集合時間の30分前には集合していなければならないジャイアンツタイムというものがあります。遅刻魔とされていた松井秀喜も本来の集合時間の5分前には到着しているものの、30分前集合のジャイアンツタイムで測ると遅刻扱いとなるわけです。演劇では集合時間を“入り”で表します。「明日は14時入りでお願いします」とだけ座組のグループラインに流してみると、客演俳優さんそれぞれの“入り”に対する尺度が見て取れます。14時までに、着替え・ストレッチ・発声・セリフ確認・軽食を済ますまでを逆算して会場入りする俳優さんから、額面通り14時に姿を現す俳優さんまでさまざまです。時間軸で表すとおよそこのようになるでしょうか。大所帯の老舗劇団所属→日芸・桜美林出身劇団所属→美大系劇団所属(個人差あり)→お笑い要素強めのユニット系所属(東葛スポーツ調べ)。終演後の解散となりますとこの順番が逆になります。
金山寿甲 プロフィール
脚本家・演出家。演劇ユニット・東葛スポーツ主宰。ラップやサンプリングなどヒップホップからの影響と、俳優が本人役で出演するなどリアルとフィクションが交錯する作風が特徴。2023年、「パチンコ(上)」で第67回岸田國士戯曲賞を受賞した。
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板橋駿谷 @shunya_itabashi
これ、オモロいなぁー🤣
金山さん、最高ですわ!! https://t.co/tHKWoUzwBL