脚本家・笠原和夫が戦史を通した“日本人論”をつづった書籍発売

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「仁義なき戦い」シリーズや「二百三高地」「大日本帝国」などで知られる脚本家・笠原和夫の書籍「笠原和夫 日本人の戦争 ─戦争映画ノート」が、本日12月8日に発売された。

「笠原和夫 日本人の戦争 ─戦争映画ノート」書影

「笠原和夫 日本人の戦争 ─戦争映画ノート」書影 [高画質で見る]

笠原和夫 日本人の戦争 戦争映画ノート

笠原和夫 日本人の戦争 戦争映画ノート
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本書は、笠原が戦争についてつづった書籍未収録原稿を1冊に編集したもの。彼は過去の戦争を通した“日本人論”を書き記し、“新たな戦前”と来たるべき戦争の行方を占った。解説は作家・元外務省主任分析官の佐藤優が担い、付録として荒井晴彦、尾原和久との鼎談も掲載されている。書籍情報の詳細は以下の通り。あわせて「戦争ドラマの勧め」と題した序文の前半を後掲した。

笠原和夫

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「笠原和夫 日本人の戦争 ─戦争映画ノート」書籍情報

発売日:2025年12月8日(月)
価格:税込3520円
ページ数:424

内容

日露戦争開戦 司令官・大山巌
旅順要塞攻略戦
旅順攻防150日 映画「二百三高地」シナリオ構成メモより
武器なき戦い
苦渋の宣戦布告と「忠臣」東条英機
ミッドウェー海戦
ソロモン攻防戦
山本五十六元帥の死
「強将」宮崎繁三郎と「インパール」
吉田茂「日本分割」を防いだ知られざる苦心惨憺
付録:鼎談 笠原和夫 × 荒井晴彦 × 尾原和久

序文「戦争ドラマの勧め──笠原和夫」

太平洋戦争について、わたしは、いまだによくわからないことがある。
あの破滅的な戦争に国を導いた当時の指導者の大部分は、陸海軍の将官と参謀と呼ばれる高級将校たちであった。この人たちは、全国の秀才のなかから何十倍という競争率を突破して陸軍士官学校や海軍兵学校に入り、さらにそのなかからまた何十倍かの競争を経て選抜され、陸軍大学校や海軍大学校で最高教育を受けた、文字どおり秀才のなかの秀才たちであった。
それほど頭のいい人たちが、なぜ国力の実情も認識できずに、超大国のアメリカを敵に回すようなことをしたのだろうか。
開戦のとき、わたしは中学二年生だったが、「日本が負ける」と断言したことを覚えている。
理由は簡単──そのころわたしは、父親に連れられてよくアメリカ映画を観ていたのだが、そのなかに出てくる自動車の数が、当時東京の街で見かけられた車の数より圧倒的に多い―という、ただそれだけの理屈からであった。そして結果は、そのとおりになった。
凡庸な中学二年生の頭でも容易に見通せることが、どうして年功を積んだ秀才中の秀才たちに見通せなかったのだろうか。これはまったく不思議というほかはない。
もちろん、資源量や工業生産力についての詳しい調査結果は、政府の手もとにも整えられてあった。それを読めば一目瞭然、勝つはずのない戦争であることは、わかりきっていたにもかかわらず、である。
なぜか──ひとつには、明治憲法で規定された天皇の軍隊親政という呪縛で、政府、官僚機構(軍人も含めて)ともに、活発な論理性、柔軟性を欠いて、形式的な手続きを踏むことだけが政治のすべてであった、ということ。だが、それにもまして着目すべきことは、「自存自衛のためのやむをえざる開戦……」という言葉で示されるように、日本民族特有の〈情緒衝動〉とでも呼べるような感情の昂揚が、勝つか負けるかという理性的な判断よりも先に、わが秀才中の秀才たちをとらえてしまったということである。
当時の将星のなかで、反戦の立場を貫いたとされている山本五十六元帥でさえ、連合艦隊司令長官のポストに就くと、「はじめの半年か一年は随分暴れて御覧に入れる」などと勇み足の啖呵を切って、開戦論者たちを安心させてしまっている。国情を熟知している軍のトップなら、間違っても口に出してはいけないことだ。
東北大教授・池田清氏の名著「海軍と日本」のなかで引用されている、アメリカのジェームズ・フィールド教授の指摘では、日本軍の敗因は、「現代戦の膨大かつ複雑な諸作戦で成功を得るのに不可欠な高度の平凡性が不足していた」ことにあるとされている。
つまり、わかりきってることを、そのとおりにしなかったのである。石油もなく、貧弱な工業力しかもたない国情をひと目みれば、アメリカとの戦火を避けるためにこそ、徹底して知恵を絞らなければならなかった。しかし、わが秀才中の秀才たちはアメリカに勝てる途がないわけではあるまいと、その卓抜した頭脳を駆使して高等数学のような作戦理論を積み重ねていったあげく、なんとか勝てる、という結論を引き出してしまった。それは仮定のうえに仮定を、さらにそのうえにまた仮定を積みあげてできた計画だから、現実のちょっとしたズレでもたちまち崩壊してしまう砂上の楼閣のようなものであった。
なぜ、わかりきっている現実認識のうえに断乎として踏みとどまれなかったのか。それが日本人の〈情緒衝動〉に由来するものだ、とわたしは思う。
使命感とか義務感(当時は大義という言葉を使った)とかに駆り立てられて〈願望〉という情緒が先走ってしまい、「イザとなったら神風が吹く」というおよそ非合理極まる夢想に陶酔して、それを自己確認するために知恵を絞って無理な計算を組み立ててゆこうとする。冷静に現実を見つめ、客観的な分析と展望を述べようとする者には、「大義のなんたるかを心得ない卑怯者」の誹りを浴びせる。欧米人からみれば、まったくあべこべの考え方をするのが、日本人の特性らしい。
「日本人ぐらい楽天的な民族はない」とアメリカの軍事学者が驚いているほどである。
以上は戦前の話であるが、現代に当てはめてみてもあまり笑えた話ではない、と思うのはわたしひとりの勘違いだろうか。(…)

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