映画「
吉行淳之介の同名小説をもとにした本作は、女を愛することを恐れる一方で愛されたい願望をこじらせる小説家・矢添克二の物語。妻に逃げられて独身で40代を迎えた彼は、娼婦の千枝子と時折体を交え、過去を引きずりながら日々をやり過ごしていた。ある日偶然出会った大学生・瀬川紀子の粗相から奇妙な情事へ至ったことにより、日常と心が揺れ動いていく。綾野が矢添を演じ、田中が千枝子、咲耶が紀子を演じた。
映画を観た感想を聞かれた綾野は「目というよりは“耳”で観る映画ですし、“読む”映画でもある。そういった作品にはなかなか出会えない。荒井さんの前で言うのもアレですが……“珍味”なんです」と語り、「試写を観たときに、撮影現場では得られなかった味わいを感じました。言葉をなりわいにしている矢添から出てくる言葉は美しいけれど、どこか滑稽で……。彼は今の時代だと“化石男”とも言える人物なんです」と口にした。
10代の頃に原作と出会った荒井は、長年映像化を願っていたという。しかし「原作のどこに惹かれたのか?」と問われると、彼は「言いづらいから……」と口をつぐむ。綾野は「僕がまず聞きましょうか?」と荒井の真意を確認するも「確かに、荒井さんの思いを文体にするのは難解かもしれない」とポツリ。荒井が「セックスっていうのはラーメンに胡椒を入れるみたいなものだから、必要なんじゃないの?」と表現すると、綾野は「本領を発揮できない男が、あるものを見つけたらなぜか本領を発揮できるようになる。奮い立たされていくんです。起立していく……」と言葉を選びながら作品の魅力を語った。
今回が人生初の舞台挨拶となった咲耶は、オーディションで起用された経緯に触れ「受かったときは夢のような心地でした。事前に原作や準備稿をすべて読んで『絶対にこの役を勝ち取るんだ』と思っていたんですが、理想がこんなに早くに実現できるとは。ふわふわしてしばらく現実感がありませんでした」と当時を回想する。一方田中は、荒井の脚本作には参加経験があるものの、監督作は初。「ずっと荒井組に入りたいと思っていた」と笑顔を見せる彼女は「緊張したのですが、剛くんが(荒井組の)先輩なので付いていこうと意識しました」と振り返った。
物語の舞台は1969年。荒井は「いろいろなことがあった時代で、自分の人生においても致命傷を負った時期でした」と思い返す。綾野は矢添役について「セリフに感情がすべて書かれていたので、肉体的な表現でセリフを邪魔しないかを気にしていました」と述べつつ、「当時の映像を観たのですが、発言する人の言葉に力がこもっているように感じました。きっとマイクの性能において、ロー(低域)を拾えずハイ(高域)が強くなっているから、そういう印象になるのかもしれない。だからこそ、矢添の声はラジオボイスのようなイメージで、抑揚をあまり付けない話し方にしようかなと。そのほうが時代とマッチングしやすかったんです」と工夫を打ち明けた。
イベントの中盤では、荒井が綾野について「俺よりも役について考えてくる役者」と話していたことがMCから明かされた。荒井は「俺は(現場で)あまり何も言わないので……。『カットをかけた後のOKラインがわからないよね』って言ってなかった?」と綾野・田中を見やる。田中が「自分の演技は大丈夫かな? できているかな?と思うことがあります」と目線を送ると、綾野は「ワンシーンワンカットで撮っていくので、カメラを5分以上回しっぱなしにすることもあるんです。カットがかかってから監督の顔を見てもなかなか『OK』がかからず、心地よくなって眠ってしまったのかと(笑)」と証言。荒井は「起きてるよ! たまに声が大きいときもあるじゃない」とチャーミングにツッコミを入れていた。
印象的なシーンに話が及ぶと、田中は「エンドロールが好きで、咲耶ちゃんがあることをしているんです。この年齢でしか出せない色気と無邪気さがあって、“女の子”と“女性”を行き来しているようでした」と称賛する。荒井は「千枝子がたばこをくわえてペディキュアを塗るシーン。たばこは綾野くんの案だからね」と言うと、綾野は「ただ塗っているだけなのに、美しくて感情の揺らぎがあった。白黒の作品ですから、たばこの煙の揺らぎが感情をより伝えてくれるのではないかなと」と話した。
最後に荒井は「観て面白かったらぜひ宣伝してください。でないと次回作が作れなくなるので(笑)。もうすぐ80歳になりますし、山田洋次に負けたくない!」とアピール。綾野は「登場人物が魅力的で、矢添以上に女性たちの魅力が詰まっています。その美しさの中でグズグズしている矢添の滑稽さが持ち味なので、『まあまあ』と思いながら、ぜひ手のひらで転がしてやってください」と呼びかけ、イベントを締めた。
「星と月は天の穴」は12月19日よりテアトル新宿ほか全国でロードショー。
※「星と月は天の穴」はR18+指定作品
映画「星と月は天の穴」本予告
綾野剛の映画作品
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MY @havana70009316
これは詳しくて良い記事
やっぱり試写会レポートは全文載せてくださいよマスコミの皆さん https://t.co/AlmCrk82zV