「六つの顔」野村万作は本物の“国宝”、高みを目指す姿を野村萬斎・野村裕基が尊敬

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人間国宝の狂言師・野村万作を追ったドキュメンタリー映画「六つの顔」の完成披露試写会が、7月24日に東京・早稲田大学 大隈記念講堂 大講堂で開催。万作のほか息子である野村萬斎、孫である野村裕基、監督の犬童一心が舞台挨拶に登壇した。

「六つの顔」完成披露試写会の様子。左から野村裕基、野村万作、野村萬斎、犬童一心

「六つの顔」完成披露試写会の様子。左から野村裕基、野村万作、野村萬斎、犬童一心

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「六つの顔」ビジュアル

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狂言の第一人者であり、94歳となる今もなお現役で舞台に立ち続ける万作は、2023年に文化勲章を受章した。「六つの顔」は、受章記念公演が行われた特別な1日に寄り添いながら、3歳の初舞台から長きにわたり狂言と向き合ってきた彼の軌跡を浮かび上がらせるもの。作中には、万作がライフワークとして取り組んできた狂言「川上」の模様や、萬斎、裕基らとともに舞台に立つ姿も映し出される。

野村万作

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万作は大隈記念講堂に集まった観客を前に「学生時代にしょっちゅうここに来ておりました。早稲田祭にて狂言がまさにこの場所で行われていましたから、この映画が上映されたのは大変うれしいことです」と挨拶。自らこのたびの映画製作を希望したそうで「若い頃、小津安二郎が六代目尾上菊五郎を撮った『鏡獅子』などを観て、狂言の演者としてこういう映画を作りたいなと思っていたんです」と理由を打ち明けた。

犬童一心

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普段から狂言を観ているという犬童は「前から万作先生を撮りたいと思っていたし、能楽堂にもカメラを向けたかった。その両方を叶えられるから『しめたな』と思った」と打診を受けた当時を思い返し、「万作先生を撮る仕事を頼まれたということが、ものすごい名誉。大事にやらなければいけないと強く感じました」と振り返る。万作に目線を送り「昔から新しいことをたくさんされてきた方。だからこそ自分の映画を作るという発想も生まれたんだなと」と話すと、萬斎は「無形文化財ですからね。本物の“国宝”です」と映画「国宝」を引き合いに出して観客の笑いを誘う。加えて萬斎は万作に「『自分の芸を形に残したい』という思いがあったのでは?」と問い、万作から「もちろんございました」と返答された。

野村万作

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「川上」に話が及ぶと、万作はイタリア・ミラノで上演したことに触れ、「ある老夫婦が観ていたんです。舞台上で夫婦が手を取り合って引っ込んでいく場面の際、その夫婦も一緒に手をつないで帰っていった。それを通訳の方から聞きまして、とてもうれしかったんです」と回想する。加えて「私が好きなのは静かな狂言。もちろんゲラゲラ笑うのも悪くはありませんが、それ以上に“和”があるような、やわらかい表現があればよいのです。例えば、桜の花を盗みにきた泥棒には、かえって桜の花をお土産にあげてお酒を振る舞って帰す、というような。人と人とのやわらかな交流が『川上』の中にはある。そのような表現を少しでも色濃く感じていただけたら」と丁寧かつ真摯に話し、観客からは自然と拍手が巻き起こった。

左から野村萬斎、犬童一心

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映画のテーマの1つでもある“美しさ”。犬童は制作について「万作先生の表現の考え方にあるのは『まず、美しくなければいけない』ということ。この映画も“美しい”の次に“面白い”という順番になっていて、万作先生の趣旨に添えるように撮りました』と回想し、「万作先生は座っていても立っていても、シルエットや佇まいがきれい。それを正確に撮ることで、映画が万作先生の狂言に近付けるのではないか」と狙いを明かす。横でうなずく萬斎も「映像は(カメラが)寄れるということが舞台と違うところ。でもあまり顔ばかり寄られても『全身で表現しているのに』と思ってしまう。そういう意味でもシルエットにこだわられたというのは、その通りだなと思います」と続く。

野村萬斎

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野村裕基

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さらに萬斎は前半部分の“ただ歩く後ろ姿”をピックアップし、「その姿には90年の歩み、道のりが感じられる。素敵な始まりで『つかみはOK』というところ」とコメント。裕基は映画から「芸を継承することはできても記憶は継承できない」と感じたと言い、「皆さんに近しいメディアである“映画”になることで、万作先生が思っていたこともわかりますし、未来に向けてどう歩んでいくのかもわかる。ぜひここから先を見据えた映画として観ていただきたい」とアピールした。

左から野村裕基、野村万作、野村萬斎

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最後に万作に関しての印象を聞かれると、萬斎は「父というより師匠」と表現し、「僕らは技芸だけでなく精神を受け継いでいくことが必要。アップデートされていく時代に合わせて、自分たちが何を守り、何を更新していくのかという姿を身をもって見せてくれた」と尊敬のまなざしを向ける。「万作先生は芸に実直」と切り出す裕基は「94歳になって『ややあって、また見る月の高さかな』ということを心に容している。最高到達点はどこになるのか。まだ高みを目指すんだという精神と体力を持ち合わせています。本当に大きな存在です」と言葉に力を込めた。

映画「六つの顔」は8月22日より東京・シネスイッチ銀座、テアトル新宿、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で順次公開。なおフォトセッション後の最後の挨拶では、万作が「当たるといいですねー!」とお茶目にヒット祈願する姿もあった。

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©2025 万作の会

映画「六つの顔」本予告

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@soaing

とてもとても素晴らしい映画で、「当たったらいいなぁ」です!!友達にも勧めます! https://t.co/Tb2N3Ulkh6

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