「国葬」「ドンバス」「バビ・ヤール」で知られる
ウクライナで育ち、ロシアで映画教育を受けたロズニツァ。2作はいずれも「国葬」「バビ・ヤール」などと同じく、過去の記録映像を全編に使用して歴史を再構成するアーカイバルドキュメンタリーだ。第2次世界大戦の終結のため、そして戦争責任を問うために実行された2つの“正義”に着眼し、「セルゲイ・ロズニツァ<戦争と正義>2選」と題して同時公開される。
第75回カンヌ国際映画祭で特別上映された「破壊の自然史」は、第2次世界大戦末期の連合軍によるドイツへのじゅうたん爆撃を記録した作品。この一連の空爆では、イギリス空軍だけで40万の爆撃機が131都市に100万tの爆弾を投下し、60万人近くの一般市民が犠牲となったとされている。技術革新によって増強された軍事力による、人類史上最大規模の大量破壊。ドイツ人作家のW・G・ゼーバルトによる「空襲と文学」へのアンサー的な作品となっており、ナチスドイツの犯罪と敗戦国としての贖罪意識によって、戦後長くにわたり空襲の罪と責任について議論されることができなかった社会について考察する。
第79回ヴェネツィア国際映画祭に正式出品された「キエフ裁判」は、戦勝国が15名のナチスドイツ関係者を裁いたウクライナでの国際軍事裁判を再構成した作品。数々の残虐行為が明るみになるほか、自己弁明に終始する者、仲間に罪をなすりつける者、同情を得ようとする者たちの姿からは、ホロコーストに従事したアドルフ・アイヒマンを指してハンナ・アーレントが書いた「悪の凡庸さ」があらわになる。
「破壊の自然史」におけるディレクターズノートの抜粋コメントも到着。ロズニツァは「私たちはロシアによるウクライナへの侵略や残虐行為が続いている状況の中でこの映画を観ることになります。しかし、私は、この映画を別の視点から捉えることができるときが来ると考えています。大量破壊兵器や地球規模の殺戮兵器の使用を可能にするこの文明をどうすればよいのかという存在論的な問題に私たちはいつか直面するのです。他の人間を殺すことが、政治的あるいは経済的目標を達成するための普遍的な手段であり続けているのはなぜなのか。私の映画は戦争の本質を描いていると信じています」とつづっている。
「破壊の自然史」「キエフ裁判」は現在、予告編がYouTubeで公開中。配給はサニーフィルムが担当する。
セルゲイ・ロズニツァ コメント
戦争の映像や事実を知っていることと、なぜそのようなことが起きたのかを理解することは違います。そのことを理解するには時間がかかりますし、その出来事が起こった瞬間からずいぶん時間が経ってから理解することもありますし、場合によってはまったく理解できないこともあります。
私たちはロシアによるウクライナへの侵略や残虐行為が続いている状況の中でこの映画を観ることになります。しかし、私は、この映画を別の視点から捉えることができるときが来ると考えています。大量破壊兵器や地球規模の殺戮兵器の使用を可能にするこの文明をどうすればよいのかという存在論的な問題に私たちはいつか直面するのです。他の人間を殺すことが、政治的あるいは経済的目標を達成するための普遍的な手段であり続けているのはなぜなのか。私の映画は戦争の本質を描いていると信じています。
Tetsuya Shibutani @Tshibutani
セルゲイ・ロズニツァが“戦争と正義”を問う「破壊の自然史」「キエフ裁判」同時公開(コメントあり) https://t.co/5Uy9Wzyrun