黒沢清が篠崎誠と恐怖映画トーク、“何も襲ってこない”「霊のうごめく家」に衝撃受ける

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第19回文化庁映画週間のシンポジウム「恐怖映画の美しき世界」が本日10月28日に東京・東京ミッドタウン日比谷 BASE Q ホールで開催。第2部「世界に伝播するジャパニーズホラーの美学」に映画監督の黒沢清篠崎誠、サンセバスチャン国際映画祭ディレクター・ジェネラルのホセ=ルイス・レボルディノスが参加した。

シンポジウム「恐怖映画の美しき世界」の様子。左から篠崎誠、黒沢清、ホセ=ルイス・レボルディノス。

シンポジウム「恐怖映画の美しき世界」の様子。左から篠崎誠、黒沢清、ホセ=ルイス・レボルディノス。

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黒沢清

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篠崎誠

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東京・国立映画アーカイブの展示企画「ポスターでみる映画史 Part4 恐怖映画の世界」と東京国際映画祭が提携して行った同シンポジウム。まずは黒沢と篠崎が日本のホラー映画の歴史について語る。篠崎は「2000年代初頭くらいに“Jホラー”という言葉が駆け抜けました。その前から日本では“怪談映画”もたくさん作られていましたが、それは怪談をもとにしたものや因果応報で復讐を果たすような作品。たまたま不可解な出来事に巻き込まれる理不尽なテイストというのは1980年代終わりくらいからなんじゃないかと思います。その前の1970年代には伊藤俊也監督の『犬神の悪霊(たたり)』がありましたね」と述懐。黒沢が「『エクソシスト』に影響を受け、日本的に解釈したオカルト映画ですね。犬神の霊が少女に取り憑いてひどいことをするという、これは傑作でした。伊藤さんならではの美学が貫かれています。『エクソシスト』の二番煎じ的な扱いではありましたが、単に幽霊が出てきて怖い怪談映画とは一線を画す作品。怪談映画からホラー映画への一歩がここから見られるように思います」と続けると、篠崎は「『エクソシスト』からオカルトブームが起こって、ゴールデンタイムの民放で不気味な形で人が死ぬようなシーンもけっこうオンエアされていましたね」と当時を振り返った。

また篠崎は「『犬神の悪霊』も、大林宣彦さんの『HOUSE ハウス』も、恐怖映画的要素が強い『八つ墓村』も1977年公開。特にホラーが好きじゃないごく普通の人たちを巻き込みながらブームが起こっていたと思う」と分析。1977年当時大学生だったという黒沢は「小さい頃から怪奇映画や吸血鬼のようなヨーロッパ的なものが好きでした。『白い肌に狂う鞭』が好きで、クリストファー・リーが憧れ。当時はオマージュを捧げるような映画を撮っていました」と照れつつ、「大林さんにも、一昔前の“怪奇映画”と呼ばれているような、吸血鬼が出てきそうなゴシックホラーへの憧れがあったような気がします」と持論を述べた。

黒沢清

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続いて話題は1980年代、1990年代の作品に及ぶ。篠崎が石井てるよしの「邪願霊」と鶴田法男の「ほんとにあった怖い話」を挙げると、黒沢は「『ほんとにあった怖い話』の中の『霊のうごめく家』に衝撃を受けて。あの頃は、人と集まると『何が襲ってきたら怖いと思う?』とよく話していました。でも『霊のうごめく家』では何も襲ってこないんですよ。襲ってこない怖さってあるんだと衝撃でした」とコメント。「ジャック・クレイトン監督作『回転』からアイデアが来ていると思うんですが、あれを日本映画に取り入れるなんて考えてもいなかった。ただそこにいるだけで怖い、襲ってこないのが怖い。怖い映画に対して考えを変えなきゃと思わされました」と転換点を振り返る。

ホセ=ルイス・レボルディノス(中央手前)

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イベント後半にはレボルディノスが輪に加わり、「最初に注目させられた日本のホラーは塚本晋也の『鉄男』。どこまでホラーと言っていいかはわからないが、デヴィッド・クローネンバーグにも似ていました」「中田(秀夫)監督の『リング』は西洋でブームを起こしましたが、私は塚本さんの『ヒルコ/妖怪ハンター』が大好きです。女性の頭に蜘蛛の足が生えている姿は今でも悪夢に出るんです」と笑みを浮かべた。

また黒沢は「物語の中で死者をどう扱うかという点で、Jホラーは海外作品に影響を与えていると感じます。フランス映画なんかではホラーじゃなくても、死んでしまった人が突然出てきて話したりする。幽霊が(空間に)いることが普通になってきている気がします。特殊メイクなしの普通の俳優がただそこにいるだけで死者に見えるように、Jホラーが(演出を)開発していったんじゃないかな。ホラーというジャンルからはみ出て、死者をどう映画に組み込むか挑戦している人が増えていっている気もしますね」と見解を述べる。それを聞いたレボルディノスは「もともとスペイン映画ではなぜか幽霊ものがないんです。ヨーロッパ全体でも幽霊という形で扱う作品は少ない気がしますね」とコメント。黒沢が「不思議ですよね。でもゾンビや吸血鬼はいいんですか?(笑) ゾンビは病原菌があって感染して……と理屈立てればいいのかもしれないですが」と尋ねると、レボルディノスは「ゾンビは(現実のものだと)信じられないので怖くないのかな。だからゾンビをおもちゃにして、コメディにしがちです。幽霊に関しては、いるとは信じられないけど、何かしら(存在に対する)不安があるのかもしれないですね」と答えた。

質疑応答では、ホラー映画の画の美しさについて質問が飛んだ。黒沢は「僕はもともと美しいヨーロッパの怪奇映画を観てきました。日本でどうやればいいんだろうと試行錯誤していたときに、僕が憧れていた美しさを封印したJホラーというものが出てきた。確かにめちゃくちゃ怖いんですが、美しさと怖さは相反してしまうのか?とずっと悩ましかったです。でもいつか2つが一緒になるかもしれないという望みは捨てていません」と述懐。「『叫(さけび)』では幽霊をかなり美しくしようとしてある程度実現できたんですが、誰も怖いと言ってくれませんでした」と笑いつつ、「難しいけど、それを両立させたいですね。美しさの獲得というのは、ホラーにおいて目指すべきことの1つかなと考えています」と今後について語った。

なお「ポスターでみる映画史 Part4 恐怖映画の世界」は国立映画アーカイブで12月13日から2023年3月26日まで開催される。

※塚本晋也の塚は旧字体が正式表記

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