永山瑛太の初監督作「ありがとう」撮影に密着、死にゆく男演じた役所広司の軽やかさ

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永山瑛太がWOWOWの企画「アクターズ・ショート・フィルム2」で監督デビュー。役所広司を主演に迎えた短編映画「ありがとう」の現場に密着した。

「ありがとう」ポスタービジュアル

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いずれも日本の映画・ドラマの第一線で活躍する5人の俳優たちが、同条件の予算や撮影日数で25分以内のショートフィルムを監督する「アクターズ・ショート・フィルム」。第1弾の磯村勇斗、柄本佑、白石隼也、津田健次郎、森山未來に続いて監督に名を連ねたのは、永山、青柳翔(劇団EXILE)、玉城ティナ、千葉雄大、前田敦子だ。全員何かしらの監督経験があった第1弾と大きく変わったのは、今回は5人全員が本格的な監督業は初挑戦という点。映画ナタリーでは永山組を皮切りに、すべての現場の模様をお届けする。

「ありがとう」

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永山自ら脚本も執筆した「ありがとう」は、死に場所を求めて1人さまよう名もなき男の物語。役所演じる男は盗んだスポーツカーで人里離れた奥深い山へ向かう。車を乗り捨て森の奥へ分け入り自殺を図ろうとした瞬間、男の横には奇妙な青年が立っていた。永山曰くテーマは「生きる」。「この男の“生き様”を描きたいと思ったとき、真っ先に浮かんだのが役所さんでした。出演を断られたら、この作品を撮る意味はないとも思っていました」と、永山はオファーの理由を語っている。

「ありがとう」メイキング写真

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映画は山梨・甲府駅にほど近い立ち食いそば屋でクランクイン。通勤のピークも過ぎた人もまばらな時間帯、役所は薄汚れたよれよれのスーツ姿で現場に入る。一方の永山は午後の山での撮影に備えたのか、アウトドアハットにトレッキングブーツという動きやすい軽装だ。店先で顔を合わせたのも束の間、2人はすぐさまそば屋の奥へ。役所の顔には赤い生傷のメイクが施され、マスクの下は白髪交じりの伸びきった無精ひげ。スーツ姿だが並のサラリーマンには決して見えない主人公は、カウンターの隅にうつろに立つ。

撮影されていたのは映画のオープニング、およそ1分の短いシーン。朝定食の納豆をゆっくりと目の高さまで持ち上げる男の動作は重たい。小さなそば屋で人々がひしめく中、どこか獣めいた男の周りだけ異なる時間の流れ。あまり現場で言葉数の多くない永山だが「俺がやってるのを役所さんに見せたい」と、自らはしを持ち納豆を持ち上げる場面も。そして男の目元には一瞬痙攣が走る。脚本に書かれていなかった痙攣は、劇中、男の顔面に常に付きまとうことになる。

「ありがとう」ポスタービジュアル

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続く駅前や商店街での撮影を終え、午後は甲府の中心部から車で30分ほどの山間へ。街中で盗んだ真っ黄色のスポーツカーを降り、さらに森の奥へ分け入っていくシーン。役所は十数m車を運転したのち、山の斜面の道なき道をのっそりと登っていく。車を停める瞬間の撮影では、永山のカットがかかると「最後エンストしたのわかった……?」と屈託のない笑みをこぼす。自殺に向かう人間の苦悩と狂気を描いた暗い話ではあるが、現場にいる役所はいたって軽やかな印象だ。

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かつて役所の初監督作「ガマの油」で親子として共演していた永山は「息子役に選んでいただいたのですが、交通事故に遭い亡くなってしまう役なんです。ですが役所さんは作品を通して『息子の死』を暗くなりすぎないように表現していたことが印象的でした」と当時を回想。さらに今回の「ありがとう」については「暗くなりがちな作品ではありますが、役所さんの持つエネルギーが力強く、お芝居で全体のトーンを明るく上げていただいたように思います」と語っている。

「ありがとう」メイキング写真

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一方の役所も「ガマの油」の縁から永山に恩義を感じ「ずっと何かの形で返せれば」と思っていたという。撮影を終えた役所は「監督の瑛太くんは現場の温度感を感じながら自分の直観を大切にし、そして決断力もある。素晴らしかったです」と称賛のコメント。さらに「まだ若い彼ですが、今まで生きてきた人生のすべてが、この作品に集約されていると思います。瑛太くんの頭の中を覗いたような面白さがあると思いますので、ぜひ楽しみにしていてください」と述べている。

「すべての工程を楽しむことができましたし、悔いもありません」というのは脚本執筆、撮影、編集など映画制作を終えた永山の言葉。撮影前に「現場で楽しむことを大切にして立ち向かっていきたい」と話していた永山は、初監督作を完成させ「船頭として作品すべての舵取りをするのは、責任もありますが、とても楽しく、中毒性のある危ない仕事だなとも思いました」と笑いながら充実の表情を見せた。

「アクターズ・ショート・フィルム2」はWOWOWで2月6日17時より放送・配信スタート。「ありがとう」には橋本マナミ、永山と親交のある登山家の服部文祥も出演している。

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