陸前高田に生まれる新たな民話「二重のまち/交代地のうたを編む」公開、予告解禁

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小森はるか+瀬尾夏美のドキュメンタリー「二重のまち/交代地のうたを編む」が、2月27日より東京・ポレポレ東中野ほか全国で順次公開。予告編がYouTubeで解禁された。

「二重のまち/交代地のうたを編む」ビジュアル

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小森はるか+瀬尾夏美は、「息の跡」「空に聞く」で知られる映像作家の小森と画家で作家の瀬尾によるアートユニット。東日本大震災をきっかけに活動を開始し、東北を拠点として風景と人々の言葉の記録を軸に制作・発表を続けている。

「二重のまち/交代地のうたを編む」

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「二重のまち/交代地のうたを編む」の舞台となるのは、津波による甚大な被害で街が跡形もなくなった岩手・陸前高田市。震災後、同地にはベルトコンベアで土を運ぶ大規模なかさ上げ工事によって、約10mの高さの新しい地盤が築かれた。瀬尾はこの状況に着想を得て、震災を経て生まれる新たな民話の種として短編「二重のまち」を執筆。かつてそこにあった町と、工事後に造られた新しい町を行き来しながら暮らす2031年の人々を描いた。

「二重のまち/交代地のうたを編む」

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同作をもとにした「二重のまち/交代地のうたを編む」には、2018年9月に陸前高田に集った古田春花、米川幸リオン、坂井遥香、三浦碧至が出演。4人の若者たちが土地の人々に話を聞き、対話を重ね、自らの言葉と身体で物語を語り直そうとするさまが捉えられていく。小森と福原悠介が撮影と編集、瀬尾が作中テキストを担当した。予告では「阿賀の記憶」「ニッポン国VS泉南石綿村」などで知られる秦岳志が編集を手がけている。

「二重のまち/交代地のうたを編む」

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このたび著名人による鑑賞コメントも到着。映画監督の濱口竜介をはじめ、演劇作家・小説家の岡田利規、マンガ家のこうの史代、文筆家・音楽家の寺尾紗穂、シンガーソングライターの七尾旅人ら7名が寄せたコメントは下記の通り。

ポレポレ東中野では3月6日より特集上映「映像作家・小森はるか作品集 2011-2020」も開催。劇場未公開作を含む7プログラム、全9作品が一挙上映される。また書籍「二重のまち」は2月中旬に書肆侃侃房より発売。

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赤坂憲雄(民俗学者) コメント

二つのまちを往還する声に、身を寄せる旅人たち。語りえぬ受苦に寄り添い、ただ共に在ること。ていねいに想うこと、伝えること。災厄の記憶は風化ではなく、浄化を、と囁く声がする。

岡田利規(演劇作家・小説家) コメント

忘れられるべきでない出来事・思い。それが、しかし果たしてこの自分にそれを語り継ぐ資格はあるか?と逡巡する若者たちによって、その逡巡ごと、この映画の中で確かに伝えられている!

小野和子(民話採訪者) コメント

この足の下に、もう一つの町が存在する――この感覚が捉える切実な詩情にうたれた。地割れと怒涛に町は消えたのではない。そこに生きて「在る」のだ、今も。四人の若者たちの存在は、それを語りつづけるために蒔かれる種なのだ。

こうの史代(マンガ家) コメント

これは、ちいさなちいさなタネのような映画。笑みや涙がこれからいくたびも心に降りつもれば、しずかに目覚めて根と葉をのばす。それがいつだとしてもその芽を見失わないように、心を澄まして生きてゆこう、そう決めました。

寺尾紗穂(文筆家・音楽家) コメント

どのように足掻いても
私はあなたになれずあなたの話を再現することもできないのだと表現者たちが気づいたとき紡がれた物語はそれぞれに光り始める。

七尾旅人(シンガーソングライター) コメント

3.11震災の年から10年に渡って陸前高田に滞在し、地元の方々とふれあい、失われていく物語を記録し続けて来た瀬尾夏美さんと、小森はるかさん。初めて出会った日、まだ二十歳そこそこだった彼女たちの存在は、僕が「Memory Lane」のような曲をいまも変わらず歌い続ける理由になっていた。青春期の丸ごとと言ってよい年月を費やして、ただ真摯にひとつの景色を見つめ続けた2人の記念すべき映画が、「人々の記憶を代弁することの困難さ」への言及で幕を下ろした時、言いようのない感動を覚えた。防潮堤の下に埋もれた、かつての通学路、思い出の小道。「二重のまち」の底層にたゆたう、愛しい人々の記憶。その輝きを、悲しみを、損なうまいと、慎重に言葉を選ぼうとする、いつかの2人のような、若者たち。新しい語り手たちが抱える懊悩。記憶のバトンは継がれていく。過去のために、現在のために、未来のために。この映画を観た誰かが、自らの足元にふと目をやるだろう。アスファルト、コンクリート、土、草、砂。靴底を支える地面の、その下。今の私たちを成り立たせる、かつての街について、想像を巡らせずには居られないだろう。すべては過程の中にあり、けして終わっていない。

濱口竜介(映画監督) コメント

作者たちによって「編む」こととして提示された一連の行為は、観客にとっては不可解な儀式の連続でもある。なぜ聞くこと、話すこと、そして読むことを繰り返しているのか、それが観客に知らされることはない。観客は手探りをしながら、この作品と付き合う必要がある。かえってそのことで発される一言一言が、一つの事件のようにも響いてくる。人の声を聞くことを生業としている者として言えば、こんな声を聞き続ける体験はほとんどない。自分の言葉を、自分の身体から切り離さないように発する人たち。しかしだからこそ、その一言は事態をどこかへ急に連れていきはしない。彼らは、何かをし「あぐねて」いる。そのことはわかる。結論を早急に求める人や、既に出してしまっている人にはこの停滞にも似た「あぐねる」は内向的か、愚かにも映るだろう。しかし、キャストとして選ばれた4人の若者は、むしろ各々に固有の聡明さによって「あぐねる」のだ。「編む」という語から示唆される交錯は人との出会いや対話として、上下動は想像の駆動として現れる。それはむしろ、容易に答えに至ることを徹底的に迂回するための営みとしてある。「あぐねる」ことが具体的な行為として、運動として提示されていることが、この記録・作品の計り知れない価値だ。「二重のまち」は、あらゆる場所が「二重」である可能性(もしくは事実)を提示して終わる。私たちにも「あぐねる」ことが必要なのかもしれない。だが現実に、それが可能な場を構築し、保持することの労苦もまた計り知れない。誰かがやらなくてはいけないが、誰でもできるわけではない。瀬尾・小森の十年の営為に、心からの敬意を表する。

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