矢口史靖×鈴木卓爾、大学映研の盟友が最新作「ダンスウィズミー」「嵐電」を語る

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早稲田大学の映画講義「マスターズ・オブ・シネマ」が5月25日に行われ、映画監督の矢口史靖鈴木卓爾が登壇した。

早稲田大学の映画講義「マスターズ・オブ・シネマ」の様子。

早稲田大学の映画講義「マスターズ・オブ・シネマ」の様子。

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これは監督や俳優、プロデューサーなど映像制作に携わる多彩なゲストを招き、制作にまつわるさまざまな事柄を学ぶ授業。ぴあフィルムフェスティバルとの合同企画となった第7回で、矢口と鈴木は映画祭ディレクターの荒木啓子、講師の土田環とともに90分にわたってトークを繰り広げた。

矢口史靖

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東京造形大学の映画研究会で1年違いの先輩後輩の関係であった鈴木と矢口。2人の出会いは、新入生勧誘の一環で行われた上映会までさかのぼる。その時、鈴木が監督を務めた8mm映画を観たという矢口は「すごく面白かった。男が素っ裸で高尾の山を走り回る映像だった。それを観て、映画を自分で作っていいんだと思っちゃった。そこから足を踏み外した人生です」と述懐。鈴木も「靴だけは履いてました。枝が危なかったから」と笑いながら振り返る。

鈴木が「にじ」で1988年の審査員特別賞、矢口が「雨女」で1990年のグランプリを獲得し、ともにPFFアワードから頭角を現した2人。矢口がPFFスカラシップで劇場長編デビューを果たした「裸足のピクニック」では、鈴木が脚本に参加している。その際、初めてシナリオを執筆したという矢口。「予算はたっぷりあるけど、スタッフはほぼ素人の仲間内。脚本の書き方すら知らず、本屋に買いに行きました。1人では心細かったから、鈴木さんともう1人先輩を呼んで」と当時の状況を明かしていく。

鈴木卓爾

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「裸足のピクニック」は、女子高生の主人公が次から次へと不幸に見舞われるさまを軽快なテンポで描いたブラックコメディ。最初に「女子高生が巡り合わせのように不幸な目に遭う」というシンプルなコンセプトだけ決め、3人が紙に書いた不幸な出来事のアイデアを出し合い脚本作業を進めていった。鈴木は「ルールは彼女の“先”じゃなくて、“次”だけを考えること。つまらなくなってくると、どこからつまらなくなったか立ち戻って考えるんです。それを3カ月ぐらい続けていました」とコメント。また、何かしらの映画で観たことあるような演出、シーン、アイデアだった場合、厳格にボツにする取り決めもあったという。

「ONE PIECE」制作ルール

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その後、矢口の次作「ひみつの花園」が1997年に公開されるまでの間に動き出したのが、2人が現在までライフワークのように続けている超低予算映画集「ONE PIECE」プロジェクトだ。1994年にスタートしたこの企画で、2人は固定カメラ1台、ワンシーンワンカット、編集や音楽、アフレコも禁止というルールのもと1話完結のドラマを計63本発表している。矢口は、ここから生まれた「猫田さん」を「学校の怪談」の1編「怪猫伝説」、「五郎丸」を「歌謡曲だよ、人生は」の1編「逢いたくて逢いたくて」としてセルフリメイクした。

矢口は「ONE PIECE」が生まれた背景を「ものすごい暇でお金がない、未来の見えない日々が続いた。それでも何かを作りたいという気持ちがあって、アイデアも浮かんでいた。だったら何か作っちゃおうと。思い付いたときのホットな気持ちをそのままさっさと映画にしたかった」と説明。鈴木も「大学時代はずっと8mmフィルムで映画を作っていました。そのときは、たった3分の映像を現像するのに2500円くらいかかった。でもハンディカムが発売されてから、2時間の映像をイッキに撮れてしまう状況ができた。今からすると2時間のどこが長いんだ?という感じですが、それを恩恵として受け取った。当時は一瞬、宝の山のような気がしました」と付け加えた。

「ONE PIECE」タイトル一覧

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鈴木は矢口が監督した「ONE PIECE」のお気に入りの1本として、2014年の「カメレオンマン」を挙げる。人々の声だけが聞こえる中、カメラが捉える用水路の下に長い舌が伸びてくるさまを捉えた本作。鈴木は「始めて20年も経つと、頭も固くなってくるじゃないですか。なのに、こんなくだらないものを今になってよく作れるな、という感動があった(笑)」と魅了された理由を明かす。そして「真夏の炎天下、田中要次さんといった俳優がカメラにも映らない、ただマイクに向かって演劇している状況。矢口さんが垂直下降する舌ベロ装置を開発したことも含めて、本当にバカバカしいことをやってるんです」と続けた。

「ダンスウィズミー」ポスタービジュアル (c)2019「ダンスウィズミー」製作委員会

「ダンスウィズミー」ポスタービジュアル (c)2019「ダンスウィズミー」製作委員会[拡大]

「ONE PIECE」での経験を踏まえ、矢口が8月16日に公開を控える「ダンスウィズミー」について語る場面も。本作は一流商社勤務のOLを主人公とするミュージカルコメディだ。催眠によって「音楽を聴くと、歌って踊らずにいられない」体になってしまった彼女が、催眠術師を追いかけるさまを歌と踊りをふんだんに交えて描き出している。本作を「非常にバカバカしい話」と表現しながら、矢口は「ミュージカルってそもそも変だよね、という点からスタートしてます」と企画のきっかけを述べる。「感情が高ぶったりすると急に歌ったり、踊り出す。それを変だよね、と思っている主人公が出てきます。なんでミュージカルは、変なのか、急に歌って踊りだすのか。そこがテーマのミュージカル。ミュージカルを恥ずかしい、と思ってしまう人ほど面白がれる映画になってます」と紹介した。

矢口が「『ONE PIECE』のおかげでまっとうな成長をしないですんでるから『ダンスウィズミー』を作れた。バカの貯金箱なんです」と語ると、鈴木は、その姿勢を「バカバカしズム」と名付け、「バカバカしい映画の先輩というか、この映画を観たのがきっかけとかある?」と尋ねる。チェコスロバキアの作家で、アニメーションや特撮を得意としたカレル・ゼマンを挙げた矢口は「さっきまで実写で歩いてた人が次のカットでは絵になってる。それをシレッとやる。作ってる側はそれを面白いと思ってなくて、実写で撮れないんだから、人形でも絵でもいいじゃんみたいな。そういう面白さを自分でもやれたらとは思ってます」と明かした。

「嵐電」ポスタービジュアル (c)Migrant Birds / OMURO / Kyoto University of Art and Design

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また鈴木の最新作「嵐電」は、5月24日に東京・テアトル新宿、京都・京都シネマで封切られたばかり。2016年から京都造形大学映画学科の准教授に就任した鈴木が、京都市街を走る路面電車・京福電鉄嵐山線、通称“嵐電”とその周辺を舞台に、3組の男女の姿を描いた本作。学生と映画のプロフェッショナルが一緒になって、劇場公開映画を制作するプロジェクト「北白川派」の第6弾作品となる。学生とともに映画を作る魅力を、鈴木は「プロの手練、敏腕だけで作ったものにはないもの。まだ映画作りにおいて白紙状態の学生と作ることが生き生きとしたものとして、この映画にきっとチャーミングな魅力を与えてくれているといいな、と思います」と語った。

マルク・シャガールの絵画を引き合いに自作「嵐電」を解説する鈴木卓爾(左)。

マルク・シャガールの絵画を引き合いに自作「嵐電」を解説する鈴木卓爾(左)。[拡大]

劇中の「妖怪電車」をはじめ、「嵐電」では現実と夢のような虚構の描写がシームレスにつながっている。こういった手法について、鈴木はマルク・シャガールの絵画を引き合いに出し「現実の空間と時間を守らない。それをシュルレアリスムと呼ぶことはできるかもしれないし、混乱するんだけど、僕の映画や思考はそれに近いんです」とコメント。「どうしても映画や映像は一方向のメディア。昔だったらフィルムは1本でつながっていたし、スクリーンは1つしかないのがお約束。でもそれは現実と同じ方向に進んでいるわけではない、と僕は思っているだけで。現実と虚構のつながりをワンカットで描いたら混乱します。その代わり『嵐電』では人物の感情をとても丁寧につなげているんです」と続けた。

そのほか矢口と鈴木は、オムニバス映画「パルコフィクション」の制作時、お蔵入りとなった宇宙から音符のウイルスが飛来するSFパニックミュージカルの話題や2人が大学時代に鑑賞し影響を受けたというルイス・ブニュエルについてトークを繰り広げた。

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