クレール・ドゥニが語る映画制作論、魔法とリスクから生まれる何か「私も怖い」

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フランスの映画監督クレール・ドゥニが14年ぶりに来日。映画美学校主催のマスタークラスで、映画制作を志す人々に向けて講義を行った。

クレール・ドゥニ

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「ハイ・ライズ」ポスタービジュアル (c)2018 PANDORA FILM - ALCATRAZ FILMS

「ハイ・ライズ」ポスタービジュアル (c)2018 PANDORA FILM - ALCATRAZ FILMS[拡大]

最新作「ハイ・ライフ」の公開と、アンスティチュ・フランセ東京で開催中の特集「映画/批評月間 ~フランス映画の現在をめぐって~」に合わせて来日したドゥニ。この日は、彼女が2017年に発表した日本劇場未公開作「レット・ザ・サンシャイン・イン」が東京のアテネ・フランセ文化センターにて上映された。講義は監督作「クソすばらしいこの世界」で知られ、一時期ドゥニの「ガーゴイル」を繰り返し観ていたと語る朝倉加葉子の司会で進行。ドゥニは予定していた60分の講義時間を大幅に超え、約100分にわたって自作の撮影エピソードを交えた映画制作論を語った。

朝倉加葉子

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まず「天才に『なぜ天才なのか?』と聞くほどバカらしいことはない。でもそれができることを非常にうれしく思う」という内容のメールを事前に送っていたことを会場に告げる朝倉。この発言にドゥニは「ありがとうございます」とチャーミングにほほえみつつ、「でも私は、自分が天才ではないことを自覚しています。そして単に好きだから作っているのではなく、私は映画を全面的に信頼しているのです」と反応する。そしてその真意を「自信はありませんが、映画制作にはある種の魔法がある。もし自分の行いを信じ切ることができれば、自分を天才らしき者に近付けることができる。それが映画の力です」と力強く述べた。

「美しき仕事」(写真提供:New Yorker Films / Photofest / ゼータ イメージ)

「美しき仕事」(写真提供:New Yorker Films / Photofest / ゼータ イメージ)[拡大]

彼女は予算や時間の問題が常に付きまとう映画作りにおいて「いつも映画的な解決策がある」と強調。具体例として、ドゥニ・ラヴァンを主演に迎えて1999年に制作した「美しき仕事」のエピソードを紹介する。アフリカ・ジブチ共和国にてロケーション撮影された本作は、フランス外人部隊の副官ガルーの回想という形で屈強な男たちの姿を描いた作品。ジブチは実際に外人部隊が訓練を行うほど過酷な場所であり、事前の取り決めで軍から衣食住や移動手段、小道具などを提供してもらう約束だったという。ドゥニは「でも撮影直前に彼らは、部隊のイメージを損なう映画だと判断し『ジブチに来るな』と言ってきたのです。もし来たら、俳優の顔をぶん殴ってやると。そして本当に殴ったのです。また、美術の一部も壊されてしまいました」と部隊からの妨害があったことを明かす。

左から朝倉加葉子、クレール・ドゥニ、通訳を務めた藤原敏史。

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そのため「美しき仕事」の現場は苦境に陥ることになったが、「だからこそ映画では、この悲惨な状況で疲れ果てている外人部隊を見せようと確信したのです」とドゥニは述懐。プロデューサーから予算の関係でデジタル撮影を勧められたことを明かし、「ジブチは暑すぎてデジタルカメラでは壊れてしまう。私は撮影監督のアニエス・ゴダールと相談し、35mmフィルムで撮ることを決めました」と振り返る。そしてその理由を、「16mmだと、俳優と風景のカットを割って撮影することになります。しかし被写界深度が深い35mmでは、ワンカットでより鮮明に悲惨な状況を収めることができるのです」と説明した。

夜間撮影では照明を焚くための発電機を用意できず、移動用トラックのヘッドライトを用いたこともあった。水中での戦闘訓練を捉えたシーンでは、カメラをビニール袋に入れてドゥニも一緒に潜り撮影したという。ある種、大胆とも言えるこのような撮影についてドゥニは「予算がないからといって細々とした撮影を続けていたら、決していい映画にはならなかったはず」と言及。「1つひとつのショットを撮るとき、そこには映画的な論理があるという確信があったので、とても豊かな作品ができました。予算がないのに潤沢な作品のように思えるし、結局ジブチで撮影できたのです」と胸を張り、「軍服は全部盗みましたけどね(笑)」と茶目っ気を見せた。

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映画におけるカット割りを重視していながら、事前の準備は現場の簡単なスケッチを描くだけで、絵コンテを用意するのは好きではないというドゥニ。「完璧な絵コンテを用意してくおくと、現場ではその通りに撮ればいいと頭が麻痺してしまう。それはシーンを作り上げる行為ではなく、できあがったものをカメラで映しているだけ」とその理由を説明する。俳優が「自分はここにいればいいのね?」と監督に尋ねる行為を否定する彼女は、「私と働くとき、俳優は完全に自由でなければならない。スケッチも見せません」と声高に訴えた。

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あるシーンのカット割りを考えるとき、ドゥニの中には「カットを割るか、ワンシーンワンカットにするか」というシンプルな問いが最初にあるという。この2択を前提にすることで、彼女はシーンによって臨機応変にカット割りを考えることができると明言。ドゥニはさらに、シーンの頭から終わりまでを一連で収めるマスターショットを保険的に撮り、次にそれぞれの寄りの映像を押さえていくという主流の撮影方法を批判する。「この機械的なやり方では恐怖感や危機感、不安が消えてしまう」と映画から失われるものに触れ、「何かを映さないと判断をすることが重要。それはある意味、リスクを負うこと。その緊張感が何かを映画にもたらしてくれると考えます」と続けた。朝倉から「そのやり方に不安はないのか」と尋ねられると、ドゥニは「私ももちろん怖い」と回答した。

彼女にとって初の英語劇となった「ハイ・ライフ」は、4月19日より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次公開される。ロバート・パティンソンが主演を務めた本作は、死刑囚たち9人が乗り込んだ宇宙船「7」を舞台にした密室SFスリラー。彼らは刑の免除と引き換えに、“人間の性”にまつわる危険な実験に参加していく。

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ulala フランス在住の著述家 @ulala_go

フランスの映画監督クレール・ドゥニが14年ぶりに来日。映画美学校主催のマスタークラスで、映画制作を志す人々に向けて講義を行った。https://t.co/UrfmMDpZHh

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