しんのすけ

シリーズ:ファスト映画 第1回 [バックナンバー]

「ファスト映画問題から考える映画の未来」映画感想TikToker・しんのすけインタビュー

“引用”の線引は?動画クリエイターの萎縮と視聴者の疑心暗鬼

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年0回の人を1回に、映画好きを1人でも増やす

──ありがとうございます。ここからは映画ナタリーのインタビュー初登場ということで、しんのすけさん自身の活動についてもいろいろお聞きできればと思います。そもそも肩書きを「映画感想」にした理由は?

京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)映画学科に通っていたんですが、北小路隆志さん、寺脇研さんといった評論家・批評家の先生がいて。その方たちとしゃべっていると、とてもじゃないけど評論家は名乗れない(笑)。最強を知ってるがゆえに、ですね。もう1つは映画を深く紹介する人はいるけど、広く浅く紹介する人は誰がいるんだろう?と考えたときに、あまりいない。そっちのほうが映画文化においてヤバいんじゃないかと思って。

──先ほどの一般層に認知されるという意味ですよね。

映画にそこまで興味がない人は「映画批評」「映画評論」が肩書きになっている時点で反応しない。さらに言うと、映画のことを知りたいとも思っていない人には「面倒くさそう」と思われてしまう可能性もある。TikTokはそもそも中学生や高校生といった10代が多いので「感想」って字面として入りやすい。名前を平仮名の「しんのすけ」にしたのも、TikTokのプラットフォームに最適化されたもの。「映画評論家・齊藤進之介」より「しんのすけ@映画感想」のほうが、たくさんの人に見てもらえる可能性が1%でも上がると思ったんです。

──最初からものすごく戦略的に考えて付けていたんですね。

だから「紹介」も使わないんですよ。「感想」って個人的なもの。僕がやりたいのは自分のフィルタを通して映画の感想を言うこと。自己満足ではあるんですけど、口コミのニュアンスを強める意味合いで「紹介」は使わずに「感想」のほうがいいなと思ってます。結果的に紹介にはなってるんですけど。

──ただ、しんのすけさんの投稿は「感想」とは言いつつも「批評」的な側面は含まれてますよね。

そうですね。結果論ですけど「感想」というパッケージに収めて、動画を観てさえもらえれば(笑)。面白い、面白くないの感想はどちらでもよくて、観る人にはなんで面白かったのか、なんで面白くなかったのかを伝える精度、言語化能力を上げてほしくて。

──なるほど。しんのすけさんの動画を観ていると、若者への映画教育も意識されているのを感じます。

「同じ映画を観た人間がこういうことを言うんだ」と思ってもらえるだけで、映画への気付きは生まれる。専門学校で教えているというのもあって、動画を通してうっかり教育的な面も養われてたらいいなと思ってます(笑)。

──伝え方で気を付けていることは?

一度、感想を全部原稿に書いてから、中学生に伝わりにくそうな言葉は消すか、違う言葉に言い換えてます。この「わからない」「難しい」の度合いも難しくて、簡単な言葉を羅列するだけだとバカっぽく見えてしまう。動画の情報量の操作も難しくて、予告映像を入れる配分だったり、自分の語りの配分だったり。僕が語らない予告の映像をポンと載せただけのほうがバズるんじゃないかと思うこともあります(笑)。

──しんのすけさんの動画でコメント欄が盛り上がる、盛り上がらないの基準はあるんでしょうか。

やっぱり答えがない作品は盛り上がります。最近だと「キャラクター」。グロいのが苦手な人が「どれぐらいグロいですか?」「怖いですか?」と質問したり、映画のメッセージ性をどう受け取ったか議論したり。映画初出演だったSEKAI NO OWARIのFukaseさんのこととか。いろんな観点がある作品が盛り上がりますね。コメント欄が2ちゃんねるの掲示板みたいな機能を果たしていて、いろんな人の意見が読めます。そして自分と似た意見のコメントを見つけたら、いいねしてます(笑)。

──最後に今後の目標があれば教えてください。

映画好きを1人でも増やすこと、映画館に行くのが年0回の人を1回に、年1回の人を2回にすることです。映画ファン向けコンテンツの賢人はたくさんいて、映画好きを深められるものはいっぱいある。映画の情報が届いてない人にいかに届けられるか。映画のことを知りたいけど、何を観たらいいかわからない。失敗したくないという気持ちもわかる。でも、そこに対しての具体的な歩み寄りが業界として本当になかった。そこにたまたま僕がTikTokでしている活動がハマっている気がしていて。「こんな映画がこの世にはある」「今月はこんな映画が公開されるよ」という情報が勝手に流れてくる、人と映画が出会う機会を色んなところでたくさん作りたいと思ってます。

しんのすけ(齊藤進之介)

しんのすけ

しんのすけ

1988年生まれ。京都芸術大学映画学科卒業後、助監督として働く。2019年より映画感想TikTokerとして動画投稿をメインに活動。TikTokでは主にエンタメや社会問題などを中高生に向けて発信している。「TikTok TOHO Film Festival 2021」の審査員や「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア2021」の映画祭オフィシャルSNSナビゲーターを務めた。

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河村書店 @consaba

しんのすけ「この需要はいったいなんなのか? ファスト映画に何が求められていたのか?」「ネガティブイメージはもう出ているので、 “ファスト映画が生んだ何か”をいかにポジティブに消化していくかをずっと考えています。」(文 / 奥富敏晴) https://t.co/fQnAY1Erzc

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