シリーズ:ファスト映画 第2回 [バックナンバー]
淡々とノルマをこなす感覚…70本のファスト映画に関わった男性が語る謝罪と全貌
ナレーション担当者が1000万円超の賠償金で映画会社と和解
2021年9月3日 17:30 19
映画の映像や静止画を無断で使用し、字幕やナレーションを付けた10分程度の動画でストーリーを明かすファスト映画。著作権法違反の疑いで摘発された5名のうちナレーションを担当した1名が、映画会社の1社と1000万円超の賠償金を支払うことなどを条件に和解した。現在、起訴されている3名は被告として民事の損害賠償請求訴訟に進む。
和解したのは関東在住20代、フリーターの男性。オンライン上で親しくなった主犯格の男性から依頼され、2019年12月から半年余りで約70本のナレーションを録音した。和解内容に「十分な謝罪を行うこと」が含まれており、今回、匿名を条件としたインタビューの場が設けられた。男性がファスト映画の作成に関わった経緯と背景とは。その全貌を聞いた。
取材・
「これと同じようなチャンネルを作りたい」
──ファスト映画の作成に関わるようになった経緯は?
まずゲームを通じてA(仮名)と知り合いました。オンライン上の友達です。Aがやっていたゲーム実況のチャンネルに一緒に出演する形でだんだんと仲を深めていきました。そこから映画チャンネルの話が出てきて。
──Aは最初に摘発された3名のうち主犯格とされている男性ですね。もともと存在したチャンネルに参加した形ですか?
いえ「ファスト映画のチャンネルを作りたいから」という形で誘われ、関わるようになりました。
──チャンネル立ち上げの際に誘われた、と。
そうですね。最初に、すでに存在した別のファスト映画のチャンネルを見せられて。「これと同じようなチャンネルを作りたい」「ナレーションをやってほしい」と頼まれました。
──見せられたのは、Aとは別の人がやっていたファスト映画のチャンネル?
はい。おそらく別の人だと思います。
──その時点でファスト映画は知っていた?
いえ、そのとき初めて知りました。
──そもそもAはなぜファスト映画を選んだんでしょうか。
特に理由は聞いてないですね。おそらくネットサーフィンして見つけた、といった軽い理由だと思います。またAは、たくさん映画を観ていました。
──では、なぜあなたがナレーターとして誘われたのでしょうか。何か声優など声に関する仕事をされていたとか?
そこに関しての理由も、ちょっとわからないですね……。当時は大学を中退し、配達や介護関係のフリーターをしていました。特にナレーターを目指していたということもないです。
──友達として仲が良かったから気軽に頼まれた、と。
おそらく、そのような理由だと思います。
──誘われた時点で動画が法律に違反するかもしれない、という考えは?
最初の段階で「こういった動画を作っても大丈夫なのか?」というやり取りはありました。映画の映像にモザイクを入れると聞いていて、でも、いざ始まってみると、モザイクは入ってませんでした。またAが知り合いの弁護士に話を聞いて「著作権上問題ない」ということを言っていて。そういう後押しもありました。
──なるほど。
それと最初に見たチャンネルの規模。何十万人と登録者がいる大きいチャンネルで、再生回数も伸びていたので「(自分たちがやっても)大丈夫なんじゃないか」という甘い考えがよぎってしまって。著作権法に違反していないと思ったのではなく、暗黙の了解じゃないですけど、グレーゾーンという感じで見過ごされているのかなという認識を持っていました。そのままズルズルいってしまった感じです。
──今回摘発された5名の中で面識があったのはAのみ?
顔は知ってますが、直接会ったことはAもないです。ほかも誰も会ったことなく、知らない方もいます。横のつながりはなく、僕はAとしかやり取りしてなかったです。
──なるほど。そもそもグループは5人以外にいた可能性もあるんでしょうか。
僕も詳しくは知りません。警察の方の話を聞く限り、あと何人かいるのかも、とは思いました。
録音したのは約半年で70本
──動画の作成はどういった役割分担だったんでしょうか。
映画の選別と台本の作成はA。もう1人、編集担当がいたことは知っています。
──台本とはナレーションの台本でよろしいでしょうか。
はい。
──データのやり取りはどのように?
台本がチャットで送られてきて、録音した音声データをチャットで送り返すという形です。最初の数本は事前に動画がありましたが、それ以降は台本だけが送られてきました。
──録音環境はファスト映画のためにそろえた?
いえ、もともとオンラインゲームをやるようにそろえていた自分の機材です。改めてナレーションのために機材を買うことはなかったです。
──実際にどれほどの期間で、何本ぐらいの録音を行ったんでしょうか。
期間は2019年12月頃から2020年の夏頃という認識です。ナレーションしたのは70本ほどでした。チャンネル全体での動画の本数や登録者数は覚えてないです。
──ファスト映画自体は約10分ほどですが、録音にかけていた時間は?
だいたい1時間から2時間でした。台本を10以上のブロックに分けて読んでいたんですが、1ブロックを噛まずに読むというのが難しく。声の質にばらつきが出ないように気にして、何度か録り直しもしたり。どんなに早くやろうとしても1時間はかかっていました。
──ナレーションした作品は観ている?
ナレーションを録るときに、あえてその映画を観ることはしていません。また数時間かけてあらすじを録音した映画を進んで観ようという気持ちにもならなかったです。ただ自分が担当した作品は半分ぐらいが鑑賞したことのある作品でした。観たことのない作品の何本かはサブスクのお気に入りに入れたことはありました。
──作品選定はAとのことですが、どのように映画を選んでいたんでしょうか。
何も知らされてなかったですね。ジャンルに関してはバラバラでした。誰もが知ってるであろうタイトルの映画もありましたし、自分がタイトルを聞いたことのないマイナーな作品もありました。
──何かナレーターのキャラ付け、みたいなことは行われていたんでしょうか。
テンションは、地声より低めの声を出すように言われてました。キャラ付けをしようと話したわけではないですが、自分のナレーションのときは、同じキャラクターが置いてありましたね。
──では、ほかにナレーションしていた人もいた?
そうですね。人数は把握していないです。
──録音の頻度はどれぐらいでしたか?
一定のペースで続けていたわけではなく、1日1本の期間もあれば、1週間送らないこともありました。
淡々とノルマをこなしている感覚
──ファスト映画は非常に多く再生されていました。再生回数が伸びていくのはまずいなという感覚なのか、あるいは達成感みたいなものがあったのでしょうか。
動画の再生数自体に特に感情はなかったです。チャンネルを運営していたわけではないので、登録者が伸びようが、動画が多く再生されようが、自分がうれしいという感覚になることはありませんでした。
──多額の広告収入を得ていたということですが、お金の分配についてはどういった話し合いを?
映画チャンネルの収益や分配について、一切把握していないです。実際どれぐらい稼げていたのかもわからないです。僕が受け取ったのは10万円弱でした。
──10万円弱というのは一度に?
いえ、確か2020年の4月、5月、6月と3カ月に分かれて振り込まれて。最後が一番多く、トータルで10万円ぐらいでした。
──半年間70本で10万円弱は非常に安い気もするんですが、事前の約束はあったんでしょうか。
始めた当初はお金の話も発生も一切ありませんでした。第一にAとは友達として出会っていて、仲がいいと思っていました。僕自身、友達として好きだったのでお金関係でいざこざを起こしたくないという思いがありました。特に自分がお金に困っていたわけではなかったので、そこに関して少ないという思いもそんなになかったです。
──最初にお金の話がなかったとしたら、なおさら録音を続けるのは相当な労力だと思います。自分の中で目的意識みたいなものはあったんでしょうか。
目的などは特になかったです。淡々とノルマをこなしている感覚でした。正直、最後まで仕事という感覚もなかったです。友達のお願いを聞いている感覚です。
──ただ友達からのお願いに毎回応じていた、と。
そうですね。でも友達という感覚はだんだんと薄れていきました。上司みたいな人からくるお願いに応えていた、という感じです。
──では、どのような経緯で支払いが行われるようになったんでしょうか。
「さすがにお金は払うよ」みたいに急に言われました。その頃に収入ができたのかわからないですが。
──Aがいくらもらっているか?とか、そういう興味は?
自分から聞くこともないですし、向こうから言われることもなかったので。興味がない、と言えばなかったと思います。
──では、2020年夏のタイミングでナレーターを辞められた理由は?
最初はAの求めるペースで音声を送ることができていました。ただ3カ月ぐらい経つと録音がだんだんと億劫になってきてしまって。「今日欲しい」と言われたものを2日、3日送らない、1週間送らない、とだんだん期間が延びていって。パッと辞めたわけではなく、徐々にフェードアウトしていったという感じです。
──それでAとも連絡を取り合わなくなっていった?
そうですね。映画のチャンネルが始まってから、会話も映画の台本のやり取りだけになっていました。その連絡を無視することになるので、やり取りすることもなかったです。なんとなく自然と疎遠になっていきました。
──Aには今どんな思いを抱いてますか? 巻き込まれてしまった、という思いですか。
摘発された時点でもう1年近く話していませんでした。巻き込まれてしまったというより、またいつか、一緒にゲームができたらいいなと思います。
──ファスト映画の作成に関わった約半年間、罪の意識を持つことはありましたか?
今、思い返せばなんですけど、辞めるべきタイミングが何度かあったと思っています。「YouTube側から動画が下げられた」という話を何回か聞いていました。また収益化のための広告が通る、通らないといった話もありました。そこで気付いて辞められなかったことを後悔しています。また最初の時点で著作権に違反していないのかと、もっと突き詰めて調べるべきでした。
愚かさと罪の重さを実感
──2020年夏にフェードアウトしたあと、ある日突然、警察がやってきた?
はい。
──それはいつ頃ですか。
今年の4月下旬です。
──そのときを振り返ってみていかがですか。
最初は何を話していいかわからなくて。率直に驚いたのが一番です。
──だんだん大変なことをしてしまったという思いが芽生えた?
はい。警察の方が帰られたあと、親と話し合ったときに、初めて自分のやったことの愚かさと罪の重さを実感しました。そして、これからどうなっていくんだろうという不安がありました。
──一部の映画会社と1000万円以上という和解額については、どのように捉えていますか?
映画会社様からすると、何億の損害なので少ない金額だと思います。一個人としてはとても大きい金額で周りの方にも迷惑をかける。金額の面でも自分の罪の重さを感じました。返済の目処は立っています。
──映画会社の収益を損なってしまったという認識がある?
ファスト映画があったからこそ、その映画を観なかった人は必ずいると思います。正確な額は正直わからないですが、被害があることは確実。そこに対する罪の意識、申し訳なさはあります。
──ファスト映画自体が映画を知るきっかけになっていた、という意見もあります。その考えについてはどう思いますか?
やはり結末まですべて明かしてしまっているので、被害のほうが大きいと思います。もしかしたら、そのような効果もあるかもしれないですが、被害のほうが上回ると思います。
──全体を振り返って、今、どのように反省されていますか。
ネットだからという軽い考えがありました。インターネットの世界が現実と分離していて、結局、別世界という感覚があって。すべてがなんでも許されるとまでは思っていないですが、現実より罪の認識が甘くなっている部分はありました。今回調べたり、見たりして感じたのは、むしろ現実世界よりリスクがあること。インターネットこそ使い方に気を付けないと、安易に犯罪になりやすい、巻き込まれやすい場所だなと感じました。誹謗中傷とかもそうですけど、ネットだから多少許されるだろう、という考えを捨て、自分のやっていることをいったん考え直してみたほうがいいなと思いました。
※記事初出時、内容に一部誤りがありました。お詫びして訂正いたします
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