20年以上の歴史を持つテレビ東京版のアニメ「遊☆戯☆王」シリーズには、「監督」「シリーズ構成」などと並んで、ほかのアニメでは見かけない「デュエル構成」という役職がある。字面からなんとなく内容を想像できそうなものの、いざ「一体どのような仕事なのか?」と問われると、長年のファンでも明確に答えられる人はいないのではないだろうか。そこでコミックナタリーではデュエル構成をシリーズ初期から担当し続けている彦久保雅博に取材。具体的な仕事内容や、それが作品のどんな魅力につながっているのかを聞いた。
取材・
原作のデュエルをOCGルールで描いた第1作
──まず初めに彦久保さんの経歴を教えていただけますか。
アニメ専門学校のゲーム系学科を出て、最初はゲーム会社でアーケードゲームの開発、企画、ディレクションなどをやっていました。そのあとフリーになりまして、ゲームの開発に何本か携わらせてもらっているうちにアニメ「遊☆戯☆王」シリーズに関わることになり、今はこっちがメインになってますね(笑)。アニメ「NARUTO -ナルト-」シリーズの忍術創案もやっていた時期がありました。
──どのような経緯で「遊☆戯☆王」シリーズに携わることになったのでしょうか。仕事中に「マジック:ザ・ギャザリング」のデッキを組んで遊んでいたところを見つかったのがきっかけという話をどこかで拝読したのですが……。
その通りです(笑)。開発に携わっていたゲームの現場で遊んでいたのを、そのゲームのプロデューサーに見つかってしまって。その方がのちに「
──「DM」当時はまだ役職名が「デュエル構成」ではなく「デュエル設定」でしたね。このときはどのような仕事をしていたのでしょうか。
原作の「遊☆戯☆王」で描かれているカードゲームと、そのとき実際に子どもたちが遊んでいた「遊戯王オフィシャルカードゲーム」(以下OCG)はルールが少し違うんですね。そこでアニメ化にあたり、原作のデュエルをOCGのルールで再構成してほしいというオーダーを受けたのが始まりです。「アニメでこの原作シーンをやるなら、ここにこういうカードを入れてサポートすれば同じような展開でいけると思います」みたいなことをダーッと書き連ねて。また「乃亜編」などのアニメオリジナルストーリーでは、デュエルの流れは考えましたが、使われるカードはほとんど原作に登場するものでやりくりしていましたね。
──原作のデュエルをOCGルールに沿って調整するような役割だったと。次作の「
「GX」のときは僕が知らないところですでに企画が動いていたようです。学園ものをやることなどは決まっていて、僕は参加することになったときに「融合召喚を軸にしたらいいのではないか」というアイデアを出しました。当時のOCGではあまり使われていなかったと思いますが、以前から融合召喚は「遊☆戯☆王」ならではの面白いシステムだなと思っていたので……そうしたら高橋(和希)先生も乗り気になってくれて。
──OCGの販売元であるKONAMIから「融合召喚を軸に作ってほしい」という打診があったわけではないんですね。
カードもストーリーも基本的にアニメ制作側が作っていて、KONAMIさんがそれをもとにOCG化を検討するという順番でしたね。とはいえ、もちろんKONAMIさんに提案いただいたカードを使うこともありました。今でもこの体制はあまり変わっていないですが、昔よりもKONAMIさんと連携するようになっています。
──では監督や脚本家と話し合いながら、彦久保さんの方でカードやデュエルの流れを作っているようなイメージでしょうか。
「GX」のときはそんな感じで、「このキャラクターはどういうデッキを使うか」というコンセプトを決める会議を設けていただいていました。とはいえひとくちにデュエル構成といっても時期によってやり方は違って、今はこういう会議はしていないです。でも結局やっていることは同じで、監督と脚本家さんとKONAMIさんにカードとデュエルのアイデアを提案して、「ここはもうちょっと派手にしたいな」といった要望があればそれを受けて調整するという仕事ですね。
──デュエル構成の仕事をするうえで必要な能力はなんだと思いますか?
うーん、わかんないなあ……(笑) 。でもデュエル構成は基本的には調整役なんだろうというか、何か突出したものが必要なわけではないと思っていて。僕よりデュエルに詳しい人、お話作りがうまい人、企画を思いつく人ってそれぞれにいると思うし、どちらかというと僕はどれにも興味があって満遍なくかじっている、広く浅いタイプなんですよね。だからこそやれているのかな、という気はします。カードだってゴリゴリにSFっぽいものから、かわいいものから、ふざけたものからいろんなジャンルがあると思うんですけど、なんとなく全ジャンル作ってきていますし。
──いろんな分野に通じているからこそ、脚本家などそれぞれの分野のスタッフの相談に応えたり、提案したりできるということでしょうか。
そうかもしれないですね。あとは悪ノリができるというか、ものづくり全般を楽しめるということは大切じゃないかと思います。
──彦久保さんにとって仕事していて面白いと感じるところや、デュエル構成をやっていてよかったと思うところはどこですか?
デュエルの流れを作っていて、意図せずにライフポイントがギリギリ残ったり、ちょうど0ポイントになったりすることがあると面白いです。「うわ、こういう数字になった!」って感動して、人に見せたくなりますね(笑)。あとはカード名を考えたとき、一応ほかの版権ものに出てくるネーミングと被ってないか検索するんですが、出てこなかったときは「よっしゃ!」とうれしくなります。
──「遊☆戯☆王」のカードには凝った名前のものも多いですよね。「
あれは綴りを見て「いけるぞ!」と思ったんです(笑)。シャークと呼ばれていた男がナッシュになり、じゃあどんなカードを使うんだよと。そのとっかかりとしてエースモンスターを考えるところから始めて思いつきました。
──カオスエクシーズ・チェンジしたときの名称も含め、まさにナッシュを象徴するようなエースモンスターでした。
あとこの仕事をしていてうれしいのは、子供に喜んでもらえたときです。「GX」に万丈目準という、呼び捨てされると怒って「万丈目さんだ!」と返すキャラクターがいるんですが、放送当時、子供たちが真似して「万丈目ー!」「さんだー!」と楽しそうにふざけているのを見たことがあって。
──なかなかそんな場面に遭遇できることはないですよね。
そうなんです。「万丈目さんだ!」は脚本家の鈴木(やすゆき)さんが考えたセリフで僕発信ではないのですが、作品に参加していた一員として、あの瞬間は一生忘れないですね。この子供たちのことを現場で(脚本家の)吉田伸さんにも話したんですが、実は吉田さんがこのエピソードをきっかけに考えたのが「一! 十! 百! 千! 万丈目サンダー!」のかけ声だったりします。
「バトルシティ編」の闇遊戯vs海馬で自信がついた
関連する特集・インタビュー
関連記事
あおいまなぶ@C103日曜東ワ59b @aoimanabu
「遊☆戯☆王」シリーズのデュエル構成・彦久保雅博に聞く、熱き決闘の舞台裏
インフェルニティもS・H・Ark Knightもこの人考案だったのか…
https://t.co/a4Wgf6l0F1 https://t.co/769aGHb45e